ロロとはぐれ、彼を探すルルーシュの目の前に立ちはだかったのは黒の騎士団のナイトメアだった。 (俺はここで………死ぬのか?) そう思った瞬間、一人の女がナイトメアから出てきた。 ルルーシュ………と、彼の名前を呼びながら。 そのままにっこり笑って手を差しのべる。 「迎えに来た」と言いながら。 ルルーシュにはわけが分からなかった。 緑の髪を持つ彼女とは何の面識もなく、迎えに来たといわれても困ってしまう。 だけど、一瞬、彼女が自分の理解者だと思えたのは不思議だった。 「何をっ………」 ルルーシュが歩き出すと、すぐに銃声が響く。 気付けば目の前の女が胸を深紅に染めていた。 力なく落ちる彼女をルルーシュは抱き止める。 女は………心臓を撃ち抜かれていた。 「………っ!?」 人が死んだ。 自分の腕の中で。 そう思うだけで恐怖だった。 女を撃ったのは、見慣れない格好をした男。 ナイトメアについてる紋様を見て、かろうじて彼がブリタニア軍であることがわかった。 ルルーシュは思う。助かったのだと。 あとは彼らに保護されて、ロロのことを尋ねればよい。 学生服を着ているから、きっと助けてもらえるだろうと思い、ルルーシュが口を開きかける。 だが、違ったのだ。 男はルルーシュに銃を向けたまま、怪しく笑う。 彼らはルルーシュ自身を監視していた。魔女を………C.C.をおびき出すために。 ルルーシュには何のことかが分からない。ただ分かることは、自分が殺されそうになっていること。 説明を求めても相手はあざ笑うだけだった。 次第に彼の中で怒りが生まれてくる。ルルーシュは心の中で叫んだ。 (ふざけるな!!!力があれば……世界に負けないくらいの力がっ!!!) 「力なら………持っている。」 「な、に………?」 腕の中にいた女が笑っていた。心臓を撃ち抜かれたはずなのに。 女はすばやく上体を起こしたあと、ルルーシュの唇に己のそれを軽く重ねた。 「!!!」 彼女の唇が触れた瞬間、刺すような痛みがする。 広大な宇宙が見え、そのあとに………自分の記憶が見えた。 ギアスとはなんだ? 『ギアスとは王の力だ。』 俺はそれを持っている………? 『あぁ、持っている。思い出せ、ルルーシュ。 お前の力は忘却という名の檻に閉じ込められているんだ。 今こそその力を………………』 解 き 放 て 。 女の………C.C.の額でギアスのマークが光っていた。 (あのマークを俺は知っている。) 頭の中を記憶が駆け巡っていく。 アッシュフォードで過ごした記憶。ゼロとして黒の騎士団を率いた記憶。 最愛のナナリー。決して忘れてはいけない記憶だったのに。 クロウ゛ィスを殺したことも、ユフィを撃ったことも、全部、全部っ!!! (思い出した………。俺はギアスを持つ黒き王。この世界に存在することを許された。ゼロとしてっ!!!) スザク………友達を売って、出世した男。それがお前の答えなんだなっ!!! 「思い出したよC.C.。俺は選ばれた者であり、世界を支配する王だ。」 ニヤリとルルーシュが笑った。 瞳には常に発動している暴走したギアス。 C.C.も怪しく微笑んだ。 そのまま二人してブリタニア軍の前に立つ。 彼らは恐れた。 心臓を撃ち抜かれても生きているC.C.に。 余裕の表情を浮かべたままのルルーシュに。 「馬鹿な!!!心臓を撃ち抜いているのに生きてるだとっ!?」 「処分される前にキサマたちに問おう。 無力が悪だというのなら、力は正義だというのか?復讐は悪だろうか?友情は…………」 一瞬頭の中でスザクの顔がちらついた。 友情は……………正義というだろうか? ブリタニアの男はニヤリと笑って答える。 悪も正義もなく、えさにはただ『死』という事実が残るのみだと。 その答えを聞いてルルーシュは心の中であざ笑った。 腐ってる。こんな奴も、ブリタニアも。 「そうか。ならば君たちにはその事実を残そう。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。キサマたちは………死ね。」 彼の低い声と共に、ギアスのマークが飛んでいく。 「よかろう。我々はここで死ぬ。」 「イエス・ユア・ハイネス!!!」 掛け声と共に乾いた銃声が響いた。 パンパンパンと、命を奪っていく音が………。 「…………っ!!!」 モニターを見つめていたが、急に片目を押さえて呻き声を上げる。 「っ!?」 が慌てての顔を覗き込む。 彼の右目がうっすらと赤く染まっていた。 それはギアスを発動した時の現象によく似ていて。 「………ギアスが……」 震える声でそう言えば、彼が痛みに耐えながら声を出す。 「誰かがギアスを使ったんだ。しかもこのギアス……暴走してる………。」 「誰かって……まさかロロの……あの子のギアス!?」 と、ロロの三人は、血は繋がっていなくても兄弟だった。 エリア7で特殊訓練を受けていた幼く身寄りのないロロを、自分たちの弟として迎えたのは彼ら自身。 それからは、ずっとホントの兄弟として、家族として生きてきた。 だからももロロがギアスを使えることを知っているし、ロロもにギアスがあることを知っていた。 「いや……ロロのギアスじゃないみたい。だけど微かにロロのギアスも混じってる。」 ポタリとの額から冷や汗が流れた。 彼の言葉が意味するもの。 それはつまり……… 「ロロがあそこにいるの?」 「おそらくね。」 とはバベルタワーを見つめた。 そこではたくさんの命が奪われようとしていて、そして最愛の弟も足を踏み入れている。 行くべき……なのだろうか? 彼らと、たった一人の弟を助けるために………。 「イエス・ユア・マジェエスティ。誰にも譲るつもりはありません。」 スザクは冷たい声で目の前にいる男に誓った。 ゼロを殺すのは自分です、と。 ゼロ…………ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 スザクのかつての親友だった。 ずっと彼と親友であると思っていた。 でも、世界はそんなに甘くはなかった。 彼がシャーリーの父親を殺し、罪もない人を殺し、そして……ユーフェミアを殺した。 ギアスという力を使い、色んな人の思考を操った。 許せるわけがない。 それに彼は………… スザクの想い人であるの初恋の人だった。 彼女はルルーシュが生きているなんて知らない。 だけど彼が生きていると知ったら、きっと彼女の心はルルーシュの元へと行ってしまう、 そうスザクは思ったから。 ルルーシュにはを渡さない。 自分が見つけた唯一の心の安らぎ。 世界に色があることを教えてくれたは彼女だった。 人間不信に陥っていた彼を救ったのはだった。 気付けばそんな彼女に惹かれ、好きになって、彼女の全てを愛している。 今伝えられなくても、必ず想いを伝えるから………。 君が好きだと。愛している、と。 それにはルルーシュの存在が………邪魔だから。 「そう………彼を………ゼロを殺すのは……自分。」 スザクはもう一度小さく呟いた。 IL TRILLON DEL DIAVOLO――――――悪魔のトリル、悪魔の目覚め。 |