春。それは何か新しいことが始まる時期。 学校に入学する人、仕事を始める人、新しい場所で生活する人……。 そんなことが溢れている季節。私……もそのうちの一人。 学校に着いた私は、張り出されたクラス分けを見て、大きく目を開いた。 私のクラスには、『芸術プリンス』と呼ばれている3人のイケメン学生が揃っていたからだ。 「……なんか……複雑。」 彼らがいるということは、この1年、静かな学校生活は送れないかもしれない。 彼ら目当てに、普通科の女子や芸術科の女子たちが押し寄せてきそうだから。 唯一の救いは、私の所属する芸術科の2学年に女子がいないことなのかも……。 なんだかすごく微妙な救いだけど……。 そう。私の学年には、他に女子がいない。 どうしてそんなことが起こったのかは不明だけど、たまたまその年に入学したのが私だけだった。 最初はすごく戸惑ったけど、普通科に中学からの友達もいるし、 学校に女子がいないというわけではないので、今では何事も心配なく過ごしている。 私はそのまま、自分のクラスである教室に入った。 席には自分の名前シールが張ってある。 窓際の後ろから2番目。 ふと自分の後ろの席を見ると、すでに誰かが座っている。 彼はうつ伏せになったまま、スヤスヤ眠っていた。 (誰だろう……?) そっと机に貼られた名前シールを見て、私は身を固くした。 『葛川志摩』 そう書かれた名前シール。間違いない。彼は芸術プリンスのうちの一人。 その中でも、女性の先輩に人気がある。 私はそのままストンと自分の席に座った。 (どうしよう……。) うるさいのは苦手なのに、こんな人気のある人の近くだなんて……。 じっと考えている間に、何人かの学生が入ってくる。 その中に混じった一人の綺麗な顔を持つ学生が、私のほうへと向かって来ていた。 (こ……この人……) 鈴原湊。確かそんな名前だった。彼もまた、芸術プリンスのうちの一人。 彼は無表情で私の近くまで来ると、隣の席に座った。 なんだか嫌な予感がして、私はそっと、隣の席を覗き込む。 (嘘……。この人とも席が近いの!?) 机に貼られた『鈴原湊』の文字。 私は自分の机に視線を落とした。頭の中では混乱しっぱなし。 そんな時、威勢のいい声が響いた。 「おっはよー!!!」 「恭理、おはよ!!!」 「十和田、またお前と同じクラスかよー。」 「なんだよ。俺が一緒のクラスで不満かー?」 頬を膨らませて、彼が近づいてくる。私は瞳を上げて、彼を見ていた。 向こうも私に気付いたみたいで、「お?」という声を上げた。 私の前の席に座ると、こちらを振り返って笑う。 「可愛い子発見!!!俺は十和田恭理。造形コースでっす!!!」 前の席に座った十和田君が、慣れた感じで挨拶するので、私も慌てて自己紹介をした。 「音楽コースのですっ……。」 私の名前を聞いて、十和田君は一瞬だけ驚いた顔をする。 どうしてそんな顔をするんだろう……? 首をかしげたとき、彼は口を開いた。 「ちゃん……っていうんだ。そっか……君がちゃんか。」 何か意味ありげに私の名前を繰り返す十和田君。 戸惑っていると、十和田君がニッと笑う。白い歯がチラリとのぞいた。 「とりあえず、どーぞこの不甲斐ない王子をよろしくお願いしまーす。」 冗談めいた言葉に、私はとあることを思い出す。 そういえば十和田君って……芸術プリンスのうちの一人……じゃなかったっけ? ピシリと私の体は固まってしまった。そんな中、頭だけが冷静に働く。 ということは……私、芸術プリンスに囲まれて、しまった? 「あ、あの……よろしく……ね。」 ぎこちない笑みを向けると、十和田君がちょっとだけ寂しそうな笑顔を見せた。 けれどもすぐに、その寂しそうな表情は消え去った。 そのまま彼は、近くに来た友達に話かける。 私はぼんやり十和田君を見たあとに、周囲を見渡す。 隣の鈴原君は本を読んでいて、後ろの葛川君はまだ眠っていた。 自分には縁がないのだろうと思っていたのに、 ひょんなことから女子の注目の的である彼らに囲まれてしまった私。 一体これからどんなことが起こるんだろう……? 私は窓の外に広がる青空と雲を眺めるのだった。 |