行動の先にこそ、明日がある。
お前にそういえば、何て答えるだろう、
きっとお前のことだから、「そうなの?」と首をかしげて不思議そうな目をするだろう。
そう、行動の先にこそ明日が…………俺の、俺たちの生きる明日が―――――。








ロロはヴィンセントでゼロを黒の騎士団の潜水艇へと送り届けた。
その際に兄との約束を確認する。ルルーシュは「ああ。約束する。」と答える。
そのまま彼は機体を上昇させた。
ちらりと目を向けると、兄の機体、ランスロット・クラブと、姉の機体、が目に付いた。

(ごめん、兄さん…………姉さん。)

心の中で静かに謝って、飛び去った。

「行政特区・日本に協力する?だからと言って、お前の罪は消えない。」

「スザク。」

ジノが無線を通して、低く彼の名前を呼ぶ。
今は引くしかない。ブリタニア軍はゼロの作戦により壊滅状態。
黒の騎士団を追うにしても、戦力がない。
目を細めて、スザクはジノに答えた。「分かっている、ここは引こう。」と。
今の現場の指揮官はスザク。ほっと、は胸をなでおろした。

黒の騎士団が再び海にもぐり、姿を消す。
それと同時に、はすぐさま海面へと近づいた。
はインカムに手を当てて叫んだ。

「こちらエンジェルズ・オブ・ロードの・ルゥ・ブリタニアです!!!
近くを潜航の船に告ぎます!!!現在ブリタニアでは多数の負傷者が出ています。
もし救出活動に協力してくれる船がいましたら、協力をお願いしますっ!!!」

すぐ横で、海に逃げた兵士たちをがランスロット・クラブで救出していた。
の声を聞き、指定されたポイントに次々と集まってくる船。
その中には、日本の漁船が多数あった。
すべてが、復興活動を通して知り合いになった人たちばかり。

「セラフィムさんたちが言うんだったら、俺たちは協力するさ!!!
たとえいけ好かないブリキどもでもなっ。お前達を信じてるからなっ!!!」

にやりと笑って漁船の乗組員は二人に向かい、グッと親指を突きたてた。
がにっこり笑う。
そんな彼らを見て、スザクは何ともいえない気持ちになる。
日本人の自分よりも、ブリタニア人であるのほうが、彼らの信頼を得ている。
同じ皇帝直属の立場にあっても、日本人と同じ目線に立ち、同じものを見た彼ら。
もしかしたら、自分もそうするべきだったのかもしれないと思う。
戦って、戦って、力を認めてもらうんじゃなく…………。
でも上に行かないと、ナイト・オブ・ワンにならないと、日本という土地は手に入らない。
だけど………今は彼女と同じ目線に立ちたい。

スザクは旋回して、のところへとランスロットを飛ばす。
そのままと同じように、救助を求めている兵士たちを助けた。
無線を通して聞こえてくる優しい声があった。それはの声。

「スザク…………ありがとう。」

画面に映った彼女は、今まで見たことがないほど綺麗に微笑んでくれていた。








ゼロが行政特区・日本へ参加すると告げた数日後―――――――。

コツコツと靴音を響かせ、政庁内の廊下を歩く
ふと、ナナリーの執務室からローマイヤの怒った声が聞こえてくる。
今度はこちらの原稿どおりに………とナナリーが言われているのを聞いて、は苦笑した。

(さすが、の妹だな。)

彼はそう思う。
直接血はつながっていないけれど、が幼い頃共に過ごした存在。
自分で勝手に決めて、相手に怒られるところはそっくりだと、は密かに笑った。
突然扉からローマイヤの顔が現れて、ギョッとする

・ルシフェル様。総督に何か御用でも?」

明らかに怒りを含んだ声だったので、は「いえ………。」と答える。
けれども、「あ。」と呟いたあと、はローマイヤに言った。
一つだけ、ナナリーに伝えることがあると。すぐ部屋に通されて、はナナリーを見る。
とても不安そうな顔をしていた。

(あーあ、かわいそうに。あんなに不安そうな顔して。かなり怒られたのかな?)

そう思いつつ、彼はナナリーの小さな手をとった。
一瞬ピクリと体を反応させる彼女。震える声で「もしかして、さん?」と名前を口にする。
「そうだよ。」と答えたあとで、口には言わず、ナナリーの手に直接手話で伝えた。

『ナナリーの無茶苦茶ぶり、にそっくりだね。ローマイヤさんに怒られて大変そう。
愚痴ならいつでも聞いてあげるからね?』

さん…………。」

ナナリーに笑顔が戻った瞬間だった。
はローマイヤに礼を述べると静かに部屋をあとにする。
その時、バタバタと廊下を走ってくる人がいた。
緑のマントをなびかせるジノ。彼はの存在に気付くと、すぐに走るスピードを緩める。

「どうしたんだ?ジノ。そんなに慌てて………」

「それがな、さっきスザクが日本人の一等兵に襲われたらしい!!!」

は冷や汗をかく。武芸に秀でている彼のことだ。大丈夫だろうと思う。
しかし、もしもスザクに何かあれば―――――――が悲しむ。

「それでスザクはっ!?」

「何ともないってさ。俺も一瞬焦ったけど、相手はスザクだぜ?
たかが一等兵に殺されるスザクじゃないって。」

笑ってジノはそう答えた。よかったとは安心し、再び歩き出す。
どこに行くんだ?とジノに尋ねられ、彼はジノへと振りむいて言った。しばらく自室にいると。
ジノは「そっか。」と呟き、彼を見送った。
エリア11は、ナナリーの行政特区・日本の発言により大きく動いている。
あの人に、このことを伝えたほうがよいだろうと、は思っていた。

