その夜、ゼロと百万人が国外追放となり、政庁は人の出入りやあわただしさが際立っていた。
とりあえずブリタニアはテロリストを排除できたことになる。
しかしゼロのことだ。またいずれ、ブリタニアに戻ってくるだろう。
今回のように、巧妙な策を使って………。

はそのまま、テラスで星空を見上げた。きらきらと光る星たち。
昔、自分の母が言っていたことを思い出す。人は死ぬと星になるのだと母は言っていた。
死んだ人はどこへいくの?という、幼い頃の自分を納得させるための嘘。
けれども………ホントであってほしい。そう願うのは、わがままだろうか?
あそこにはきっと、母とルルーシュ、クロヴィスやユフィがいると信じたい。
彼らは星になって、この世界を光で満たしているのだと信じてもいいだろうか………。
持っているカップから、ふわりと湯気が上がった。

、ここにいたんだ。」

振り返ると、と同じようにカップを持って立つが視界に入る。
彼はの隣に来て横に並ぶ。カップに口をつけ、コーヒーをゴクリと飲んだ。
白い喉が上下してコーヒーが滑っていく。もカップに口をつけ、ココアを飲んだ。

「それで、私に何か用事?」

しばらく二人はしゃべらないままだったが、から口を開いた。
は遠くを見たまま何も言わなかった。何かを考えてるようにには見えた。
彼女はの言葉を待つ。数分もしないうちにが言葉を発した。

「いや………用事はないんだけど、なんとなくの顔が見たくて。」

「何よそれ。私の顔なら、いつも見てるでしょ?長い間、ずっと。」

最後のほうだけ声のトーンが落ちる。

「そうなんだけどね。何となく、ロロみたいにに甘えたい気分なんだ。」

そうはにかんだあと、は甘えるようにの肩に頭を預ける。
「もう!!!」と少し怒った声をあげる彼女だったが、決していやな顔はしなかった。
ボソリと「甘えん坊」とだけ呟き、再びカップに口をつける。は軽く目を閉じた。
の香り。なんとなく元気が出ない時は、いつものそばに行く。そうすれば安心できるから。
どんな不安なことがあっても、に甘えると何でも吹き飛んでしまう。
彼女は魔法のような存在だと、は思ったことがあった。

「ねえ。私昔ね、人の心が読めればいいのにって考えてたことがあったの。
そうすればきっと、誰とでも分かり合えるんだって思ってた。
でも………違うのね。大きくなって、いろんな経験をしてから分かったの。
人間には他人に秘密にしておきたいことがたくさんできるんだってこと。
きっと心が読めてしまったら、人はいつも孤独だったかもしれない…………。」

は瞳を伏せて言う。
は目を閉じたままそれを聞き、彼女に言葉を返した。

「そういえば、ギアス能力の中にも、人の心を読み取る力があるらしい。
でもそれは、僕には呪いにしか思えない。
人とわかりあうには、やっぱり自分で自分の考えを訴えるのが一番いいんじゃないかな。」

「そう………ね。は、ゼロと分かり合える日が来ると思う?」

コトンとカップをテラスの塀に置いて、が尋ねた。
しばらく沈黙が続く。風の音も、虫の声もない夜。ただ星が瞬くだけ。
暗闇の中にの静かな声が響き渡った。

「…………来ると思うよ。だってゼロも僕たちも、同じ人間なんだから。」

の言葉にが小さく笑った。
「そんな日が、来ればいいね。」なんていいながら、の頭に自分の頭を近づける。
銀の髪と赤い髪が交じり合った。











黒の騎士団の潜水艇の一室で、ルルーシュは唸り声を上げていた。
仮面は取られ、ゼロの格好のままパソコンに向かっている。
パソコンで探っているのはブリタニアのデータベース。
彼はもう一度パソコンのキーボードを叩いて必要な情報を入力する。
祈るようにしてエンターキーを押すが、コードは拒否された。

