スザクはまず、目の前の敵である紅蓮弐式を撃つ。
コクピットの中で、友達だったはずの彼女の名前をつぶやきながら。
今は友達だった人のことなんてどうでもいい。ナナリーとを探すことが重要。
スザクにとって、ナナリーとの存在は大きいものだった。
特には………。彼にとっては、生きる目的だから。
彼女のそばにいることが、スザク自身の役目だと思っているから。それはルルーシュができなかったこと。
ルルーシュよりももっともっと上に行きたい。

だから浮遊航空艦から落ちる紅蓮弐式なんて、気にも留めなかった。
相手が空を飛べないことも分かっているし、助ける気もない。今は邪魔なだけ………。
彼は、冷たい目で海へと落ちていく紅蓮弐式を見つめていた。

一方紅蓮弐式の中にいるカレンは、すさまじい重力の中で母の顔を思い浮かべていた。
もしも自分が死んだら、病院にいる母はなんていうだろう。
「がんばれカレン、私の大事な子」と言ってくれた母。もう、頑張れないよ………。
だって紅蓮は空を飛べないもの。

「ごめんね、紅蓮弐式…………。」

そう呟いた瞬間、ラクシャータの姿が画面に映った。

「ベストポジションじゃない〜♪」

「へっ?ラクシャータさん?」

何がベストポジションなのだろうか?
そう考えているうちに、楽しそうにラクシャータがある言葉を口にする。
『黒の騎士団の秘密兵器』といい、予習はちゃんとしていたかと問われる。
「はい」と答えれば、じゃあいってみようといわれるものだから、
これから何が起こるのか頭が混乱した。
でも、生き残ることができるのなら。まだ戦えるのなら。ゼロが救い出せるのなら。
カレンはラクシャータに賭けることにした。

カレンは紅蓮の機体を回し、飛んできた兵器と接続する。
予習の時に見たものだった。空を飛べる兵器。ブリタニア軍はこれをフロートユニットと呼んでいた。
さらに紅蓮の腕にもう一つの兵器が接続される。シールド。これで敵の攻撃が防げる。

「敵がどれだけいようと………。」

そうカレンはコクピットの中でつぶやいた。
ゼロを助けられるのは自分しかいないのだと言い聞かせ、カレンは紅蓮のフロートを起動させる。
赤いフィルムのようなものが開き、紅蓮は海の上を飛んだ。

「この紅蓮弐式が通用しなかったら、おしまいね。」

「でも、やるしかないから撃ってみましょうか?」

そう神楽に言われて、カレンは鋭い目をした。
大丈夫、紅蓮ならやれると信じて。カレンはギルバートと複数の機体に向けて攻撃を開始した。
赤い光が右腕から放たれ、ギルバートの機体以外が爆発を起こす。

「え………遠距離でっ!?」

突然きた攻撃に、ギルバートは焦る。ここで死ぬわけにはいかない!!!
彼はすぐに回避行動を取る。幸い、ギルバートの機体は無事だった。一部破壊されただけ。
自身は怪我を負ったが、幸い命の危険性はなかった。
カレンは次にナイト・オブ・ラウンズの機体を攻撃する。
ジノとアーニャはすぐさま応戦した。
スザクに「相手はジェレミアに勝ったことのあるパイロットだ」といわれ、ジノは面白そうだと思った。
しかし相手はレジスタンス。果たして、どのくらいの実力なのか?
最初から本気でいくつもりはない。まずはハーケンを繰り出してみる。
あっさりとかわされ、ジノは思わずつぶやいた。

「おいおい、ラウンズ並みの腕前か?」

「でも、これで………」

次にモルドレッドが紅蓮に標準をあわせる。火力ハドロン砲。
これを受けたらひとたまりもない。カレンは大きく叫んで、火力ハドロン砲をギリギリでかわし、
モルドレッドに一撃をかます。その衝撃で、アーニャがコクピットで鈍い声をあげた。

「あんたらは後回しっ!!!」

紅蓮はさらに二つの機体にトドメをさす。
エネルギーを拡散させただけの攻撃なのに、機体がダメージを受けて動かない。
紅蓮が去ってから、少し怒ったような声でアーニャが呟く。

