風そよぐ大地に、スザクは寝そべって草の奏でる音楽を聴いていた。
緑が大地を駆けるときの香りが鼻をくすぐる。
日本の大地、日本の風、日本の音。
そのどれもがスザクにとって幸せと安らぎを与えてくれた。
だけど彼に幸せと安らぎをもたらすものはもう一つ。

腕の中の彼女がモゾっと動いた。

それは昔の名前。終わった世界での名前。
彼女の新しい名前は、『
スザクのたった一人の大事な人…………。

…………。」

かみ締めるようにその名前を告げれば、が小さく「なぁーに?」と答えた。
ぎゅっとスザクは彼女を抱く腕に力をこめた。

「苦しいよスザク!!!そんなに抱きしめなくても、私は逃げないよ?」

クスリと彼女が笑う。
「だって………」とスザクが小さく呟いて、の髪に自分の顔をうずめる。
肺にの甘い髪の香りをたくさん吸い込んだ。
ヒュウと風が二人の髪をもてあそぶ。
しばらくしてが口を開いた。

「ねえスザク。今度スザクのおうちに遊びにいってもいい?
ちゃんとご両親にご挨拶したいの。あなた方の息子さんに、こんなに大事にされてますって。」

冗談めかすようには頬をやわらげた。
スザクは自分の両親に、と付き合っていることを話していない。
だけど薄々感づかれているようで、母親なんかにはニンマリ笑われ、
「今度お友達を連れてきなさい。」とほぼ毎日言われつづけている。
どうやらスザクの母親は、早く義理の娘が欲しいようで…………。
それが可愛いだと知れば、きっと自分以上に母親がを溺愛する気がスザクにはしている。
スザクは上機嫌な母親を想像して、疲れたように笑う。

「そうだね。今度遊びにきたらいいよ。多分、父さんも母さんも喜ぶと思う。
あ、じゃあ僕もの家に今度遊びにいくよ。」

の髪をなで、スザクは一瞬、いたずらっぽい笑みを浮かべてと同じように言う。

「あなた方の娘さんを、こんなに大事にしてますってね。」

「もぅっ!!!」

真似されたことを軽く怒り、また羞恥心のためか顔を赤くしながらスザクの胸を軽く叩いた。
スザクはそんな彼女に目を細め、の顎に手を置いて上を向かせると優しいキスを送る。
それはだんだん深くなっていく。
長い時間スザクのキスを受けたは、唇が離された瞬間、抗議の声を上げた。

「い、いきなりはダメっていつも言ってるでしょスザク。」

「そんなこと言われても、が可愛いから仕方ないよ。」

「スザ…………」

言葉が途切れたのは、ごろんと彼の腕から開放され、押し倒されたため。
スザクはの腕を草の上に押し付けると、にっこり笑う。
そして言った。

「もっともっとのこと、大事にしてあげる。
僕の父さんや母さん、のお父さんとお母さんが羨ましがるほど、深くね。
ねぇ………。早く僕たち、夫婦になりたいね。」

「………もう、いきなりそんな風に言われたら恥ずかしい。
でもスザク。私だって、スザクのこと、大切にするからね。」

柔らかい笑みを浮かべるは光輝く天女のよう。
スザクは自分の心にしみる言葉に一筋涙をながした。
ポタリと涙の雫がの頬に落ち、そのまま伝っていく。

「ありがとう。………。」

スザクは誰にも見せたことのない微笑を、に見せた。

今度はお互いの家族と、幸せに暮らそうね。
そしていつか、自分達も優しい家族を作っていこうね。










その後の話をしようか。










オマケ↓

数日後、がスザクの家に遊びにいくと、スザクの母親は上機嫌でをかっさらっていく。
畳の部屋に彼女を押し込み、桐タンスから沢山の洋服や着物やらを取り出すと、
に着せては写真を撮るという溺愛ぶりを披露した。
そんな時に起きた出来事………。

「あら?ちゃん、首のところ、赤くなってるわ。」

「え………?あ、そ、そのっ……これは………。」

慌てて赤くなった部分を押さえるを見て、スザクの母はすぐに理解し、ニヤっと笑って満足そうに呟いた。

「………スザクもやることはやってるのねぇ。早く孫の顔が見たいわぁ。
男の子でも女の子でも、きっとちゃんに似て可愛いと思うの!!!」

「まままままま孫ってそんなっ!!!」

女性陣がこんな会話を繰り広げている時に、男性陣も同じような会話を繰り広げていた。
枢木首相と息子・スザクの会話。

「スザク。お前虫にでも刺されたか?首のところが赤く………」

「あっ………そ、そう!?蚊にでも刺された……のかなっ?」

明らかに動揺している自分の息子を前にして、父・ゲンブは苦笑する。
自分の妻に似て、スザクは嘘がつけないのだなと。
ゲンブはスザクの肩を一回だけ叩き、「初孫が楽しみだ。」とだけ言って部屋を出る。
スザクはその場に固まって、父の後ろ姿を見ているだけになってしまった。

ゲンブは部屋を出ると声を殺して笑った。
そして思い出す。
そういえば、この前電話をかけてきた夫妻が、
「うちの娘をよろしくお願いしますね。」と言ってきたことを。
なるほど。自分の息子との子供がねぇ〜………と考えると、可笑しくてならなかった。
やはりとは、腐れ縁なのかと、外を見ながらゲンブは考えるのだった。