シャーリーと話していると、ふわりと優しい香りが横を通りすぎる。 フレッシュフローラルの淡い香りに誘われて、ちらりと目を向けた。 肩まであるストレートヘアーが歩みに合わせて揺れている。 俺はこの香りとこの髪型を知っていた。 いや、知っているだけじゃない。いつも自然と目で追ってしまっていたんだ。 今通り過ぎた人物そのものを……。 「……ってルル!!!ちゃんと聞いてるのっ!?」 「あ、ああ。すまない。少し考えていたんだ。続きを話してくれ、シャーリー。」 「もうっ。それでね、会長にそのことを話したんだけど……」 目を向けた先にはもう、彼女はいなかった……。 彼女の名は、・。同じクラスメイト。 どこぞの貴族の令嬢だというが、彼女はすごく庶民的だった。 持ってるものも他の貴族の女子学生と違ってブランドものじゃなく、クラスの女子とお揃いのもの。 高飛車なわけではなく、いつも優しくてふんわりしている。 化粧はナチュラルメイク。シャーリーはが化粧上手だと誉めていたな。 香水はフレッシュフローラル。この香りはいつも同じ。変わることはなかった。 俺は朝学校に来てから帰るまで、自然とを探している。 朝登校してきてから、夕方帰るまでずっと……。 そう。俺は……に恋をしているのだ。 最初はほんのささいなことだった。 落としたプリントを一緒に拾ってくれたり、図書館で偶然出くわしたり、日直になったり……。 顔を合わせると、いつも彼女はにっこり笑う。あの笑顔が好きだった。 「ルルーシュ君……?」 教室でぼうっとしていた俺に、声がかかった。 花をいけた花瓶を持ったままのが、驚いた顔をしている。 まだ残ってたんだという言葉を聞いて、腕時計を見る。 夜の7時を回っていた。焦って慌てて席を立つと、彼女はクスッと笑う。 「ルルーシュ君も慌てることだってあるんだね。いつも冷静な顔をしてるくせに……。」 「慌てることぐらいあるさ。俺だって人間だからな。 それより。こんな時間にどうしたんだ?」 彼女は俺の横を通りすぎ、教室の窓際の隅に花を飾った。 「お花の水、替えるの忘れちゃってて。ほら、私今日日直だったでしょ? 部活中に思い出して、終わってから替えにきたの。」 優しい手つきが花を綺麗に整える。 その時のは美しかった。 ごくりと喉がなる。なんて穢れなき存在。 俺はのそばまで歩き、横に並んだ。 花瓶にいけてあるのはピンクのガーベラ。担任の先生が気まぐれに買ってきた代物。 ふわりとフレッシュフローラルの香りが漂ってきた。 花の香りじゃない。これはの香り……。 「いい香りだな。俺はこの香りが好きだ。」 「え、そう……かな。香りはあんまりしないはずだけど……。」 戸惑うに、ぐいっと顔を近づけた。 不敵に笑ってみせ、言葉をつむぐ。 「俺が言ってるのは、の香水のことだ。俺はいつも、この香りに誘われる……。」 足を一歩踏み出した。反射的には後ろに下がる。 けれども彼女の背中はすぐに壁にあたった。 が逃げられないように頭の横に手をつく。 「ル……ルーシュ、君?」 少し怯えたような瞳を向ける。 ああ……笑顔も好きだが、そういう表情も好きだ。 「……聞いてほしいことがある。」 そこで言葉を切って、俺はの耳元に口を寄せた。 そのままゆっくりと口を開き、小さな声で言う。 「ずっと前から、お前が好きだった。お前の姿と香りをずっと追っていたんだ……。」 の目は、大きく開かれた。 何も言わず、ただ俺を見つめるだけ。 俺はそんなの表情を頭の中に焼きつけた。 さぁ。俺の告白に対して、お前はなんて答える? まぁどちらにしろ、そうやすやすとこの状況を手放したくないがな……。 |