反命 の ロロ #02










エリア11で活動してたテロリストのリーダー・ゼロが捕まった。
そのニュースは世界を駆け巡る。
合わせて、黒の騎士団に参加していたイレブンたちも捕まった。中には逃げたイレブンもいる。
ロロは朝の食卓で、ぼうっとその報道を見ていた。
ゼロを捕まえたのは枢木スザクという日本人。
食パンをかじりながら、ロロはすごい巡り合わせだと思った。
イレブンがイレブンのリーダーであるゼロを捕まえるなんて………と。

「おはよう。」

あくびを噛み殺しながら銀髪の少年、・ルシフェルがやって来る。
「おはよう、兄さん」と、ロロも言葉を返しそのまま視線をテレビに滑らせる。
エリア11の報道にも釘付けとなった。

「捕まったみたいだよ、ゼロ………。」

パンを飲み込んでロロは言う。
コーヒーを自分のマグカップに注いで「そうみたいだな。」とは呟く。
に散々言われ続けたせいか、最近の服装はラフなものだった。
Tシャツにジーパン。こんなラフな格好の兄を見るのは久しぶり。
彼は、いつも重苦しい騎士服を身につけていたから。

「でも、なんか皮肉だよね、イレブンがイレブンの指導者を捕まえるなんてさ。」

ロロもミルクが入っているコップを手に取った。
バサリとが新聞を広げる。アイスブルーの瞳が文字列を追っていく。
ある記事で、ぴたりと視線が止まった。

「枢木スザク………。ああ、彼がゼロを捕まえたみたいだね。
ユーフェミア皇女殿下の騎士。そしてランスロットのデヴァイサー………。」

小さく呟くと、ロロの瞳がを向く。
「ランスロットって………」そう呟くと、の視線が新聞から上がる。
こくんとそのまま頷いた。
枢木スザク。ランスロットのデヴァイサー。名誉ブリタニア人。
ユーフェミア皇女殿下の騎士。そして、日本を捨てた男。

「そう、ランスロット・クラブの兄弟機、ランスロットのデヴァイサーだよ。
クラブのデータは今のところ、全てスザクのデータが元になっている。
あれが完成したら僕がテストしてデータを取ったあと、僕専用にデータを書き換えていくんだって。
手が足りないから、その時は手伝えって言われたよ。
またしばらく、コンピュータとにらめっこだね………。」

はそう言って苦笑する。
コンピュータ工学を学び、プログラミングでは優秀な成績を残している。
その道ではスペシャリストと言っていいほどだ。
だから技術部から仕事が回ってきたりもする。
たいていそういう仕事は複雑なものばかりで、は仕事が終わるまで毎日コンピュータ漬けになってしまうのだ。

「もう、完成するの?ランスロット・クラブ………。」

ロロが乗り出すように彼に尋ねたとき、コトンと皿がテーブルに置かれる。
おいしそうなトーストと目玉焼き、ベーコンが湯気を上げていた。
二人で上を見上げると、髪を一つに結ったがエプロンをして皿を置いていた。

「技術者の人たちが、明日にはランスロット・クラブもも完成するかもって騒いでたわ。
エリア11の特派に所属するロイドさんが、いいデータが取れたって言って送ってきたんですって。
これから忙しくなるわね、。」

が首だけを横に向けて言う。
は「はぁ〜」と疲れたようなため息をついた。
そのまま皿を並べ終わったに思い出したように尋ねる。

「そういえば、おじさんたちは?朝から姿が見えないんだけど………。」

「朝早くに、ブリタニア本国に行ったんだって。」

のかわりにロロが答えた。
彼は食後のヨーグルトに手を伸ばす。
白いヨーグルトの上に、ブルーベリージャムがのっていた。
ロロはそれを綺麗にヨーグルトへと混ぜ合わせる。
すぐにブルーベリーヨーグルトが出来上がった。

