朝早くに家を出て、電車を乗り継ぐ。 メールで記された通りの駅で乗り換える。 だんだん多くなってくる人に嫌気がさしてきた。 でも人の多さは、同時にの胸を高鳴らせた。 の住んでいる街へ、近づいているという実感が持てたから……。 車掌の独特なアナウンスがして、ドアが開く。 人が一斉に降りていく中、も押されるようにして電車を降りた。 改札を出て、キョロキョロ辺りを見回すと、柱に体をあずけた少年を見つける。 相手もを見つけたようで、クールな顔が笑顔に変わる。 「っ!!!」 彼女の名前を呼んだ少年は、すぐにの元へと駆け寄ってきた。 目の前に立ったは、少しだけ背が伸びたような気がするし、アイドル並みにかっこよくなっていた。 すれ違う少女たちがをちらちらと見ていく。名残惜しそうな眼差しをして……。 「長旅で疲れただろ?」 やわらかい口調で彼は言う。 3年に上がった二人は、受験勉強でなかなか会えずにいた。 今回は何とか二人の予定が合ったおかげで、こうしてデートできるようになったのだ。 しかも本日のデートコースは……の家。 「うん、少し疲れた。だんだん人が多くなっていくんだもん。 って、こんなとこに住んでてすごいな……。」 の言葉には苦笑する。 「慣れだよ」と一言答え、は彼女の手を取った。 そのままエスコートしながら駅を出る。 人混みからを守るようにして歩くこと数十分……。 人がだんだん減ってきて、静かな住宅街に入る。 そこにある、一軒家の前では止まった。小さい庭つきの、まだ新しい家。 「俺の家へようこそ。」 握っていた彼女の手に口づけをしてそう言う。 は恥ずかしくなり、顔を伏せた。そんな彼女を見て、が笑った。 は耳まで真っ赤になっていたから……。 はの白い手を引き、家へと入る。 扉が開く音がして、エプロンをつけた中年の女性がリビングから出てきた。 「おかえり。 お母さん今から仕事に行くから、お昼ご飯は適当に食べてちょうだい……って、あら?」 女性の視線がに滑り落ちる。彼女は慌てて頭を下げた。 同時に上がる、彼の冷静な声。 「ん、わかった。あ、母さん、こっちは俺の彼女の。」 「えっ!?ちょ……!!!そんないきなり……。は、初めまして!!!です……。」 の母親は急なことで驚いた顔をしていたが、すぐに顔をほころばせる。 笑った時の目元がに似ていたし、堂島にも似ていた。 「彼女、わざわざ稲羽市から来てくれたんだ。今日は二人でゆっくりするつもりだから……。」 はそう告げると、の手をひっぱった。 「わわっ!!!お邪魔します!!!」 ニコニコする母親の横を、会釈して通り抜けた。 「へぇー……。あの子がついに、彼女を……ねぇ。」 二人の背中を見つめながら、の母親は玄関に置かれた時計を見る。 「あらやだ!!!もうこんな時間!!!そろそろ出ないとマズイわね……。 話は今夜、からゆっくり聞くことにしましょうか……。」 母親は荷物を取りにリビングへと戻った。 部屋に入ったは、すぐにを抱き締める。肩に顔を埋め、深く呼吸した。 の香りがして、彼は穏やかな気持ちになった。 「もぅ!!!ったら!!!」 「んー。仕方ないだろ。に全然会えなくて、欠乏症だったんだ。」 さらりと言葉を返すに、はぐっとつまってしまった。 正直に言うには、いつも顔が赤くなる。彼はこういうことを人前でも言うのだ。 もちろん、陽介たちの前でも……。 「離したくないな……。」 ぽつりとつむがれた言葉。 も小さく頷いた。確かに、彼と離れたくない。 今日と一緒にいられるのは、夕方までで……。時間が来たら、また長旅の始まりだ。 そのまましばらく、静かな時間が流れる。 腰に回る腕に力がこもった瞬間、は小さく言った。 「、今日はうちに泊まらないか?明日帰ればいい。母さんも喜ぶし、父さんにも紹介したい……。」 「え、でも……」 断ろうとした瞬間、唇がふさがれた。 深く口づけられ、離れた瞬間、熱っぽいの瞳にいぬかれる。 「は俺と一緒にいたくないのか?俺はと一緒にいたい……。だから、断らせない。」 真剣な表情の。 素直に答えろよと訴えかけられているようで、は小さく言葉をつむぐ。 「う、うん。それじゃ今日は泊まらせてもらう。私もと……一緒にいたい。」 彼女の答えに満足そうな顔をする。 「じゃあ……」という声に、の体はふわりと浮く。 気付けばにお姫様だっこされていた。 「えっ!?っ!?」 「、ごめん。もう限界だ……。」 言葉の次に、が覆いかぶさった。 そのまま二人、甘い世界へ溶けていく。 時間が止まればいいのにな……なんて考えるだった。 それはきっと、彼女も思っていることだろう。 |