スザクが転入してきたとき、ルルーシュは危機感を感じて斜めの席に座る彼女を見た。 こげ茶色の髪の少女は、じっとスザクを見ていた。 違う、あれはスザクの瞳を見つめている。きっと翡翠の瞳が綺麗だと思っているのだろう。 その彼女――――は感受性がとても豊かだった。 初めてと話したときも、彼女はルルーシュの瞳を見つめて呟いたのだ。 『綺麗な瞳の色ですね。私、そういう色………好き。』 その時初めて、人を好きになるという気持ちを知った。 今では彼女が好きで好きでたまらない。だから危機感を覚えるのだ。 ・は、枢木スザクが好みのタイプだったから………。 「最近ルルーシュさぁ、やけにちゃんと親しげじゃない? 今日だって本のことで休み時間盛り上がってたでしょ。何?狙ってんの? 君モテるんだからさぁ、あんなに地味な子と仲良くしなくてもいいんじゃない? 他にもっと可愛い子いるでしょー。まぁ………ちゃんも美人の部類に入るよ。 でもさぁ、こうもうちょっと…………」 「うるさいぞ、リヴァル。」 生徒会室で、ルルーシュはカタカタと気にせずパソコンを打ち続けた。 ソファに座って漫画を読みながら話すリヴァルは彼を見て、訴え続けた。 「だって思わない!?アッシュフォードって結構可愛い子沢山いるし。 カレンにシャーリー、その他大勢の可愛い女子生徒の憧れの的なんですよあなた!!! それなのになんであんな地味な子と仲良くするかなー………」 分からないといったふうに、リヴァルはカリカリと頭をかく。 ルルーシュは呆れ、ため息をついて打ち込みの作業をやめた。リヴァルのほうを向き直り、言葉を添える。 「とは気があうんだよ。話もよく聞いてくれる。 俺は案外見かけを気にしないタイプなんだ。地味だからとか、そんなのどうでもいいだろう? それよりリヴァル、仕事をしろ。全部俺に押し付けるな。」 再びパソコンに向かってルルーシュは打ち込み作業を始めた。 「ちぇ………」とリヴァルは呟いて漫画を閉じ、大きく伸びをする。 そのまま思いついたように「あ。」と声を上げたので、ルルーシュは「なんだ?」と言う。 リヴァルは独り言のように呟いた。 「そういえばこの間、スザクにちゃんのことを聞かれたよなーって思って。 スザクってさ、ああいう地味な子好きそうだよな。 ってか今週はちゃんって確か図書当番だったから、図書館に行ったスザクと鉢合わせしてそうだ。」 がたんっ!!! 突然激しい音がして、リヴァルはびくりと肩を揺らした。 音はルルーシュがイスから勢いよく立ち上がったために発生したのであり、どこか彼は焦っているように見える。 そのままルルーシュはドアへと向かった。 おかしさをこらえてリヴァルは彼に尋ねる。「ルルーシュ君、どこへ?」と。 そうすればルルーシュは背中を向けながら答えた。 「少し用事を思い出しただけだ。」 あくまで冷静に。そして部屋から消えていった。 彼がいなくなるとリヴァルは一人、腹を抱えて笑った。 「全く。素直じゃないなあルルーシュは!!! ちゃんのことが好きなら好きって、ちゃんと言えばいいのに。 何が『気があうから。』なんだよ。スザクの名前を出しただけで、あんなに取乱しちゃって………。 でも―――――――不安にもなるよな。確かにちゃんはスザクの好きそうなタイプだし、第一目が本気だった。 会長にはだまっといてやるかー。」 リヴァルはごろんと寝転んで、再び漫画を開いた。 もう日がとっぷり暮れて、時計は午後7時近くをさしていた。 図書館はそろそろ閉まるころだろう。今日は彼女と一緒に本屋へ行く約束をしている。 まだ生徒会の仕事が終わっていないが、を迎えに行って、それからすぐに取り掛かれば終わるだろう。 幸いにもあと少しで終わりそうだし………。 閉館間際の図書館では、人が出て行くばっかりで、ルルーシュのように館内に入ろうとする人はいなかった。 すれ違う人を横目で見つつ、ルルーシュは目当ての人物を探す。 カウンターにはいなかった。かわりにルルーシュの貸した本が丁寧に置かれている。 少し前まで、彼女がここに座っていたという証拠。今本の整理をしているところなのだろうか………? ぐるりと見回すと、こげ茶色の髪がゆらゆら揺れているのが本棚の影から見えた。 その横にいる人物の横顔も………。 枢木スザクだった。ルルーシュは一瞬にして固まる。彼の瞳が、恋する眼差しだったから。 何を話しているのか気になって、ルルーシュはこっそり二人に近づいた。 「あの………同じクラスの枢木君だよね?」 「う、うん!!!そうだよ。」 「あの………ごめんね、さっき勝手にノート見ちゃったんだ。 あのね、計算間違いしてたみたいだよ。Xは8じゃなくて3にならなくちゃだめなの。」 「あ、そうだったんだ。だから僕、その先の問題が解けなかったんだね。」 スザクに頷くが、ルルーシュにはいつもより可愛く見えた。 しかし次の言葉で、彼は眉をひそめ一気に不機嫌になった。 「あの………もし迷惑じゃなかったら、今度から勉強教えてあげるけど。 だって枢木君って、軍のお仕事と授業掛け持ちしてるでしょ?この前も学校休んでたし………。」 「まさか!!!迷惑だなんてそんな。とっても嬉しいよ。 ルルーシュは生徒会で忙しそうだったから、頼みづらかったんだ。有難う、!!!」 「ううん。スザク君の役に立つのなら、私も嬉しい。」 ルルーシュは気安く『』と呼ぶなと思う。 そしてがスザクに勉強を教えるくらいなら、無理にでも時間を作って自分が教えたほうがいいと同時に思った。 をスザクに近づけたくない。それは彼の独占欲がそう思わせる。 (まったく、いつから俺はこんなに独占欲が強くなったんだ………) ルルーシュは本棚の影からじっと、スザクを睨みつけるのだった。 もういっそのこと、スザクよりも早く、に告白してしまおうか………。 |