「ってことで、とスザクの2人で買い出しに行ってき・な・さ・い!!」

にっこりと笑ったまま、ジノが買い物リストをに渡す。
何気なくリストを見て、彼女は驚きの声を上げた。

「ええーっ!?これ全部っ!?」

リストにはびっしりと文字が並んでいる。
ジノが愛用している香水だとか、アーニャが必要としている携帯のメモリーカードなど、
日用品から雑貨品までずらりと揃っていた。
横からスザクもひょいとメモをのぞき苦笑する。

「私なんて文具とか化粧水とかだけなのにっ!!!」

は小さく悲鳴をあげた。
でも、ジャンケンで負けたのだから仕方ない………。
スザクはの持ってる買い物リストを奪い取り言う。

「大丈夫だよ、僕が荷物持ちするから。」

「おっ、たくましいなスザク。
それじゃあいってらっしゃい!!!お若いお二人さん!!!」

笑顔のまま、ジノは2人を寮から追い出す。
バタンとドアが閉められ、「ジノだって若いじゃない!!」とは文句を言った。

今日のの格好は全てアーニャのコーディネイト。
密かにアーニャはを飾るのが好きなようだ。
いつもそのままおろしている髪は今、ポニーテールにされていて、
黒と白のレースがついたシュシュをしている。
服はレース全開の黒いワンピースのような服。
アーニャがこの服をに着せた時、
ポツリと「ゴスロリ………」と言ったのをスザクは聞いている。
そんなこと知らずに、は真っ赤になっていたのだが………。
横にいる彼女を見て、赤い髪にゴスロリって似合うなぁとスザクは思っていた。

「あーあ、私ってジャンケン弱いのかな。
まさか最初っから負けるなんて。しかも私とスザクがチョキで、
その他のみんながグーなんて、なかなか起きない奇跡よね………。」

「まぁ、そうだね。ホント、すごい奇跡。」

僕にとっても…………。スザクは口に出さずそう思った。
こんなふうに、との日常を楽しめるなんてすごく嬉しい。
だって彼女は皇女で、それからエンジェルズ・オブ・ロード。
そして自分はナイト・オブ・ラウンズ。
いつも戦いの中にいて、敵と命のやり取りをしている。
アッシュフォードで過ごすのも戦いを離れた日常だったが、そこにはいない。
ずっと望んでいた、恋人のように過ごせる時間。
それが今、ここにある………。

「ねぇ、せっかく街に買い物に来たんだし、いろいろ見て回ろうよ。」

「え、でも頼まれたもの買わなきゃいけないでしょう?」

彼女はそういって、小さく首をかしげる。
その仕草がいつも以上に可愛く見えた。肩にかかった長い髪がはらりと落ちる。

「もちろん、ちゃんと買うよ。でもたまには息抜きもいいんじゃない?
アッシュフォード学園の女の子たちは、こういうふうに学校帰りに寄り道してるんだよ。
自分に似合う服を見つけたり、おいしいものを食べたり、おしゃべりしたり………ね。
もやろうよ、そういうこと。君だって、女の子なんだから。」

スザクはの手を握った。とても温かい。
「う、ん…………」と彼女は少し考えて、困った顔で囁いた。

「そういうこと………したことないから、スザクをいっぱい困らせるかも。
私って、結構熱中すると周りが見えなくなるし、スザクを振り回しちゃうかもしれない。」

そして下を向く。彼女がショッピングにあまり乗る気じゃなかったのは、
そんなことを心配していたのかとスザクは思う。
両手での頬を包み込み、上を向かせると彼は告げる。

「僕はとそういうことしたいって言ってるんだ。振り回してくれいいよ。
熱中してくれてもいいよ。僕はね、と一緒にいることが幸せ……。」

ポカンとしてスザクの言葉を聞いていただったが、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
瞳をそらして彼女は呟いた。

「じゃ……じゃあ、いいよ。そういうこと、やっても………。」

彼女の言葉を聞いて、スザクはにっこり笑った。
の手を自分の腕とからませ、そのまま歩き出す。

「ちょっ……スザク!?はずかし………」

彼女の訴えなんておかまいなし。彼は優しくをエスコートしつつも思う。

(だってこうしないと、に悪い虫がついちゃうじゃないか。)

横目で周りを見ると、男たちの目がを捕らえている。
当の本人は恥ずかしそうに俯いているだけだが。

「ね、ねぇスザク。どこに行くの?」

「そうだねぇ。まずはに似合うアクセサリーでも買いに行こうかな。僕が買ってあげる。」

いつもの笑みを崩さずスザクが言うと、は彼の顔を見て驚く。

「え、そんなの自分で買うよ!!!」

「いいんだ。僕がに買ってあげたいんだから。
それに、せっかくもらってるお給料、たまには使わないとね。」

嬉しそうにそう呟くスザクを見て、は黙るしかなかった。
彼の顔がいつも以上に幸せそうだったから。

(まぁ、いいか………。)

そのままスザクに気付かれないようにふわりと笑う。
こんなふうに幸せそうな顔をするスザクなんて、今まで見たことがなかったから。
そんな彼女の横で、スザクはこっそり、ジノから渡されたメモとは違うメモを広げる。
それは買出しに行く前にアーニャからこっそり渡されたメモ。
そこにはジノからのメッセージと、アーニャの要求が書かれていた。

『スザクへ。
俺たちからのサプライズ!!!
こうもうまく2人がジャンケンに負けてくれるとは思わなかった。
せっかくのサプライズなんだから、と今日1日、楽しんでこいよ?
買出しのことはまぁ、ひとまず忘れとけ。それじゃーな!!! by GINO 』

『スザク、私の欲しいもの、買ってきて。
に似合うアクセサリーと服。それからドレスとかも……。
それじゃあ、よろしく。  by ANYA 』

そこに書かれた二人からのメッセージを見て、スザクは一人で苦笑した。
あぁ、ジノたちが奇跡を起こしてくれたんだな……と。
そんなこと、君は知らないんだろうけど……。
自分の横にいる大切な存在を見て、彼はそう思った。






A miracle occurred then.








↓オマケ

「しっかしこうもうまくいくとはな……。
けどよくとスザクがいつも最初にチョキを出すって気付いたな、ライ。」

「僕はこれでも観察力はあるほうなんだよ?ふふ、うまくいってくれてよかったね。」

「私も、のゴスロリ姿を写真に撮れて満足……。」

「……まさかアーニャ、それ、ブログに載せたんじゃあ……?」

「載せちゃ……ダメ、なの?ちゃんとのアルバムも作ってるの。ほら。」

携帯の画面を見せられて、ジノとライは凍りつく。
ネコ耳姿のや、どこから手に入れたのか、アッシュフォード学園の女子学生服姿の写真まであったから。
そして恐ろしいのが、それがアーニャのブログで公開されているということ。
さらには、アーニャの心の中に潜むマリアンヌが、これらの写真を見て大喜びしていることを、
アーニャ自身は知らないのだ。