との二人は、負傷したイレブンやブリタニア軍を救護班のもとへと連れて行く。 しかし救護班の場所には溢れかえった負傷者。 傷の深い者や命の危険性が高いものから順に病院へと搬送されていた。 ただ、それはブリタニア人だけの話であって………。 命の危険性が高くても、イレブンはほったらかしにされていた。 ぐったりした彼らを見て、は言葉を失う。 何かを言いかけようとしたが、そのまま唇を強くかみ締めた。 「さぁ、ブリタニアの負傷者はあちらへお行きなさい。 日本人の方たちは…………ここで少しだけ待っていてくださいね。 すぐに病院に運ばれるよう、手配しますから。」 はかみ締めた唇を解いて振り返り、にっこりと笑顔でいった。 みんなを安心させるように。 怪我をして苦しいはずのイレブンもの笑顔を見て笑った。 彼らだって知っている。病院に搬送されるのはブリタニア人だけだと………。 でも心遣いしてくれる目の前の少女に、そんなこと言えなかった。 「、あなたはここでみんなを……」 「それはできない。、僕も行かせてくれ。 君だけに辛い思いをさせたくない。」 はアイスブルーの瞳で彼女を見ていた。彼の瞳は「何が何でも一緒にいくから」と訴えている。 彼女は一瞬困ったような顔をしたが、すぐに表情を和らげる。 本当は一人で交渉に行くのは少し怖かった。 きっと言われるだろうから。 ぐちぐちと嫌味を。まだイレブンに対して味方してくれるブリタニア人なんかいない。 ましてや自分は皇女だ。一体何を言われるか分からない。 「ありがとう………。」 は心の底から礼を述べた。 そのまま救護班へと歩いていく。 途中、ブリタニア軍人に足蹴にされるイレブンをかばいながら。 じろりとその場の指揮を取っている指揮官がに目を向けた。 そして彼は言った。 「イレブンなど相手にするなっ!!!まずはブリタニアの兵士を………」 そういいかけて、すぐに絶句する。 二人が他とは違う服装をしていることに気付いたから。 負傷して息も絶え絶えのイレブンの男に笑いかけたあと、はスッと立った。 後ろに控えているも、指揮官を瞳でとらえる。 「私はエンジェルズ・オブ・ロード、・ルゥ・ブリタニアです。 こちらは私の仲間、・ルシフェル。」 「・ルシフェルです。」 ぺこりとは丁寧に頭を下げる。 周りがザワっと声を立てた。 「・ルゥ・ブリタニアって皇女の?」という声や、 「エンジェルズ・オブ・ロードって言ったら、皇帝直属じゃねぇーか」などという声がする。 はあまり政界や軍には顔を出してこなかった。 だから彼女自身が名乗るまでは皇女だと気付かれないことが多い。 それにエンジェルズ・オブ・ロードは、今までひっそりとエリア7で活動していた。 8年前は有名になったものの、二人がエリア7へと姿を隠してしまったため、 最近ではあまり噂にはならなかったのだ。 「……皇女殿下が何ゆえこんなところへ………。」 「もともと私達はここ、エリア11で数ヶ月前から復旧作業をしていました。 今日も復旧作業をしている途中、バベルタワーの異変に気付いたのです。 タワー崩壊後に、私達もできることをと思いまして、こうして人命救助にあたっています。」 そこでは一度言葉を切った。 目の前の指揮官は、きちんと礼を正して聞いている。 彼女は瞳を伏せて、言葉を続ける。 「あの、それでお願いがあります。 命に危険性のある日本人の方も、病院へ搬送していただけるようにしてもらえませんか? ブリタニア人とか日本人とか、この際関係ないことだと思うのです。 だって、どちらも同じ人間の命でしょう………? 怪我をすれば誰だって痛いものです。 日本人は誇りこそなくしたものの、人間であるという権利を失ったわけではありません。」 の言葉が響き渡った。 指揮官は皇女に対する礼儀は崩さなかったものの、鋭い目つきで彼女を睨む。 まるで彼女の言ったことを全て否定するような顔つきをしていた。 「様。いくら皇女様でも、その願いは聞くことができません。 ブリタニアは日本に勝った。ゆえにイレブンは常にブリタニアの下なのです。 だから全て、ブリタニアは優先されるもの。