反命 の ロロ #01 洗濯物を取り込もうと、ロロはベランダへと出た。 じりじりと日差しが照りつける。この前まで冬だと思っていたのにもう春が来た。 あの寒さはどこへ行ったのやら……………。ロロはそう思う。 ここエリア7は、先日までは雪が降っていた。 しかしそれはとっくに過ぎ去り、季節はもう春。 色とりどりの花が、その訪れを告げていた。 彼は洗濯物かごを手に、パタパタと風にあおられるシーツを見た。 真っ白。いつもこの真っ白のシーツに包まれて眠る。 お日様の香りをたくさん吸収したシーツを、ロロは丁寧にかごにおさめた。 ふと、城の外に目を向ける。 エリア7の農家の人と一緒に、自分の兄である・ルシフェルが野菜を収穫していた。 泥だらけになりながら笑うを、ロロはじっと見つめる。 エリア7は平和な土地だった。 今、エリア11ではゼロと呼ばれる人物が黒の騎士団という組織を率いて反乱を起こしていると聞く。 だけどそれは異世界の出来事のような感覚。 この土地を治めている総督は、そういうことが嫌いだから…………エリア7は決して、加担しなかった。 これからもそう。たとえ要請があっても、絶対に。 「ロロ?洗濯物、取り込めた?」 ふいに名前を呼ばれ、びくりと体を反応させるロロ。 後ろを振り向けば、赤い髪をなびかせた少女が立っていた。 この少女こそ、エリア7の総督を務める者。名前を、・ルゥ・ブリタニア。 ブリタニア帝国の皇女であり、ロロの姉だった。 「姉さん!!!もう、おどかさないでよ。 シーツは全部取り込んだから、あとは洗濯物を取り込むだけだよ。 あ!!!姉さん、あそこに兄さんがいるんだ。みんなで野菜を収穫してるよ!!!」 ロロはかごを下において城外を指差した。 はロロに指差されたほうを見て、うんざりしたような声を上げる。 額を押さえて、顔を下に伏せた。 ロロはその仕草が気になり、「どうしたの?」と尋ねる。 彼女はぐったりした声で言葉を返した。 「だって…………見てよのあの格好。あんなに泥だらけになって。 洗濯する身にもなってよね。あぁ〜もう!!!総督の仕事も溜まってるっていうのに……………。」 「だ、大丈夫だよ姉さん。僕もちゃんと洗濯手伝うから!!! 兄さんだって、悪気があったわけじゃ―――――――」 「悪気がないから尚更厄介なのよ!!! が頑張ってるのは分かってるし、のおかげで新しい野菜が育つようになったのも分かる。 でも毎回毎回ああいうふうに泥だらけになられたら、うちの洗濯機はどうなるのよ!? もう!!!誰よっ!?に園芸なんて教えたのは……………っ!!!」 さんざん愚痴をこぼすを、ロロは苦笑気味で見ていた。 そして小さく彼女の問いに答える。 「それは…………えっと、おじさんだと思うよ? 兄さんは意外に園芸のセンスがあるって、昔すごく褒めてたから。 それからおばさんも…………兄さんの育てる花はとても綺麗だって――――――」 「もう!!!がああなったのは、おじい様におばあ様のせいねっ!!!」 勢いよく、は顔を上げて遠くのをにらみつけた。 怒ってる…………。ロロは横からみて、冷や汗をかく。 でもちゃんと、彼にだってわかっているのだ。は本気で怒ってるわけじゃない。 こんなに愚痴をこぼしてても、本当はのことを慕っているのだ。 とはとても長い付き合いだから…………。 「とにかく姉さん、洗濯物入れちゃおうよ。日がかげっちゃう!!! その愚痴は、兄さんに直接言えばいいんじゃないかな…………?」 ロロはそう言って洗濯物を、置いたかごの中へと放り込んでいく。 「そうね。」とも答えて、ロロを手伝った。 洗濯物を取り込みながら、ロロはそっとの姿を見た。 赤い髪が夕日に照らされてキラキラと輝いていた。とても綺麗………。 自慢の姉だった。頭も良くて、美人で優しい。ロロはそんなが大好き。 いいや、だけじゃない。のことも。 どこかとぼけているけれど、のんびりした性格だけど、時に鋭い感覚を持ち合わせている。 いつもとロロの心配ばっかりしていて、とても優しい兄。 それから、自分のことを本当の子供のように扱ってくれる叔父と叔母。 彼らはの本当の祖父母であり、エリア7という名前に変わる前のこの土地を、治めていた人たち。 この土地は昔、アルビオンと呼ばれていた。 「どうしたの?ロロ。」 じっと自分の姿を見つめる彼を、が不思議に思う。 ロロは気付いたら言葉につまりもせず答えていた。 「ううん、姉さんって、本当にクラエス皇妃にそっくりだなぁーって思って。 お城に飾られてるクラエス皇妃の写真にそっくり…………。」 ロロがそう答えると、は少女とはかけ離れた表情で笑った。 子どもでなく、大人でもない中途半端な表情。 その姿が本当に綺麗で、ロロは見とれたまま小さく呟いた。 「本当に………そっくりで、綺麗だ。」 そうしているうちに、泥だらけのが城へと帰ってきた。 はにつめより文句と愚痴を言うが、はけろっとした顔をしてそれを聞いている。 それよりも嬉しそうに採れたばかりの野菜を見せるものだから、は毒気を抜かれた表情を見せた。 苦笑気味のロロの横にいつの間にかの祖父と祖母も姿を見せる。 そしてその場はよりいっそう明るく、華やかな世界となった。 (僕はエリア7が大好きだ。できればこのまま、ずっとみんなで暮らしたい。) ロロは心の底からそう願う。 だが、この願いは虚しい現実へと消え去る日が来るのだ。 誰かが言っていた。終わりはいつか、やってくる。 それは、近い将来かもしれない―――――――――。 |