ジノに無理矢理連れていかれた食事会を終え、僕は格納庫へと戻ってきた。
いろいろ考えたいことがあったんだ。
ナナリーが総督になったことやゼロのこと。
ランスロットの中なら答えが見つかりそうで、キラキラ光るランスロットを目指した。

夜中だというのに、格納庫は電気がついていた。
ロイドさんかセシルさんかなって思ったけど、二人は食事会に出席していて、そのまま帰ると言っていた。

(電気の消し忘れ……?)

僕は最後にここを出た人の姿を想像しながら苦笑した。
相当慌てていたんだな……。

ランスロットのボディについた傷を手でなぞりながらコクピットへ向かう。

たくさん戦った。

たくさん傷つけた。いろんなものを……。

自分さえ、傷つけた。

でも僕は、傷つかなければならないんだろう。父さんを殺した人殺しだから。

ハッチを開け、安心できるその空間を覗いた時、僕は小さく声を上げてしまった。
誰もいないと思ってたのに、人がいたから。
作業服を着た女の子がキーボードに手を置いたまま、コクピットの中で眠っていたんだ。

規則正しい寝息。長い睫毛。

そこに壊れ物のような存在があった。

無意識に手を伸ばす。
触れてみたかった。
僕の指がかすかに女の子に触れた時、彼女は閉じていた目をゆっくり開けた。
しばらく見つめ合い、僕が口を開こうとした瞬間、青ざめた彼女が叫んだ。

「もっ……申し訳ございませんっ!!
ナイト・オブ・セブン様の機体で居眠りなんてっ!!すぐに片付けますからっ!!」

彼女はそばに積んである、ファイルやらマニュアルやらをバサバサかき集める。
慌てたものだから、コクピットから出た瞬間、それらが派手な音をたてて床に散らばった。
一瞬彼女は僕の顔を見てから、慌ててファイルを拾いにいく。
見ていられなくて、僕も一緒に拾った。

「あっ……!!ナイト・オブ・セブン様!!いいです、私が拾いますっ!!」

「いいよこれくらい。二人で拾ったほうが早いと思うし。」

ファイルをかき集めながら、ぼんやりと内容を眺める。
ランスロットに関する何かで、難しいことが書かれていた。
時折、手書きの赤で付け足しがされている。綺麗な字だった。

「……これは、ランスロットの資料?」

拾ったファイルを返しつつ、彼女を見る。
大事そうにそれを持った少女が言った。

「はい。普段は軍の地味なパソコン処理の仕事をしてるんですが、
シュナイゼル様とロイドさんに、ぜひともランスロットの整備をしてほしいと言われまして……。」

愛おしそうに彼女の瞳がランスロットへと向けられる。
どこまでも優しい瞳だった。柔らかくて、あったかくて……。

「あ、すみません!!ナイト・オブ・セブン様を引き止める感じになってしまって……。
ランスロットの整備はもう終わっているので、私はこれで……。」

長い黒髪が肩からこぼれ落ちた。
僕はとっさに少女の細い腕を掴む。
無意識だった。
黒髪とは不釣り合いなほどの黄色い瞳が僕を捕らえた。

「……枢木スザク。ナイト・オブ・セブンじゃなくて、スザクって呼んでほしい。」

「でも……」

次の言葉が出てくる前に、僕は彼女の柔らかい唇に人差し指を押し当てた。

「……君が考えてるほど、僕の身分は高くないよ。」

笑ってみせた。
彼女は困惑した顔をしていたけど、小さく頷く。

「ねえ。君の名前は?」

……です。」

消え入りそうな声が僕の耳には心地好く響いた。
の瞳を見つめると、彼女は耳まで真っ赤になる。
その反応が妙に初々しくて、僕の顔が緩んでしまう。
今まで見てきた女性の中に、一人もこんな子はいなかった。

は僕から逃げるようにして格納庫を出て行く。
僕はこの場所にただ一人残された。少しだけ息をはき、呟く。

「可愛いな。軍の地味なパソコン処理の仕事……か。
彼女、ランスロットの専属整備士にできないかな……。」

明日にでもロイドさんに相談してみようかな?






あの子が欲しい