「何?あのナイトメア………。」

「いやぁ、パイロットでしょ?本気だしときゃよかった。」

ジノがアーニャに言う。彼はどこか嬉しそうな目つきをしていた。
まるで新しいおもちゃを見つけたような。
紅蓮弐式はと同じくらい手強そうだと彼は思う。しかし手強いほうが面白い。
はシュミレーションでなかなか相手をしてくれないので、
これからは紅蓮弐式がの代わりになると思うと胸が踊った。
願わくば、紅蓮弐式がすぐに潰されないでと思うジノは、少し不謹慎かなと自分で思い苦笑した。

ジノとアーニャがやられたのを見ていたスザクは、この状況でまだ向かってくるカレンに疑問を持った。
そこで一つの答えが見えてくる。
カレンにとって、ゼロは絶対の存在だった。もしかしたら…………

「ゼロが艦の中にいるっ!?」

それならば、なおさら早くナナリーを救出しなければ!!!
でもランスロットに迫ってくる赤い敵は、そう簡単に行かせてくれそうにない。
紅蓮から放たれたゲフィオンネットがランスロットを囲む。しかしその攻撃はすでに対策済み。

「それは対策済みだ。」

「でも、足は止まったね!!!」

紅蓮弐式はランスロットめがけてまっしぐらに飛んでくる。
白いナイトメア・ランスロットは剣に手をかけた。今はカレンと戦っている場合ではないのに………。
邪魔をしてくるカレンがすごく腹立たしかった。
あと数メートルで二つの機体がぶつかるという時――――――――。

「はあああああああああ――――――――っ!!!!」

黒い機体が紅蓮へと向かってくる。
カレンはちらりと瞳を動かし、ハッとした。このままでは紅蓮弐式と黒い機体がぶつかってしまう!!!
避けようとするが、すでに遅かった。
ガコンと金属と金属がぶつかる音。次にきたのは激しい衝撃。

(こんな時になによっ!!!)

カレンは本気でイラだち、相手を睨んだ。
そして気付く。ナイトメアに生えた白い翼。先ほど戦ったあの機体。
ラクシャータがくれたデータでは『第8世代特殊ナイトメア・』と名称がつけられていた。
ついにブリタニアは、第8世代のナイトメアまで開発してしまったということだろうか?
しかし量産はされてない。まだ試作機?カレンはデータを見て思う。
と紅蓮弐式のにらみ合いがしばらく続く。スザクはそれを、一瞬驚いた目で見ていた。
翼が生えた黒の機体なんて、が操る機体しかない。
すぐに安心して、スザクは彼女の名前を呼んだ。

………無事だったんだ。通信が切れたから、すごく心配して………」

「心配かけたの?ごめんなさい。それよりも、スザクはナナリーを助けてあげて。
私はこの、紅蓮弐式に用事があるから。」

そう言って、の武器である薙刀を手に取る。
相手が攻撃してくると分かって、カレンも攻撃態勢に入った。
の言葉に合わせるようにして、セシルがスザクをせかす。
本艦墜落まで、あと47秒…………。
彼は真剣な眼差しで本艦へと向かい始める。そんなスザクに、が一言だけ言葉をかけた。

「スザク、ナナリーを絶対助けてあげてね。」

「もちろんだよ、。」

彼はそういい残して、本艦へとランスロットを操作した。
去っていく白い機体を見つめたあと、は冷たい声で呟く。

「さあ、私と遊びましょう?紅蓮弐式のパイロットさん?」









一方、ナナリーと対峙するルルーシュは揺れていた。
ナナリーをどうしても連れて行きたい。でもゼロの自分がルルーシュだと正体をバラすわけにはいかない。
強引に彼女を連れて行くのも違う。ナナリーの意志を捻じ曲げたくはない。
どうすればいいというのだ!?迷ってる間にも、この艦は傾いているというのに。

そんな時、壁から何かが突き破って庭園へと現れた。
白い機体。白い悪魔。今やナイト・オブ・セブンの地位にある昔の友達。
瞬時にナナリーを迎えにきたと分かる。ルルーシュはためらいを捨て、妹の元へと走った。
飛ばされそうになっているナナリーの手を掴もうと、彼は自身の手を伸ばす。
しかし彼女から出たのは、ルルーシュの名前じゃなかった。

「スザクさん――――――――っ!!!!」

その名前は、ルルーシュにとって致命的な傷を負わせた。
ナナリーの呼んだ名前の人物は、自分を裏切った。
かつてそいつはあの洞窟でルルーシュに冷たく言い放ったのだ。
「お前は世界を裏切り、同時に世界に裏切られた」と。

(違う!!!そいつは俺を皇帝に売り払った!!!)

