焼けた大地に、僕との二人は足をつけた。 僕たちがその罪に気付いた時、空はまるで僕たちの代わりにでもなるように、突然泣き出したのを覚えてる。 空の涙が僕たちの体を濡らす。頬を伝って落ちる水はとても冷たかった。 その時のは、空の涙を全身で受けつつ、僕に向かって小さく呟く。 「ねぇ、雨が私の血を洗い流す………。 血だけが洗い流されて、そして私に残るのは『罪』と『罰』の二つだけ。 この二つは絶対に洗い流されないものなのね…………。もっと早く、気付けばよかった。 こんなことをしても意味がなかったってことに。どうやっても、あの人はもう、帰ってこない。」 なんて愚かな私たち………。 彼女はそう言って、涙を溜めて笑った。 は頭を押さえつつ、起き上がった。 一体どの記憶が消えたというのだろうか?自分でも分からない。 ふとを見ると、彼女はスヤスヤと眠っていた。そう、今はゆっくり眠ったほうがいい。 眠って、そして忘れるんだ。学園でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと出会った記憶。 学園で出会ったのはただの生徒会長、ルルーシュ・ランペルージ。今はロロの兄………。 は濡れたの髪を拭き、服を着替えさせベッドへと運ぶ。 掛け布団を肩までかけると優しく額にキスしてドアへと向かった。 ギアスを使った反動で、頭がガンガンと痛む。 キィとドアを開け部屋から出ると、はそのままドアを閉めて背中を預けた。 身近な人にはギアスを使いたくなかった。そんなことがないようにと、これまでずっと気をつけてきたのに。 彼は小さく笑った。自分をあざ笑うかのように。 「…………。」 突然名前を呼ばれる。 服を着替えたスザクが、心配そうに立っているのが分かるが、は彼を見なかった。 目を伏せたまま、ぽつりと呟く。 「彼女は大丈夫だよ。」 「どうしてそう言えるの?」 「……………。」 だってギアスで彼女の記憶を書き換えたから。 「きっと彼女はもう、ルルーシュを思い出さないよ。」 逃げるように言葉を吐き捨て、はスザクの横をすり抜けようとする。 とにかく少し、休みたい。赤い光と模様が先ほどから頭の片隅でちらつく。 それがとても気持ち悪く思えた。まだかすかにギアスが発動している感覚がして、は顔を伏せたまま。 今はスザクと目もあわせたくなかった。しかし彼の行動は、スザクの行動によって阻止された。 すりぬけようとするの腕をいきなり掴むスザク。 「放せ。」と声を上げようとして、顔を上げた。の瞳を見たスザクが目を細めた。 彼は急に、氷のように冷たい目をに向ける。 どうして………? 理由が分からなくて、はじっとスザクを見つめた。 彼はの腕を掴む手に力をこめた。爪が立つほどに。 「スザク、放せ。痛い………っ!!!」 悲痛な声を上げても、スザクは腕を放そうとしなかった。 何かを憎むかのように、ますます力をこめ、を見る瞳は鋭くなっていく。 「スザクっ!!!いい加減にしろっ。」………そう叫び声を上げると、彼は冷たい瞳のまま言った。 「…………君、ギアスを持ってたんだね。」 「どっ………どうしてスザクが、ギアスのこと、を、知って……るんだ?」 動揺したまま言葉を返せば、「君のような瞳、一度だけ見たことある。」と、スザクは答えた。 は自分の目を覆った。そうか、瞳にギアスが出ているのかとやけに冷静に答えに行き着いた。 スザクは彼の腕を放し、静かな声で淡々と語る。 「………僕はギアスが嫌いだ。ギアスのせいで、沢山の人が死んでいった。 君は知ってるかい?黒の騎士団を率いてたゼロは……ギアスを持っていた。 そのギアスでユフィが死んだ。そのギアスで僕は――――――――生き残った。」 スザクがに背を向ける。 も瞳を下に落として黙ったままスザクの言葉を聞いた。 そうか………やっぱりそうだったのか。 1年前、ゼロがいた頃の話。これまで他人のギアスなんて、ロロ以外に感じたことはなかった。 けれどもゼロが世間に現れるようになったとたん、激しくギアスを感じるようになった。 ゼロはギアスを持っているんじゃないか?という疑問は大きくなるばかり。 でもその確信がとれないまま、ゼロは消滅した。スザクの手柄によって………。 そういえば、つい最近エリア7が襲撃され戦闘になった時、スザクは死にかけたことがあった。 はその時スザクを助けるために彼の中に力を送り込んだ。 意識を集中させて彼の中に入ったとたん、激しいギアスの力に襲われたことを思い出す。 あれは………そう、『生きろ、スザク』と叫んでいた。 