アッシュフォード学園の学園祭が近づいていた。 三年生になったスザクたちのクラスでは、ホームルームになると今年の文化祭は何を出すかで話し合いを始める。 模擬店やら人気者コンテストやらの案が上げられ、クラスはざわめき立った。 委員長とクラスメートの声が飛び交い、クラス内はそれだけで騒がしい。 けれどもはその雰囲気が好きだった。彼女にとって、初めての学園祭だから……。 (ふふ、学園祭なんて初めて!!!わくわくしちゃうな。 これもアッシュフォード学園に入ろうって言ってくれたジノのお陰ね。) ニコニコしながら案の書かれた黒板を見る。 模擬店、人気者コンテスト、お化け屋敷、喫茶店……。 どれもこれもが楽しそうに見える。 けれども、一番やりたいのはお化け屋敷かな……なんて考えた時、の後ろで元気な声がした。 振り返るとミレイが大きく手を上げている。 委員長の指名を受けたミレイは、一瞬いたずらっぽく笑ったあと、クラス全員に聞こえるようにハッキリ言った。 「はーい!!!提案なんですけど、演劇がやりたいでーす!!!」 その言葉のあと、意味ありげにを見たミレイの意図を、自身はこのあと知ることとなるのだった。 学園祭の話し合いが終わって数日後。 スザクは、生徒会室にも教室にもいないを探し回っていた。 結局今年の出し物は、ミレイが提案した演劇に決まった。 シナリオはミレイ自身が書き、配役も彼女が決め、多くのクラスメートがミレイの決めた配役に賛同した。 題目は『人魚姫』。道具や衣装はミレイが協力するということで、本格的なものになりそうなのだ。 スザクも大道具などを作ってそれなりに貢献している。 けど、気になることも多くあった。もちろん、気に入らないことも……。 屋上へと続くドアを開けると、スザクの探している人物がそこにいた。 『人魚姫』と書かれた台本を片手に、が難しい顔をして演技の練習をしていた。 「、見つけた。」 スザクはそう言って、後ろから彼女を抱き締める。 びくっとは体を反応させたが、相手がスザクだと分かると体を彼にゆだねた。 「びっくりした……。スザクが来たことに全然気付かなかったわ。」 「だってってば、すごく集中してたよ。今、どこの場面の練習してたの?台本見せてよ。」 スザクはそう言って、彼女を抱き締めたまま台本をのぞきこむ。 そう。はこの劇で人魚姫役なのだ。 ミレイが演劇の提案をした時に、意味ありげに彼女を見たのはそういう理由だったのかと、スザクは思った。 場面は王子と人魚姫がパーティーでダンスをするところ。 スザクはその場面を想像して、顔をしかめた。 なぜならの相手役……王子役はルルーシュなのだから。 「えっと、今練習してるのは、人魚姫と王子様がダンスをする場面。 けど、難しいわ。だって人魚姫って声が出せないでしょ? 表情だけで気持ちを表さなければいけないのよ……ってスザク?どうしたの?」 台本を見つめたまま、黙ってしまった彼。 心配そうにスザクに瞳を向けようとした時、スザクがをパッと放した。 「ねぇ。ダンスの練習しようよ。」 突然の申し出に、は戸惑う。しかしスザクはすでにの手をとり、腰に手を当てていた。 「ダ……ダンスって……。社交ダンスは苦手だって、スザク言ってたのに?」 「僕もそれなりに上達したんだけど?」 にっこり笑ってそう答えるスザクは、をリードしながら緩やかなステップを踏む。 音楽はなかったが、まるで音楽があるかのように踊る二人。 「スザク、社交ダンスうまいのね。」 ポツリとが言った言葉に、スザクは怪しく笑う。 「僕もナイト・オブ・ラウンズだからね。 これまで参加したパーティーでは、必ず社交ダンスはしないといけなかったから。 それに、踊ってくれませんかって誘われることもいっぱいあったから、苦手じゃダメかなって思ってさ。」 「そう……なんだ。」 スザクにそう返事をしたあと、は浮かない顔をして俯く。 としては面白くなかった。大好きな人が、他の女の子と踊る姿なんて想像したくない。 こういうのを何て言うんだっけ? (あぁ、私ってなんて心が狭いんだろ。 