廃墟と化したバベルタワーで黒の騎士団とブリタニア軍が戦っていた。
最初に突入した機密情報局――――――機情とは連絡が取れなくなっていた。
ブリタニア軍指揮官は己の部下に命ずる。
突入しろと。
軍人は上の者の命令には絶対。
彼らは絶対に命令には逆らえない。だからどんなに怖くても兵士たちは突入する。
もしかしたら、そこで自分の人生が終わるかもしれないその場所へと。

中華連邦の総領事館にいるカラレス総督にも連絡が入った。
立てこもった黒の騎士団がブリタニア軍を押している。
そう伝えるギルフォードは、カラレス総督がニヤリと笑ったのを見逃さなかった。
彼は中華連邦から派遣された高亥(ガオハイ)と星刻(シンクー)を見る。
ここで彼らの相手をしていても面白いものではなかった。
いけ好かない高亥の話を聞き、口に合わない料理を食べるくらいなら、
命を危険にさらしつつも、人間狩りをするほうがまだ面白そうだと彼は思う。

「ここは私が…………」

ギルフォードの言葉を遮って、カラレスは言う。

「いや、君は客人を預かる身だ。
ここは総督である私が行くべきであろう。
中華料理のスパイスは口に合わん。それにいいものだろう………」

「は………?」

彼の言葉を聞いたギルフォードは疑問符を浮かべる。
何が『いいもの』なのだろうか?
そう問おうとする前に、カラレスは目を光らせて述べた。

「人間狩りは…………。」

カラレスの口の端がつりあがった。

バベルタワー。
ルルーシュの的確な指示により、ブリタニア軍は次々と消え去る。

画面から消える味方。

交信が途絶える指揮官たち。

G-1ベースで待機している者たちにも不安が広がった。
このままでは少数である黒の騎士団に負けてしまう。
動揺は動揺を生み、不安は敗北を生む。
G-1ベースに到着したカラレスは、そんな光景を見て少しイラだった。
所詮、人とはこんなものかと。
このままでは黒の騎士団にブリタニア軍がやられてしまう。
自分の威厳を保つため、それだけは何としても避けたい。
そう思ったカラレスは、この地にいるであろう二人の人物を思い出す。

エンジェルズ・オブ・ロード。

8年前、この地をたった二人で潰した力があるではないか。
彼らの力を使えば黒の騎士団など…………一ひねり。

カラレスはそばにあったインカムを手に取った。

同じ頃、消える敵を見ながら彼――――――ルルーシュも笑う。

「そろそろカラレス総督が出てくる頃だな。」

一人呟くと、背後からカレンの声がした。
ルルーシュは眉をひそめて問う。
「21階に向かえと言ったはずだが。」と。
返ってきた言葉は、予想外なものだった。

「あなたのそばにいたかったの…………。」

あの時逃げた君が何を言う。

あの時、ゼロがルルーシュであると知った君が………。










「エリア11のえさに、誰かが食いついたようだな………」

「C.C.…………ですか?」

単調に歩みを進めるは、この国を治める者。
ブリタニア皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア。
その横を歩いているのは枢木スザク。
彼らはどこかへと向かっていた。
霧が出ていてスザクには場所がよく分からない。
知らない場所へと行く恐怖感がないわけでもない。
けれど、自分にとってここが重要な場所のような気もする。

少し前を歩く皇帝は彼の質問に答える。

「まだ分からんよ………。
枢木ィ、ラウンズの中でもここに入れるのはお前が始めて。
シュナイゼルたちも知らぬ場所よ。」

シュナイゼルたち………も?
じゃあも知らない場所なのだろうか?
ふいにスザクはそう思う。
彼女は知らなくていい。ギアスなんて自分勝手な力。
ルルーシュがギアスを持ってるなんて。
ルルーシュが………生きているなんて。

君は知らなくていいんだ。

「光栄です。陛下。しかし、なぜ自分を?」

「ラウンズの中でお前だけが知っている。ゼロの正体とギアスを………。」

二人の靴音がやみ、霧が晴れる。
そこは神殿だった。
いや、ブリタニア皇帝がいうには神殿ではない。
ここは神を滅ぼすための武器。
アーカーシャの剣といえるらしい。
聞きなれない言葉にスザクは眉をひそめる。

アーカーシャとは………なんだ?

そう皇帝に問うても、彼は不敵に笑うだけだった。










バベルタワーでの状況を見守っていた
二人は悩んだ末、その場所に向かうことを決意する。
それは戦争をしにいくのではない。
人を助けるためだった。
人種を問わず、イレブンも、ブリタニア軍も。
二人のルールはたった一つ。

人を殺さない。

それだけ。
二人にはそれを実行する力がある。

はすぐにナイトメアに乗り込んだ。
黒い機体を
白く青色が入った機体をランスロット・クラブという。
ともにの母の国、エリア7で開発した第8世代の特殊ナイトメア。

正式名称を『Necronomicon-A1 TRIAL-PRODUCT-TYPE 機』、
『Necronomicon-A2 TRIAL-PRODUCT-TYPE ランスロット・クラブ機』。
プログラムとエネルギーは第7世代のナイトメアと同じだが、
フロートユニットを使用せずに空を飛べるところが少し変わっていた。

それでは、この機体はどうやって飛ぶのか。
答えは背中にある。
ネクロノミコンの背中には収納可能の翼があり、それは生きた細胞により構成されていた。
飛ぶときは翼が出現し、鳥が空を飛ぶようにして飛ぶ。
なかなか高度な技術を用いられた機体。
機体の技術が高度なため、ネクロノミコンはシンクロ率が最低でも90%以上はないと動かせない代物。
それをは自分の手足を動かすようにいとも簡単に動かしていた。

