コンコンと扉がノックされる。
「どうぞ」とスザクが声をかけると、中に入ってきたのはオレンジ色の軍服に身を包んだだった。
彼女は人間のように見えるが、実はサイボーグ。
ブリタニアに作られた機械だ。
そんな彼女がスザクに聞きたいことがあるという。
彼は読んでいた資料を机の上に置いた。

「ねぇスザク、人はなぜ結婚するの?」

「……………は?」

彼はすぐに気の抜けた声を上げる。
だって、突然スザクの執務室にやって来たサイボーグが、
いきなり「なぜ人は結婚するの?」と尋ねてきたのだ。
スザクじゃなくとも気の抜けた声くらい出るだろう。
けれども彼女は真剣な目をいている。

「ええと…………」

彼はどう返そうかと悩み、ポツリと言った。

「それは………相手のことが好きで仕方ないからだよ。」

「……………。」

しばらくの沈黙。
まずいこと言ったのかなとスザクが考えていると、が口を開いた。

「それは、相手に好きって言えば、結婚できるってこと?」

ややこしいな………とスザクは頭をかく。
一度空を仰いでから、彼はまた言葉を発する。

「や、それは違うよ………。
お互いがお互いを愛してなくちゃ結婚しないと思うけど………。」

「それはお互いを愛してないと、結婚しちゃいけないルール?」

ますます変な方向に話が行っている。

「ええっと、そうじゃなくて………」とスザクは小さく答える。
はしばらく考え込む表情をし、ポツリと呟いた。

「愛するって………どんな気持ち?」

つぶらな瞳で尋ねてくる彼女に、スザクは言葉を詰まらせた。
どんな気持ち?と尋ねられても………。
これまでスザクが経験した愛する気持ちは苦しいものばかりだった。
だからスザクにとっての愛する気持ちには、常に痛みが伴う。

「それは…………」

スザクはから視線をはずす。
なんとなく答えづらくて言葉を飲み込む。
しばらく静かな時間が流れて、が先に口を開いた。

「スザクにも、分からない…………。」

「え?」

顔を上げると、彼女が視界に入る。
は無表情だったけど、その表情がどこか苦笑しているようにも見えた。
はそのまま言葉を続ける。

「人間が結婚したいと思う理由、ジノもアーニャもロイドも分からなかった。
愛する時の気持ちも。スザクにも分からない。
人間って、本当に難しい…………。」

そう言って、は部屋から出ようとする。
そして扉の前でぴたりと止まり、スザクを振り返って言った。

「私も人間だったら、結婚したいって思うのかな?」

その表情は、半分冗談めいた時の表情で………。
スザクは彼女の表情に一瞬ドキドキする。
そんなスザクを見たあと、彼女は不思議そうに首をかしげた。

「失礼しました」と礼儀正しい声が聞こえ、彼女の姿が消えていく。
がいなくなってから、スザクは額に手を当てて、深くイスに座った。

「さっきの顔、可愛かったな………。」

スザクはそう思う。
もしもが人間だったなら、彼女に恋をしていたかもと彼は思った。
分かっている。ダメなのだ。彼女に恋をしては………。
だって彼女は人間じゃない。でも…………
スザクは再び資料に目を通し、必死にのことと、浮かんだ考えを頭のスミに追いやった。





僕は機械じかけの少女に恋をする。