人間は、どうして人を殺す時にためらうのかが私には不思議だった。
一度、本で読んだことがある。
人間には理性と呼ばれるものがあると…………。
理性は道徳から外れたことをしそうな時に働くものということを、私は一つの情報として知っている。

じゃあ、道徳って何なの?

私にはそれが分からない。私は人間じゃないから。
私はブリタニア軍で作られたロボット、機械、サイボーグ。
命令を淡々とこなす存在。私にとってはどんな命令も絶対。
だから私は、今日も人間が嫌がる仕事…………人を殺す任務をこなすのだ。







「本日の処刑、完了いたしました。」

は処刑リストをブリタニアの軍人に渡した。
少しひきつった顔でそれを受け取った彼は、
の頬や服に飛び散った血を見てさらに顔をひきつらせる。
動揺している………とは思う。けれども、それがなぜなのか分からない。
任務を終え、はすぐに処刑場をあとにした。

「まったく、いつ見ても気味悪いぜ。
見た目はかわいい女の子でも、あんなふうに無表情で人を殺せるロボット。
誰が好き好んであんなもの作ったんだかな。」

「でもそのおかげで、俺らはまともに生活が送れるんだ。
アイツが来てから、狂うやつもいなくなってきた。俺らにとっては女神様かもな。
生身の人間がいつまでもこんな仕事、まともにできるわけがねぇ。」

ブリタニア軍人は、数人と話しながら書類に判を押した。







血を綺麗にふき取り、服をオレンジ色の軍服に着替えたは、
図書館に向かおうと歩いていた。図書館は彼女にとっていい情報源だった。
昔のこと、現代のこと、そして人間のこと。あらゆる情報がそろっている。
今日はどんな本を読もうかと考えていた時、ふと、庭園にたたずむ人影を見た。

その人物はずっと、木に咲いている花を見ていた。
時々静かに笑い、そのあとすぐに泣きそうな顔になる。
はその人物に足を向けた。
その人物が花を見て、ころころ表情を変える理由が分からなかったから。
サイボーグである彼女にとって、人間はいつも分からない存在だった。

「何をしているの?」

が声をかけると、花を見ていた人物は、とても驚いた目をして彼女を見る。
大人………というよりも少年だということが彼女には分かった。
一瞬驚いた顔をした少年も、相手が少女だということに気付くと柔らかい目をする。

「あ、うん、花を見てたんだ………。」

「サクラ………。ソメイヨシノっていう種類。これを見てたの?」

がそう尋ねると、相手は少し笑った。

「よく知ってるね。うんそう。サクラを見てたんだ。」

そのまま少年が悲しそうな顔をしたので、は眉をひそめた。
どうして話すたびに、こんなに表情を変えるのだろうか?

「本で読んだの。ソメイヨシノは日本に多く植えられる木だって書いてあったわ。
でも、なぜこのブリタニア本国にあるの?しかも1本だけ…………。」

「なぜって…………僕にも分からないよ。
サクラに気付いたのだって、さっきだったし………。それにしても、君変わってるね。
ナイト・オブ・ラウンズの僕に、こんなふうに普通に話しかけるなんて。」

少年は、サクラに向けていた瞳をのほうへ向ける。翡翠の瞳が彼女の姿を映した。
は首をかしげ、小さく「なぜ?」と問う。少年は「えっ?」と声を上げた。

「なぜ普通に話しかけただけで、変わっているって言うの?
人間はこういうふうに、普通に他人と話をするんでしょう?」

表情を変えずに彼女は言う。
少年は困った顔をしてに尋ねた。

「人間は………って、君も人間じゃないか。ほんと、変わったことを言うんだね。」

「人間………?いいえ違うわ。私はブリタニア軍に作られたサイボーグ。
コード000(トリプルゼロ)、。」

「サイボーグ?まさか。」

少年は軽く笑って自分も名前を告げる。

「僕はナイト・オブ・ラウンズのセブン、枢木スザク。スザクって呼んでくれていいよ。」

そう言って、彼女の前に手を差し出した。
は差し出された手とスザクの顔を交互に見る。そのあと首をかしげた。
スザクは少し戸惑う。手を引っ込めようとした時、弾むような声が上がった。

