1月14日。は可愛らしい箱を持って、ベルベットルームへ続く扉の前に立っていた。
すぅ……と冷たい空気を吸い込み、青い扉を開ける。
鼻の長い老人と、イエローの綺麗な瞳を持つ青年がこちらを向いた。

「ようこそ、ベルベットルームへ。」

すぐに青年の表情が和らぐ。暖かい眼差し。
は青年にとって大切な客人であり、恋人でもあるのだ。
は真っ赤な顔をしながら青年に近づいていった。

「あ、あの……ね、テオに渡したいものがあるの……。」

手に持った箱に視線を落とす
テオドアは何かを察し、主へと顔を向けた。

「イゴール様、少々出かけてまいります。」

イゴールは静かに頷く。
スッ……とテオドアの手が掲げられ、ベルベットルームに響くパッチンという音。
二人はいつの間にか、の部屋にいた。

「あなたと二人きりになりたくて、つい荒業を使ってしまいました。」

テオドアが照れたように笑った。そのまま、可愛らしい箱に視線を落とす。
「それは?」という視線を向けられて、は慌てて口を開く。

「あ、これ……バレンタインのチョコレートなの。
本当は2月14日に渡すんだけど……」

そこでは口をつぐんだ。
1月31日を過ぎれば、テオドアとはもう会えなくなると知っているから。
デスに勝っても負けても……。
戦いに負ければ、この世界の命が全て滅びる。
勝てば……もう、ペルソナは必要なくなる。
つまりは、ベルベットルームの客人じゃなくなるわけで……。

少しだけ、肩が震えた。
そんなの肩を、テオドアが優しく包み込む。

「……あぁ、私はやっぱり、あなたに悲しい思いをさせてしまう。」

体が離され、の手の中にあったチョコレートの箱がテオドアの手の中にうつった。

「開けてもよろしいですか?」

そう問われ、は頷いた。
たとえ会えなくなってしまっても、それでいいと決めた自分。
チョコレートは、精一杯の愛で作った。

テオドアが箱を開けると、綺麗な形をしたチョコレートの数々。

「テオドアはビターチョコレートが好きそうだから、ビターチョコレートにしたのよ。」

茶色の一粒をつまみ、口に入れる彼。
そのままテオドアは、の腰を引き寄せた。
唇に優しく触れる暖かい感触と、広がっていく程よい苦み。
その苦みがなくなるまで、テオドアの口付けが続いた。

唇が離され、は真っ赤になって俯く。
「いきなりなんてずるい」と言えば、テオドアは耳元で囁いた。

「あなたが寂しくならないように、沢山思い出を作っておきたくて……。」

そうしてまた、テオドアがビターチョコレートに手を伸ばすのだった。







ビターチョコレートキス