きっとそのギアスは、ゼロのかけたもの。そのギアスに、自分のギアスを吸収させた。 『死ぬな、スザク』と命令して…………。 「―――――そのギアスをかけたのはゼロ………そうなんだな、スザク。」 背中を向けたまま、スザクが一度だけ頷く。 静かな時間が流れ、再びスザクが口を開いた。激しい憎しみの炎を灯らせながら。 「ギアスなんてなかったら、ユフィも死ぬことがなかった。 ブラックリベリオンなんて起こらなかった。全てはギアスのせいだ。そんな力、この世界にはいらない!!! ギアスなんて、人間を不幸にするだけだ!!!どうしてはその力を持ってる!? ギアスを持つ君なんて…………人を不幸にするしかない存在だっ!!!」 振り向くスザクの瞳は、憎しみに染まっていた。 はそんな彼の言葉を聞いて、辛そうに顔をゆがめる。 唇をかみ締めたあと、小さく笑って思った。 (自分では分かってたことだけど、改めて人から言われるとやっぱり辛いな……。) は穏やかな表情を浮かべたまま、顔を上げる。 スザクはを見て動揺した。どうしてそんなに穏やかな顔ができるのか? それが不思議でもあり、逆に怖くも思えた。はスザクを見たまま言葉を発する。 「分かってるよスザク。ギアスを持つ僕は、人を不幸にするだけだ。 それはもう、イヤというほど経験してきたし、理解している。僕のギアスはすでに人の命を奪った。 たくさん、たくさんね。8年前の話だ。僕はこの力の怖さを知った時、死にたくなった。 でもが言ってくれたんだ。」 「ギアスを持つことだって、悪いことばっかりじゃないと思うの。 クスリと同じよ。人にとって害を与えるかもしれないけれど、クスリにもなる。ギアスはそれと同じ。 ギアスで人を傷つけることがイヤならば、人のためになることに使えばいい。 ギアスを使うのがイヤなら、使わなければいい。 どうして死のうと思うの?どうしてもっと他のことを考えないの? 死のうと思うのなら、ずべての手段を試してからでもいいじゃない。 生きていればきっと、『ギアスがあってよかった』って思えることも出てくるかもしれないわ。」 だから、生きて。 「彼女はそう言ってくれた。だから僕は生きた。僕は彼女に生かされたんだ。僕には昔の記憶がない。 どうしてギアスを得たのかも、自分が誰なのかも、どうやって生きてきたのかも分からない。 ただあったのは、罪の意識とギアスだけ。僕だって人を傷つけるためにギアスを使いたくはない。 だから僕は………にもギアスを使いたくなかった。 けど、あのままじゃの心は確実に………壊れていた。 スザクも見ただろう?さっきのの姿を。彼女の心は強そうに見えて、実はすごく弱い。 ここ数年での心は随分強くなったけど、彼女はまだ、8年前の事件を引きずっている。」 はそこまで話して表情を硬くした。空気がぴしりと変わる。 スザクは自分の唇が渇いていくのが分かった。 8年前の事件とはなんだ………? 本国で会議があったとき、エンジェルズ・オブ・ロードの存在に異議を唱えた議員たちが、 シュナイゼルの発した言葉で全員が押し黙った。 「お忘れですか皆様。あの時の彼らの活躍を………」彼はそう言っただけなのに。 震える声で、スザクはに言った。 「8年前って………僕にはよく意味が分からない。 僕が知っているのはただ、君たちが日本を潰したという結果だけだ。」 首を振ってスザクが答える。 は一瞬だけ瞳を伏せてから、くるりと彼に背を向けて言葉をかけた。 「いいよ、詳しく教えてあげる。8年前、僕たちが日本に対して何をしたか。 そして日本は、にどんなことをしたか。彼女のことが好きなら、君も知っておくべきことだ。 ついてきて。長い話になりそうだから、僕の部屋で話してあげるよ。」 「………………。」 スザクは黙って、の背中を追いかける。 8年前、二人は日本に何をしたのだろうか? 日本は二人に何をしたのだろうか? どうして二人は、エンジェルズ・オブ・ロードなのだろうか? 自分の部屋に戻ってきたは、スザクが部屋に入ると静かにドアをしめ鍵をかけた。 スザクはベッドに腰をおろす。も自分のイスに座った。 今の彼は騎士服ではなく、ラフな部屋着だ。 「スザク、君は日本人だから話の途中で怒りが湧き上がるかもしれない。 でも、黙って聞いて欲しい。そのあと、怒鳴るなり僕を殴るなりすればいい………。」 「えっ………?」 の悲しそうな瞳にスザクは戸惑いを覚える。 どうしてそんな瞳をするんだ?そう聞く前に、イスに座る彼は話出した………。 反逆の 僕ら |