スザクはナイト・オブ・ラウンズだから、社交ダンスするなんて礼儀の一つなんだろうし。 私にはちゃんと分かってるじゃない。スザクは私のこと、好きでいてくれてるって。 でもやっぱり……なんだか他の女の子に、スザクをとられてしまった気分……。 こういうの、嫉妬っていうのかな?) そんな考えが、頭の中でぐるぐる回っていく。 不意にスザクがダンスをやめたので、は俯いたままだった顔を上げた。 スザクと瞳がぶつかり、はすぐに目をそらした。 「、もしかして……嫉妬してる?」 「……っ!!!し……してないよっ!!!嫉妬なんてしてないもんっ!!!」 大きな声で否定するが、彼女の表情はどこか悲しそうな不安そうなものだった。 (って、ホント嘘つけないよね。) 心の中でスザクは笑う。 (まぁ、成功かな?、僕が他の女の子と踊る姿想像して、ちゃんと嫉妬してくれたんだ。) 普段めったに見ない彼女の一面。 嫉妬してくれた彼女はすごく可愛くて……。だから余計に、スザクは少し、ルルーシュに腹がたった。 彼女を抱き寄せると、今までよりも強くを抱き締める。 「スザクっ。スザク、ねぇ、苦しいよ……。」 「、否定しても無駄だよ。さっき嫉妬したでしょ?僕には何でも分かるんだから。 あのさ、嫉妬してくれてちょっと嬉しかったし、嫉妬した君はすっごく可愛かった。だからかな。 余計ルルーシュに腹が立つ。君とルルーシュの演技見てるとイライラするんだ。 は僕のものだって、叫びたくなる。僕が嫉妬しないとでも思ってた? そんなわけないじゃない。叶うなら、学園祭が終わるまで、をどこかに閉じ込めておきたいよ。」 「スザク………。」 の呟きが聞こえたあと、彼はの肩に顔を埋めた。ふわりと優しい香りがする。 (この香りは、俺だけのものだ。) そう思った時、頬に柔らかい感触があった。 驚いての顔を見ると、リンゴのように真っ赤になったが、恥ずかしそうに瞳を伏せて言う。 「あ……あのね、ホントはさっき、スザクと他の女の子がダンスする姿を想像して、嫉妬した……の。 嘘ついて、ごめんなさい。あと、スザクもルルーシュに嫉妬したって聞いたとき、ちゃんと伝えなきゃって思ったの。 でも、口で言うより、ああしたほうがいいかなって思って……。 私、スザクみたいにうまくキス、できないから……その、頬っぺただけど……」 そのまま口をつぐんでしまう。 スザクは微笑んで、に顔を近づけた。 「、ちゃんと僕を見て?のキス、すごく嬉しかった。だからこれは、そのお返しね?」 「……え?ちょっ、スザ………」 彼の名前を叫ぶよりも早く、スザクがの唇を塞ぐ。 とろけるような甘いキスに、は瞳をとじて体をスザクにゆだねた。 心の底では、人魚姫の相手役がスザクだったらよかったのに……なんて思いながら。 ルルーシュには悪いかなって思うけど、やっぱり…… |
オマケ↓ 「あのさ、しばらくルルーシュとの演技は続くわけだよね? だったら、が俺のもだって、しっかりルルーシュに分からせなきゃ……ね。」 しばらくして、スザクが怪しく笑った。 は身の危険を感じてスザクから離れようとするが、時すでに遅し。 (スススススザクの一人称が、『俺』に変わった!!!) スザクの一人称が変わり、このあと起きることと言えば一つしかない。 「、今日は俺がいっぱい愛してあげるから。 もちろん、ちゃんと君が俺のものだっていう証拠もたくさんつけてあげるからね。」 「ブ……ブラックスザクのばかぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!」 のそんな叫びは、夜が訪れかけた空の彼方に消えていった。 →前言撤回っ!!!(by) ------------------------------------------------------------------------------------------------------------ たいへんお粗末っ!!!(ゲフン)拍手ありがとうございました!!! |