そういうルールです。 それが分からないあなた様ではないでしょう? これはあなたのお父上、ブリタニア皇帝が決めたことなのですよ。」 「でもっ………!!!こんなに苦しんでる人がいるっ!!! 勝ったとか負けたとか、そんなもので人の権利は左右されない!!!」 「左右されるのですよ。弱者は強者に喰われる。それが自然界の掟。 それに………日本を壊滅させたのは、あなた自身じゃありませんか、様? あなたが8年前、ブリタニアとして日本を破った。 そのせいで、イレブンはブリタニアの下になった。違いますか?」 ニヤリと笑って指揮官がとどめの一発をに浴びせた。 彼女はそれを聞いて何もいえなくなる。 悔しそうに爪が食い込むほど拳を握り締め………。 何も言わなくなったを見て、 指揮官は勝ち誇った顔をして「失礼します。」と言い、二人から離れる。 「………?」 が彼女の顔を覗き込めば、ポタリと一粒涙が流れた。 悔し涙なのか、後悔の涙なのか彼には分からない。 手をとって、優しく手を開いてやった。 その時、かすれた声がして二人のマントを掴む人物。 それは、先ほど息も絶え絶えだったイレブンの男だった。 「あんたたちが、噂のセラフィムかい。あんた達にお願いがあるんだ。」 「何でしょう?」 まだうまくしゃべれないの代わりにが返事をする。 男はの腕の中で抱かれたまま言った。 「実は、サイタマゲットーのほうでブリタニアの知人が病院をしてるんだ。 そこの病院はイレブンも見てくれるはずだから、みんなをそこに連れて行くといい。 道はサイタマゲットーにいる奴らに聞けば分かるはずだ。 俺はたぶん、もうだめだ………。頼んだぞ、セラフィムさんよ。 俺、イレブンのことを日本人と呼んでくれた様を、一生忘れねぇ……」 涙を流すを見て、彼はニィっと人懐っこい顔を向けた。 そしてすぐに瞼が閉じられる。 が声をかけつつ体をゆするが、もう何も反応が見られなかった。 彼は男を見たまま顔を伏せる。 「また僕たち、助けられなかった。どうしてこんなに人が死んでいくんだろう。 どうして全員を助けられないんだろう………。」 そんな風に言うの肩に、優しい手が置かれる。 の手だった。 振り返ると彼女が涙をふいてから口を開いた。 「…………。」 その言葉だけで、彼にはの言いたいことが伝わる。 悔やんでいる時じゃない。一人の犠牲は払ったけど、多くの人を救える可能性ができた。 情報をくれたこの人に、感謝しなければならない。 「誰か医学を学んでいたり、医師経験をつんだ方はおられませんかっ!? 医師が不足しています!!!もしそういう方がおられましたら、手を貸してください!!!」 突然、近くでそんな声が上がる。 負傷者の増加に伴い、手当てが出来る医師もだいぶ不足してきたのだ。 は立ち上がった。 を見て、にっこり笑うと彼に伝える。 「私、医師免許持ってるから手伝ってくる。 だって、私がしばらくエリア7でお医者さんしてたこと知ってるでしょ?」 明るく彼女は述べた。 シュナイゼルと似て聡明なは、 ブリタニアの飛び級制度を利用して医師免許までも取得していた。 人を助けたい。そういう思いが彼女の努力を助けたのだろう。 「知ってるよ。じゃあ僕は、怪我した日本の人たちを病院へ搬送する。」 彼はそうに告げ、腕の中で眠る男をゆっくりと抱えた。 「生まれ変わって、たくさんの幸せがあなたに訪れますように。」 はその男性に向かって静かにいうと、医師を募集している軍医のもとへ走っていく。 も自分のやるべきことに向かって歩き出した。 車を借り、怪我をしたイレブンを集める。 「みなさん!!!これからあなた達をサイタマゲットーの病院へ搬送しますっ!!!」 8年前、私達は日本を潰した。日本人から誇りを奪い取った。 だけどそれが過ちであることに気付いたから。 だから私達は、今、こうして人を救おうと思っている。 犯した罪は消えない。 それは分かっている。どんなによいことをしても、絶対に――――――。 それでも私達は…………………。 ぬぐうことのできない、罪という名の重い枷(かせ)。 |