二人がナイトメアのキーを指した時、耳につけたインカムから連絡が入った。

「こちらはエリア11の総督をつとめるカラレスだ。」

「えっ…………カラレス総督?」

は耳につけたインカムを、さらに強く耳に押し当てた。
カラレスの低い声が伝わってくる。
一体どうしたのだろう。総督がわざわざ連絡してくるなんて………。
でもこの状況で連絡してくることといえばただ一つ。
カラレスの声を黙って聞いていたは、すぐに表情を曇らせた。

何かイヤな予感がする…………。

はそう思って顔を下に向けた。

「今、我が軍はバベルタワーにて黒の騎士団の生き残りと交戦中である。
しかし黒の騎士団が予想以上にも強力な武器を携えていて、私達の手におえることはできない。
そこで君たちに出撃を要請をする。バベルタワーにて黒の騎士団の残等を壊滅させよ。」

「かい………めつ?」

が小さく呟いた。
壊滅とは戦争することを意味する。
戦争は………したくない。
そう思うは、ポツリとカラレスに尋ねる。

「あの、カラレス総督。
出撃要請にはこたえます。ですが条件があります。
敵の命は私達に預けてください。
その条件を飲んでいかない限り、私達はあなたの命令には従いません。」

そうキッパリと述べたにカラレスは相手に聞こえないように舌打ちした。

皇帝直属のくせに、イレブンとブリタニア人を同じように考える思想を持つ。
いけ好かない奴らだ。
まだ十代というのでさえ、気に入らないのに。
しかし消えていくブリタニア軍を救うには彼らの力は必要だった。
この事件をすぐにでも片付ければ、きっと軍内では自分の株は上がるだろうから。
早急に事件を解決した総督として。

「くっ…………よかろう。その条件を飲んでやる。」

「総督のお気遣い感謝します。」

はにっこり笑ってから、コントロールレバーについている赤いボタンを押す。
黒いナイトメアの背中から白い翼が生える。
収納されていた天使の翼。

、行きますっ!!!」

グッと彼女はレバーを引く。
は白い翼をはためかせ、力強く空へ飛んだ。
ランスロット・クラブもそれに続く。
二人は目指した。そびえ立つ、バベルタワーの元へと。

タワーの近くまで来ると、たくさんのブリタニア軍と遭遇する。
おびただしい数の援軍だった。
エリア11のどこにこれだけのブリタニア軍がいたのか不思議なくらい。
操縦桿を握ったまま、は呟いた。

「なんて数だブリタニア………。相手は少数の黒の騎士団だろう?
これじゃあ見せしめじゃないか。ブリタニア軍に逆らった者はどうなるかっていう………。」

「きっとカラレス総督はそのつもりで膨大なブリタニア軍の出撃要請をしたのよ。
今中華連邦の総領事館には、中華連邦から派遣されてきたお客様が来ているの。
おそらく、その方たちにブリタニア軍の力を見せ付けるつもりなのよ………。」

の呟きに重ねて言った。
はそれを聞いて舌打ちする。
自分たちの力を見せ付けるために、反逆者を徹底的に排除しようというのか。
それじゃこの国は絶対に何も変わらない。

はブリタニアという国が嫌いだった。

彼は昔、エリア7にあるブリタニア管理下の研究施設にいた。
そこで人工的に筋肉の破壊と再生をさせられ、強化人間として新しく作られていたのだ。
毎日が苦痛の日々。
無理矢理ナイトメアの操作技術を頭にたたきこまれ、
人を殺すための訓練を受け、そして液体の入ったガラスの容器の中で眠りにつく。

全てが苦い思い出。
だけどなぜだか今、そんな嫌いであるはずのブリタニア軍で軍人として働いている。
そう、がいたから。
自分をあの研究施設から救い出してくれたがいるから。
たとえ嫌いなブリタニアでも、人を尊重するがきっとこの国を変えてくれると信じてるから。
だから自分はここにいる。

、安心してよ。僕は絶対に人を殺さない。
それが僕達のルール………だよね。」

はそう言って、飛行するブリタニア軍の合間をぬって飛んだ。
誰よりも早く、バベルタワーに着くために。
バベルタワーに残った人々を、殺させないために。
そして………弟であるロロを探すために。









まだやれる…………。

ロロは高鳴る胸に手を置いた。
何回かギアスを使ったせいで、少し心臓に負担がかかっている。
だけどそんなの気にならない。

彼は自分の首に下げられた、赤い宝石のついたペンダントを取り出した。
燃えるようにキラキラ光輝いている。
その色はあの人の瞳の色に似ているようで。
ロロはペンダントを見て、ふっと表情を和らげた。

「大丈夫。僕には姉さんがついてるから………。」

そっと赤い宝石に唇を近づける。

これはロロがエリア11に行く日、が送ったもの。
ずっと彼女が身につけていたものを、彼がわがままを言ってもらったのだった。
「絶対大切にするから。僕のお守りにするから」と、そう言って。
彼女は苦笑したものの、ロロがそう望むのなら………そう呟いて、首にかけてくれた。

「このままじゃ、姉さんと兄さんの手をわずらわせることになっちゃう。
カラレス総督は、きっと兄さんと姉さんに出撃を要請するはずだから。
その前に僕が………あいつらを倒す!!!」

ロロの右目が赤く光った。
それはギアスの力。
時間をも止める力。
止まった敵のナイトメアを、ロロは自身の操るナイトメアで破壊した。

『なんだ?どうしてここに………うわぁっ!!!』

「T-6っ!?」

次々と画面から消える味方に、ルルーシュは焦りを覚えた。

単機で突入だと?

誰だ?

誰なんだ………っ!?









実行するよりほかに善は存在しない(ケストナー)