自室に戻り、パソコンをつけ、あの人へと連絡を取る。
その相手はすぐ通信に出た。けれども、それはの求める相手ではなく…………

「おお、!!!元気にしているか?」

顔にしわを刻んだ、優しそうな顔。にっこりと笑う目が、にそっくりだった。
はすぐさまパソコンの画面を見たまま叫ぶ。

「ゆっ………ユーサー様っ!!!」

ユーサー・ペンドラゴン。
その昔、アルビオンを統治していたモルガン・ル・フェを支えた人物で、その夫。
クラエスの父であり、の本当の祖父。そして、とロロを可愛がってくれた人。
その人物が、いつもと変わらないニコニコ顔でを見つめていた。

「お、お久しぶり………です。」

硬くなりつつも返事を返すと、相手は寂しそうに笑って言う。

、いつからそんなふうに他人口調になったんだ?
昔は『おじちゃん、おじちゃん』って言いながら、ロロと二人で私の膝の取り合いをしたではないか。
昔みたいにまた『おじちゃん』って呼んで―――――」

「ユーサー、は私に話があって連絡をよこしたんだ。
最近たちが帰ってこないで寂しいのも分かるが、に甘えるのは用事が済んでからにしてくれ。」

横から厳しい口調の女性が割って入ってくる。寂しそうにユーサーが引っ込んだ。
代わりに画面に映る、威厳の備わった女性。と同じ赤い瞳が、をとらえる。

「すまないな、。最近ユーサーは寂しいみたいなんだ。
老人の戯言だと思って、許してやって欲しい。」

「あははは。」と乾いた笑い声を上げる
そういえば、エリア7を出てしばらくたつ。
昔はにぎやかだったあの城も、今は広いだけなのだろうと彼は思った。
感傷に浸りながらも、は表情を真面目なものにしてモルガンに言う。

「お久しぶりです、モルガン様。報告があって、連絡をしました。
その………ユーサー様もモルガン様もお元気そうで何よりです。」

「私はいつも元気にしているよ。」とユーサーが口を挟んだので、モルガンはキッと彼を睨む。
すぐにユーサーの声はしなくなった。彼女の視線が、に戻ってくる。
は苦笑を浮かべつつも言葉を続けた。
エリア11での出来事。新しい総督がナナリーになったこと。
そして、行政特区・日本の再建と、それに協力することにしたのこと。
黙ってモルガンは聞いていた。そして、一つ、言葉を紡ぐ。

「行政特区・日本…………。そうか、今度は悲劇を生まなければいいが。」

「そうなりそうなら、僕たちが全力で止めます。悲劇を生むのは、もう、終わりにしたい。
亡きクラエス様のためにも………。」

は下を向いて小さく呟く。
の母、クラエスは争いを好まなかった。モルガンも、ユーサーも。
その昔、アルビオンはブリタニアのように何回も民族同士の戦いを繰り返してできた国だった。
だからアルビオンの人々は争いを嫌う。

「そうだな。私も悲劇は生んでほしくない。ただ、無茶はするなよ、
にもそう言っておけ。あの子は少し、無茶をするところがある。」

「それは僕がよく知っていますよ。が無茶しそうになったら、僕が殴ってでも止めます。」

冗談めいたように言うと、モルガンが笑った。
「お前が言うと、冗談には聞こえないな。」と静かに呟いて。
彼も一緒に笑った。そして別れの言葉をつげる。遠くでユーサーが叫ぶ。
近いうちに、とロロをつれて顔を見せに来て欲しいと。
モルガンは困ったような顔をした。も少しはにかみ、うなずいた。
通信を切ると、画面にブリタニアのマークが出る。

「近いうち…………か。」

は呟いた。
近いうちと言っても、だいぶ先になりそうな気がすると思いながら、大きく伸びをした。








「言わなくてよかったのか?モルガン…………。」

通信が切れた画面を見て、ユーサーがモルガンの肩に手を置く。
モルガンは首をふって答えた。

「今言うと、を心配させるだけだ。それに、たかがタロットのカードだろう?
何の信用性もない。当たるかどうかも分からない、非科学的なものだ。
それこそに、余計な心配をかける。」

「だが、お前のタロットは一度も外れたことがない。クラエスの時だって………。」

モルガンは肩に乗った手に、自分の手を重ねた。
瞳を細め、そのまま俯いて言葉を発する。

「まだ全て、分かっているわけじゃない。タロットで『DETH』のカードが出ただけだ。
それだけだよ、それだけ…………。
クラエスのときは、バンシーが来た。今回は来てない。きっと私の間違いだ。」

そう、笑ってモルガンは言う。
バンシーなど、来ないほうがよい。悲しみはもう、たくさんだ。
モルガンは強くユーサーの手を握った。








悲しみは独りではこない、必ず連れを伴ってくる、その悲しみの跡継ぎとなるような連れを
(シェイクスピア)