「くそっ!!!!」

どうしてだ?とルルーシュは怒りとともに疑問にさえ思う。
のことを知りたくてブリタニアのデータベースに進入したものの、
の情報を引き出そうとするとどんなコードも拒否されてしまう。
画面に表示された『Error』の文字と、アクセス禁止を意味する文字列。
・ルゥ・ブリタニアに関しては、ブリタニアのデータベースでトップシークレット扱い。

「機情配属のロロでさえデータが出せたのに、
どうしてただの皇女であるはデータが出ないんだ!?
に何か重大な秘密でもあるのかっ!?」

必死でのことをインターネットでも調べるが、何も情報が出てこなかった。
いや、それが逆におかしいとさえ思える。完璧すぎるほどの情報の徹底ぶり。
何か一つ、のことについて情報が出てきてもいいはずなのに、何をやっても出てこなかった。
クラエス皇妃が死んだときのことについても、の名前は出てきていない。
かといって、彼女がルルーシュのように死亡扱いになっているふうではなかった。
はブリタニア皇帝に一番大事にされていた皇女だし、政治の舞台にもこれまで出てきたことがない。
皇族の中では有名でも、世界では知られていない皇女の一人なのかもしれない。

(だからって、トップシークレット扱いになるか?)

画面を見つめたまま、彼はの姿を思い出す。
彼女は今にも泣き出しそうな顔で画面に映るゼロを見ていた。
「もう犠牲は出したくない」と、ゼロに訴える声は、かつて自分の名前を呼んでいた声と同じもの。
とても愛しい存在。そんな存在を、スザクが………大事そうに抱きしめていた。

怒りがこみ上げてきて、ルルーシュは乱暴にパソコンを操作した。
のことが出てこないのなら、先にあの見慣れない機体のことを調べておこうと思うルルーシュ。
再びブリタニアのデータベースにもぐりこんで、あの、羽の生えた機体についてのページを開く。
出てきたのは機体についての報告書と写真。
気持ちを落ち着かせながらじっくりとその報告書を読んでいった。

「共に第8世代のナイトメア。特殊なものでまだ試作機か。
なるほどな、白いほうはランスロットが基礎になっているのか。名前はランスロット・クラブ。
この黒いほうも同じ仕組み………。名前は。どちらも完成して日が浅い…………。」

ルルーシュは報告書から写真へと視線を移した。
ブリタニアのマークの横に、とぐろをまく蛇のエンブレム。
これを見て、ルルーシュは一人で笑う。

「とぐろをまく蛇のエンブレム。なるほどな、神にもっとも近い存在って言いたいわけか。」

とぐろをまく蛇のエンブレムは、熾天使・セラフィムのエンブレムである。
セラフィムは天使の9階中第1階の天使であり、威厳・名誉・高位を象徴する。
ルルーシュはそのエンブレムを見て直感で思う。
一筋縄ではいかない相手だと。しかしこれを操っているのはナイト・オブ・ラウンズかどうか。
それが疑問で仕方なかった。この報告書では、デヴァイサーのことについては書かれていない。
ただ書かれているのは、シンクロ率が最低90%以上必要だということだけ。

「………やっかいな相手だな。そのとランスロット・クラブという機体は。
紅蓮弐式でさえ前の戦いで苦戦していた。のデヴァイサーは、かなりの腕前なのだそうだな。
カレンがそう言っていたぞ?」

後ろから声がして、振り返ると黒の騎士団の服を着たC.C.が立っていた。
にやりと笑っている。ルルーシュはすぐにパソコンへと視線を戻す。
そんな彼を横目で見てから、C.C.はどさりとソファに座った。
「機嫌が悪そうだな。」と小さく呟くと、ルルーシュは「別に………」と低く答える。
C.C.はチーズ君を抱きしめてから言った。