、握手だよ、あ・く・しゅ!!!お前も手を出して、スザクの手を握るんだ。」

そう言って姿を現したのは、ナイト・オブ・ラウンズのスリー、ジノ・ヴァインベルグ。
はジノの言ったようにスザクの手を握り、握手を交わした。
彼女の手を握ったとき、スザクは表情をこわばらせた。
の手が、すごく冷たかったから。
まるで人間ではないことを物語っているよう。
ジノはそんな彼の顔を見て、ため息をつく。

「スザク、お前のことを知らないのか?優秀なロボットだよ、ロボット。」

「ロボッ…………ト?じゃあ、本当に?」

驚いた表情をジノに見せたあと、ゆっくりとを見る。
無表情で彼女もスザクを見ていた。どう見ても、人間のように見える。
髪も肌も瞳も、人間そのもの。
「本当に?」ともう一度尋ねたスザクの手をとり、は自分の頬に彼の手を当てる。

冷たい……………。

けれども感触は人間そのものだった。

「骨組みを、人工の皮膚で覆っているの。そうしないと、人間は私に恐怖心を抱くから。
ところでジノ、私に何か用?」

不意にの視線がジノへと向く。
そうだったと、彼は思い出したように彼女へと告げた。

「お前の上官が呼んでる。仕事だってさ。」

「そう………。分かった。」

そっけない返事をして、はくるりと二人に背を向けた。
そのままスタスタと歩いていく。何事もなかったかのように。
ジノが「別れの挨拶もなしかよ。」と少し不満そうに言葉をもらした。

「けど、仕方ねぇーよな。アイツ、人間じゃねぇーんだし。」

「そんなのが、どうしてブリタニア軍に…………?」

スザクは静かにジノへと尋ねる。
彼は目だけをスザクに向けると答えた。真剣な顔つきで。

「いわゆる殺戮兵器だな。
サイボーグってことは、痛みも悲しみも感じない。
怪我をすることもなければ、死ぬ事だってない。壊れたら直せばいいだけ。
戦争にはもってこいの兵士だ。命令には忠実だしさ。
人間と違って動揺もしないし、情けもかけない。」

「でも、女の子だよ?」

スザクはジノに言葉を返す。
ジノは「はっ」と軽く笑って、すぐに答えた。「外見だけだろ?」と。
そう、中身は機械じかけのロボット。人間とは全く違う存在。
たとえ、見た目が人間であっても…………。
彼女は生まれたんじゃない。作られたのだ。

でもには、少し不思議なところがあった。
彼女はいつも『なぜ?』『どうして?』と尋ねてくる。
学習するロボット。彼女は日々、人間について学習しているのだ。
人間に近づこうとしている………。

「なぁスザク、それよりもアイツと何話してたんだ?」

ジノがの歩いたほうを見て、そのまま尋ねた。
「ああ………」とスザクは声をあげ、言葉を続ける。

「僕がサクラを見ていたら、何してるのって話しかけられたんだ。
彼女ね、なぜ日本にあるはずのサクラがここにもあるのかって、僕に聞いてきたんだ。
だから、サイボーグなんて言われて信じられなかったんだよ。
まさかロボットが、疑問を持つなんて思わないから…………。」

スザクはのあの無表情を思いだす。
彼女は人を殺す時も無表情なのだろうか?
心の痛みも感じない、人間じゃないもの。
少しだけ、羨ましいと思える。
何も感じなかったら、あんな辛い思いもしなかったのに……と、
スザクはユーフェミアやルルーシュのことを考えた。
ロボットだったら、心が傷つくこともなかった。父を殺したことを、罪だとは思わなかった。

「ジノ、僕は少し、が羨ましいと思えるかもしれない。」

「え?」

スザクはそう小さく呟いてから、再びサクラを見上げた。
ただ1本だけ、場違いのように咲き誇るサクラ。
それはブリタニア軍の中で生きる日本人のスザクのようでもあったし、
人間の中にただ一人、サイボーグとして生きるのようでもあった。






I am machine heart.


―――― 私には、人間の気持ちが分からない ――――








----------------------------------------------------------------------------------------------------------
ちょっと言い訳↓
ターミネーター、サラコナー・クロニクルを見て思いついた話。
サラコナー・クロニクルに出てくるキャメロンがすごく好きです!!カワイスギっ!!!
あの無表情がたまりません!!!そんな感じの(キャメロン似の)主人公ちゃんにしたかったです。
気が向いたら続き書きます。いや………書きたいな!!(をい)
ジノ相手とかでもいいかなー。でもやっぱスザクかな!!!(ぇ)