「本国に…………?」

「ええ、ロロの言うと通りよ。本国で追悼式典が開かれるらしいわ………。
私はここを留守にできないって言ったら、おじい様たちがエリア7の代表として出席するって。
そのまま本国観光もするから、帰るのは2・3日先になるかもって話してたかしら。
お父様とも会うらしいわ。」

「追悼………式典?ブラックリベリオンの被害者たちの?」

「えぇ。多い………そうよ。今回の戦いで亡くなった人たち。」

そう告げて、は暗い顔をした。
も悲しそうに顔を下に向ける。そんな二人を見て、ロロは焦った。
こんな暗い顔、二人には似合わない。
大好きな兄と姉が悲しそうな顔をしているとき、支えるのは僕じゃないと。
ロロはそう思い、二人に言葉をかけた。

「あ………あのさ!!!姉さんたち、明日から忙しくなるかもなんでしょ!?
だったら、今日これから3人で出かけない?ほら、昔よく行った丘に、お弁当持って!!!」

「え!?これからって………。でも私、仕事が………。」

ロロの突然の提案に、は少し戸惑う。
仕事を放り出して出かけるなんてと彼女は思う。
だけどすぐにが口を挟んできた。

、今日はどうせ書類整理でしょ?
僕もたいした仕事じゃないし、たまには息抜きしようよ。
お弁当なら、街で買えばいいでしょ?たまには街を見学するのも、総督の大事な仕事。
そうでしょ………?」

にっこり笑う。そんな彼の顔をじっと見つめたあと、視線をすぐにロロへとうつす。
ロロもと同じように笑って二、三度頷いた。
はそれを見て苦笑を浮かべる。二人にはかなわないなと思いながら、口を開いた。

「………ふふっ、には敵わないわね。分かった。
じゃあロロ、朝御飯食べ終わったなら食器を洗って。は洗濯物を干すの手伝って。」

「やった!!!」

がそう言うと、ロロは嬉しそうな声を上げて台所へと走っていった。
もちろん、あいた皿を持って。
パタパタと走っていく音が聞こえなくなった頃、は小さく呟いた。

「もう、ロロってば子供みたい。」

「でも、そんな子供が僕たちに気を使ってくれたみたいだね。」

が自分のマグカップに手を伸ばしつつ、言葉を返した。
彼の言葉がひっかかり、は疑問の声をあげる。

「え………?」

彼女の疑問の声に、コーヒーを一口含んだがすぐに答えた。

、さっき苦しそうな顔したでしょ?
ロロはにそんな顔して欲しくなくて、あんな提案をしたんだと思うよ。
出かければ、気分が晴れるんじゃないかって考えたんだと思う。
アイツは人一倍、姉さん思いだからね………。」

にそう言われ、は先ほどのことを思い出した。
戦争で人が死んだ………そう考えて、先ほどは胸が痛かった。
どんな人にも友達がいて、家族がいて、恋人がいるだろう。
戦争は大切な人の命を奪うもの。きっとどこかで誰かが泣いている。大切な人を返してと。
そしてそれを、自分自身とも重ねてしまった。
ルルーシュを返してほしい。そんな願いは叶わない。死んだ人は帰ってこないのだから。
それはよく分かっている。大切な人を失うのは………辛い。
そう考えて、は暗い顔をしてしまっていた。
ロロはきっとそんなを支えようとしたのだろう………。
彼女はそう思って、ゆったりと微笑んだ。

「まったく、あの子はいつからそんなふうに大人になったのかしら。」

ついこの間まで、自分とのあとをついてくる子供だったのに………。
いつの間にかロロは、きちんと物事を考えられる大人へとなっていた。
ずっとロロを見てきたは、嬉しいと思う反面、寂しい気もしていた。
はそんなに気付き、一言呟く。

「ロロは、いつまでも子供じゃないよ。
いつかあいつも、僕たちの元を離れていくときがくるんだ。
その時は笑顔でロロを送ってあげようね、。」

彼の言葉にはこっくりと頷いた。









風が吹くたび、緑色をした葉っぱがざわざわと揺れていく。
大地はまるで、緑のじゅうたんを敷いたよう。
ロロはその光景を見て、深く息をした。そうすることで実感できる。今、ここに生きていることを。
目を閉じれば、聞こえるのは風の音と小鳥のさえずり。
そしての話し声。

