風がそよぐ木陰、・は本を読んでいた。 一体何回読んだか分からないくらいの本。は昔から、この本が大好きだった。 皇女とその騎士の恋物語で、友人のカレン・シュタットフェルトに言わせれば、 「そんなの子供だましのおとぎ話よ!!!」らしい………。 それでもは、この話を読むたびに胸をときめかせた。 いつか私にもこんな素敵な騎士が現れるのだろうか…………。 そうぼんやり考えていると、近くで『バシャッ!!!』と水音が響く。 『ガコン!!!』という金属独特の激しい音を伴って…………。 ふと顔を上げると、今ウワサの彼………枢木スザクがびしょぬれで立っていた。 そばにバケツが落ちていて、さっきのひどい音はあれの音だったのだとは思う。 上の階の窓から数人の男子生徒がおもしろそうに顔をのぞかせ、すぐ引っ込めた。 イレブンのスザクがこの学園に転入してきたのは一ヶ月前のことだった。 と隣のクラスである彼は、ほとんどの生徒から嫌われ、イジメを受けている。 それは前から知っていた。助けようとも思った。でも………怖かった。 彼を助ければ、今度は自分に矛先が向くかもしれない。 誰だって、自分が一番可愛い。情けないけど、これは事実。 それに友達であるカレンにもまた、何かしらの被害が及ぶかもしれない。 彼女には迷惑をかけたくなかった。 だってカレンは、この学園で人気者だったから…………。 「あ…………」と彼女は小さく声を上げる。 はこっそり顔を本で隠し、見て見ぬふりをした。 ズキリと心に何かが刺さり、彼女は胸に強い痛みを感じる。 しばらくしてちらりと本から顔をのぞかせると、彼の姿はもうなかった。 はじっと、濡れた地面を見つめているだけ。 本当に…………これでよかったの? 彼女は自分に尋ねると、静かに目を閉じた。 その日から、はスザクをよく観察するようになった。 彼へのイジメは日に日にヒートアップしていく。 体操服に『裏切り者』と赤い字で記され、教科書とノートは破られる。 鍵つきでないロッカーは水びだしにされた。 それでもスザクは誰に何の文句も言わない。 休み時間、無言で自分のロッカーを見つめ、パタンと扉を閉める。 それを見るたびには辛そうに顔をしかめた。 胸が痛い。辛い。もう……………たくさんだっ!!! そう思った彼女は、自分でも驚く行動に出た。 購買へと走り、彼に見合うサイズの体操服を買う。 よりもかなり大きいサイズだったので、 店員の人にびっくりした顔をされたが気にならなかった。 彼女は人気のないときにスザクのロッカーをあけ、綺麗に水気をふき取る。 破かれた教科書をテープで修理し、 ノートは自分のノートをコピーして修理した教科書の上に置く。 先ほど買った真新しい体操服も一緒に入れておいた。 代わりにラクガキされた体操服を自分の鞄につめる。綺麗に洗って返すつもりだ。 「これで大丈夫。」 軽く息を吐くと、はこっそりスザクのロッカーから離れ、 何事もなかったように自分の家へと帰った。 放課後。 スザクは雑巾を持って自分のロッカーの前に来ていた。 休み時間に開けたときは水びだしで、教科書とノートは破かれていた。 体操服にもラクガキされていたことを覚えている。 悲しかった。 でも仕方ないと思っているし、この学園に来る前からそうなることは分かっていた。 スザクは日本人で、名誉ブリタニア人だ。 同族を裏切り、さらに純粋なブリタニア人になることもできない半端者。 嫌われて当然だ…………。 暴力を使えば、きっとこの問題は解決できる。 スザクは軍に所属しており、彼が本気を出せばイジメを行う生徒はねじ伏せられ、 スザクに手出しができなくなるだろう。 でもそれは……………… 「間違ってるよね。」 悲しそうな声で少し笑い、ガチャリと彼はロッカーを開ける。 早く片付けて、軍に行かなければならない。 そう思っていたが、すぐに掃除の必要がなくなったことに彼は気付いた。 きちんと水がふかれたロッカーの中に、新しい体操服が置かれている。 破られた教科書はテープで修理してあり、 ノートは誰かのノートをコピーしたものが置いてあった。 一体誰が…………? 自分が見たときは、ひどいありさまだったのに。 自分のロッカーと間違えて、誰かが片付けたのだろうか? ……………そんなはずない。 ぶんぶんと彼は首をふった。 自然と、コピーされたノートに手が伸びる。 未使用の雑巾が手からすべり落ち、パサリと床に落ちた。 ノートはとても綺麗な字で、図などを使って分かりやすく記されている。見るからに女の子の字。 形がよくて、けれども少し丸みをおびた文字。 まるで、魔法のかかったノートのよう…………。 「誰の………だろう? すごく分かりやすくて、見やすくて、それに綺麗な字………。 もしかしてこのノートの持ち主が………僕を助けてくれた………?」 スザクは一人つぶやく。 そのままずっと、ロイドから連絡から入るまでロッカーの前に立ち尽くし、 ノートの文字を見つめていた。 #1 少女が差し伸べた一つの手 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- これを書いてるときのBGMは、逆裁のオーケストラverの曲でした(笑) すっげどうでもいいことだ………。 戻 |