「お前の好きな女が会場にいたから動揺しているのか?名前は確か………。」

すぐにルルーシュの体がC.C.のほうを向いた。

「…………っ!!!なぜお前がを知っているっ!?」

ギロリと鋭い目が彼女に突き刺さったので、C.C.はルルーシュから目をそらした。
ごろんとソファに寝転び、天井を見て呟く。

「カレンが言っていたんだ。お前がこの前、『』と言っていたと。
だから調べた。・ルゥ・ブリタニアについて。だけど結局分かったのは名前くらいだ。
ブリタニアというからには、皇女なんだろう?
お前にとってというのは、ナナリー以上に大切な存在なのか?」

「そんなことを聞いてどうするんだ?弱みにでもするのか?まあいい。正直に答えよう。
ああ、大切だ。だから、俺はブリタニアからを取り返してみせる。
彼女のことを溺愛しているブリタニア皇帝から、奪うんだよ。を。
そう、殺してでも……………。」

最後は聞こえるか聞こえないくらいの声の大きさだった。
その言葉を告げる頃には、ルルーシュの瞳はパソコンの画面を映している。
とランスロット・クラブの資料を印刷し、彼は仮面をかぶって部屋を出た。
パタンと、静かに扉が閉まる。ルルーシュの姿が消えたことを確認したC.C.は、一人でしゃべり出す。

「ルルーシュはのことが大切なんだそうだ。
………そうなのか?全く、昔から青臭いガキだったんだな。
わかってる、ルルーシュには彼女のことは言わないよ。お前から聞いたこともな。
言ったらあいつはパニックを起こす。それにしても………・ルゥ・ブリタニア。
こちらとしても欲しい存在だ。
―――――――そうだな、は絶対に黒の騎士団には参加しないだろう。
結局、あいつの恋人は敵のままだ。動揺するだろうな、真実を知れば。
別に?ただ私の気になっていることは、とは別の人物、・ルシフェルのことだ。
………いや、違う。そいつにギアスを与えたのは私じゃない。おそらくV.V.でもないだろう。
ああ、気をつけるよマリアンヌ。もしかしたら、・ルシフェルは最悪の敵かもしれない。」

その言葉を最後に、C.C.は口を閉じた。
静かに目を閉じると、ぎゅっとチーズ君を抱きしめた。
ルルーシュはいつか、に再会するだろう。
その時、彼らはどうするだろうか?












神聖ブリタニア帝国・本国―――――――。

エリア11での行政特区・日本の報道を、シュナイゼル・エル・ブリタニアは手を組んで見ていた。
画面には誰もいなくなった会場が映っている。
ニュースキャスターは必死に報道を続けており、シュナイゼルはフゥとため息をついた。

「まったく、ゼロはやってくれたね。敵は相当、頭がいいようだ。」

そういいながら、テーブルに置かれた白いチェスの駒を動かす。
コトンとビショップが動かされ、シュナイゼルはそれをじっと見つめた。
そのあと、部屋の片隅で待機するカノンへと顔を向けていった。

「数日後、オデュッセウスと中華連邦の天子様との婚儀を行うことにしよう。
そう、通達を出してほしい。
それから、エリア11にいる・ルゥ・ブリタニアと・ルシフェルを呼び戻してくれ。
二人には私に付き添って、ブリタニア帝国代表としてオデュッセウスと天子様の婚儀に出てもらう。
しかしそのことを、たちに言ってはいけないよ。断られる可能性があるからね。
はパーティー嫌いだから、私からうまく説得してみせるよ。
私が緊急に呼んでいる………と言えば、あの子は飛んで帰ってくるはずだよ。
よろしく、カノン。」

最後に優しい笑顔をカノンに向ける。カノンも笑って、シュナイゼルに答えた。

「イエス・ユア・ハイネス。」

そのままカノンは、シュナイゼルの執務室を出た。
シュナイゼルはテレビに映し出されたゼロの姿を見て思う。

(さあゼロ、君はこれからどう出るのかな?私はもう、手を打ったよ。次は君の番だ…………。)

シュナイゼルは視線を、黒のチェスの駒へと移すのだった。









聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。万軍の主。その栄光は全地に満つ。
(イザヤ 6の3)