「久しぶりね、三人でここに来るのも。」

「うん。この辺は全然変わらないね。」

心地よく吹く風も、どこまでも広がる草原も、どっしりとかまえる大きな木も。
ロロは目を開け、に言った。

「兄さん、姉さん。あの大きな木って、僕が小さいころ下りれなくなった木だよね?」

彼の言葉に赤い瞳とアイスブルーの瞳が滑っていく。
が木を見て苦笑した。も「ああ。」と声を上げる。
小さいころ、とロロの三人が木登りをした時に、ロロは大きな木から下りれなくなってしまったのだ。

「そうそう、ロロよく覚えてたね。あの時は僕もどうしようかと思ったよ。
お城に帰って、はしごをとってこようかと思ったんだっけ。
でもよく頑張って下りてこられたね、ロロ。」

彼は遠い目をしたあと、そばにいたロロの頭をわしゃわしゃと撫でる。
柔らかい髪の毛がくしゃくしゃになった。
片目をつぶってロロがすぐに抗議の声をあげる。「やめてよ、兄さん。」と。

結局あの時はの声かけを頼りに、ロロは一人で木から下りた。
泣きべそをかきながら地面に足をつけたときは、どうしようもなく地上にいることが嬉しかった。
すぐにが走ってきて、自分を抱きしめてくれた時、すごくホッとしたことをロロは覚えている。
こんなにも心配してくれる人がいるということを、実感させられた。
一人じゃない、家族がいるんだ………。それはロロにとって、とても嬉しいことだった。

「私もあの時はすごく心配したのよ。でもホント、ロロはあの時よく一人で頑張ったね。」

と同じように頭を撫でる。
けれどもそれは彼と違い、優しい手つき。ロロはすぐに気持ちよさそうに目を閉じた。

(姉さんに撫でてもらうと、すごく気持ちいい………。)

本当にずっとこんな時間が続けばいいのにと、ロロは願う。
でも、続かないことをロロはちゃんと知っている。
明日からは、新しいナイトメアのテストデヴァイサーとして忙しい日々を送ることになるだろう。
そしてロロ自身にも、新しい仕事がくる可能性が高かった。
ゼロが捕まり、ブリタニアの情勢が変わった。しばらく暗殺の仕事は来ていない。
もしかしたら、これから……………。
そんな考えが浮かびかけ、ロロはその考えを追い払った。
今はそんなこと考えたくない。今は家族で楽しく過ごすことを考えるべき。
彼がそう思ったときにはもう、の手はロロの頭からなくなっていた。
ゆっくり目を開けると、笑顔の姉がロロに告げる。

「じゃあ、ご飯でも食べようか。」

ロロはすぐに頷いた。
そのあと、ちらりとロロは遠くへ視線を向ける。
この丘の向こうに、かつて研究施設と呼ばれていた建物があった。
ロロは本当に小さいころ、そこにいた。
近くには森があって、ロロは裸足でその森を駆け抜けた。
彼はその森でに出会ったのだった。

(そしてこの丘は…………)

の二人が、ロロの兄と姉になることを誓った丘。
ロロの前を歩くが、ぴたりと足を止める。それに気付いて、も足を止めた。
そのまま彼女が振り返り、ロロに言う。

「本当に、懐かしいね。ここは、私達が兄弟になった場所。」

その言葉に、も頷く。
ロロは彼らの顔を見て、二人の間に飛び込んだ。そのままぎゅっと、手をつなぐ。
二人の手はとても暖かくて、ロロは小さく呟いた。

「僕は、兄さんと姉さんの弟になれて幸せだよ。ずっとずっと、僕の家族でいてね。」

にっこり微笑むと、二人も優しい微笑を返してくれた。
もう少し、家族の時間を過ごしたいとロロは心の底から思った。
そんな時間はもう、終わりを告げようとしていることにロロは気付きたくなかったけれど。