裏切り者。
その言葉は、枢木スザクにこそふさわしい言葉なのに………!!!
仮面の中で唇をかみ締めるルルーシュ。スザクは冷たい目をしてゼロを見る。
大事そうにナナリーを守りながら。ナナリーを助けることがとの約束。
これで彼女は笑顔になってくれるに違いない。には笑顔のほうが似合う。
哀しみに暮れた顔なんて、見たくない………。
そう、あの時のようなは、傷ついたは見ているだけで辛い。

スザクはナナリーを抱え、本艦を脱出した。
本艦が海へと落ち、その前に脱出したランスロットを見ては脱力する。
結局紅蓮弐式との勝負はおあずけとなった。紅蓮がの攻撃をかわし、行方をくらましたから。
もナナリーのことで必死になっていたので追いかけなかったのだ。
だらりとシートに体をあずけると同時に、から連絡が入る。

「ナナリー、救出できたみたいだね。」

「うん、そうだね。」

「………あの、、大丈夫?藤堂さんのことは………」

藤堂のことを話そうとするの言葉を遮って、は言葉を返した。

、私は大丈夫。藤堂様のことも、もうちゃんと決めたの。
あのね、私…………一回だけルールを破るけど、許してね。」

泣き笑いのような表情をする彼女に、ははにかんだ。
もう人は殺さないというルールを、の二人で決めた。
けどそれを破ろうとしている。藤堂鏡四郎を殺す。藤堂鏡四郎はを殺す。
殺さなければ、日本人はいつまでたっても夢を見続ける。
戦えば、自分達も勝てるのではないかという。それは間違ったやり方。でも本当に?

銃を手にとって自分達の存在を訴えることが正しい?

組織の中からみんなで声を上げることが正しい?

どっちが正しくて、どっちが間違ってるの?

「………そんなの、私じゃ分からないわ。」

呟くようには言う。
最終的に頭がごちゃごちゃして、彼女はそれを振り払うように頭を振った。
そんなこと、今は考えなくていいかもしれない。
まずはナナリーに会いたい。大事な大事な妹。どんなに怖かっただろうか。
はもう一度レバーを握って、を操った。
帰るために。みんなの待つ場所へと。約束を守ってくれた、スザクがいる場所へ………。








スザクがアヴァロンへと帰ると、ジノもアーニャもも揃っていた。
きょろきょろとあたりをみても、探している人物の姿が見当たらない。
ナナリーは不安そうにスザクの手を握っていた。かすかに震えているような気がする。
ナナリーにも早くに会わせたいのにな………とスザクは思っていた。
の行方を聞こうにも、ジノはロイドやセシルと話してるし、
アーニャは少しムスっとした表情でにぴったりくっついている。とても話しかけられる状況じゃない。

、どこにいるんだろう………。会いたいのに。)

そう思いながらため息をついた時だった。
スザクの姿にが気付く。分かっていそうな顔をして、わざとスザクに尋ねてくる。

「誰をお探しですか?ナイト・オブ・セブン様?」

を探してる。どこにいるか、君なら知ってそう。」

スザクが言葉を返すと同時に、突然近づいてきた気配に、ナナリーがぴくりと動いたのが伝わる。
はそんなナナリーに気付いたのか、小さく「ごめんね。彼女、びっくりさせちゃったね。」と言って、
デヴァイサースーツのまま立ち去ろうとした。
スザクはにもう一度のことを尋ねた。は立ち止まり、しばらく考えたあと言葉を紡ぐ。

「………なら、まだ帰ってきてないよ。今こっちに向かってるところ。」

「そう、なんだ………。」

そのやり取りを、ナナリーが聞いていたのか嬉しそうな表情で声を上げる。
お姉様に会えるのですか!?」と。スザクはにっこりと笑って「会えるよ。」と答えた。
そんなスザクを見て、は去り際に小さい声で彼に言う。

「ねぇスザク。この先が僕たちのルールを破っても、許してあげてね。」

「え…………?」

振り返れば、は背を向けたまま片手を上げて歩いていく。
彼の言った意味が分からず困惑するスザクを、ナナリーは不思議そうに見つめているのだった。
胸のうちでは、に会えるという喜びをひそませながら………。








人間のあやまちは、人間を本来愛すべきものにする。
(ゲーテ)