洛陽内は逃げまどう人々と、ナイトメアで溢れかえっている。 そんな中、香凛(チャンリン)は焦っていた。 星刻の援護をするための味方部隊に呼びかけても、何の連絡も来ない。 どうして?そう彼女は考えて、とある一つの答えにたどり着く。 (まさか、我らの策がゼロに使われている?) 頬をつめたい汗が伝う。星刻は………?天子はどうなっているのだ? その答えを教えてくれる人はいない。 一方で、星刻はゼロとにらみ合っていた。その光景を、シュナイゼルやカノン、ジノとアーニャも見ている。 とも鋭い目つきでゼロを睨んでいた。 誰も何も言わない中、ゼロがただ一つを星刻に問う。 「星刻、君なら天子を自由の身にできると?…………違うな。」 答える隙もなく、ゼロはすぐに否定した。 その瞬間、上からナイトメアが現れ、ミレイが悲鳴を上げる。 土煙に顔をしかめ、との二人が顔を上げるとそこにはあの機体がいた。 決して忘れない、先日戦った機体。 「藤堂…………さんっ。」 小さくが声を上げた。 ゼロと並んでいるナイトメアが藤堂の操るものだと思うと、 イヤでも藤堂が黒の騎士団の人間であるということを思い知らされる。 藤堂もすぐにとの二人に気付く。 ナイトメアの中で、彼は小さくその名を呟いた。 「・ルシフェル。それに・ルゥ・ブリタニア…………。」 そう、彼らと戦わなくてはならない。どちらかが息絶えるまで。 それがお互いの責任の取り方。生かした責任、殺さなかった責任。 しかし今は任務を優先させなければならない。 ゼロに指示され、シュナイゼルを狙おうとした瞬間、すぐに別の機体から攻撃を受ける。 彼は直感で「来た」と思う。そう、白い悪魔………枢木スザクが。 藤堂の機体はフロートを使用して空へと飛び立った。 その隙にシュナイゼルとオデュッセウスが避難する。 ルルーシュは立ち去るシュナイゼルを睨みつけた。 シュナイゼルとオデュッセウスの避難を確認したジノは、今度に呼びかける。 「、お前も避難しろ!!!今のお前は皇女だろ?」 ジノが彼女にそう言うのと同時に、ルルーシュの視線が純白のドレス姿のをとらえた。 彼女は潤んだ瞳でゼロであるルルーシュを見ている。 腕の中の天子が「星刻っ」と叫び声を上げた。時間がない………。 名残惜しそうに彼女を見つめたあと、ルルーシュは上着を翻して用意されたナイトメアへと向かう。 その時、綺麗な声が上がった。 「ゼロっ。私は…………いつかあなたと分かり合えると信じていますっ!!!」 ルルーシュはその言葉に、ぴたりと歩みを止める。 後ろを振り返ると、痛々しい表情を浮かべたがルルーシュを見ていた。 泣いているような、笑っているような、よく分からない表情。 あの時と同じ顔だと、ルルーシュは大きく目を開かせる。 エリア7に帰るときに彼女が見せた表情と全く一緒。 あの時も、こんなふうによく分からない顔をしていた。 その表情で、きっと戻ってくると彼女は言ったのだ。 は母親が死んでから、一度も泣かなかった。でも、あの時初めて泣いた。 振り返った時の彼女の涙は、本当に綺麗で………。 そして今も、の瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。 (一緒だ。何もかも、あの時と………。はあの時もこんなふうに泣いていた。) もしも世界の時間が止まったなら、ルルーシュはを抱きしめに行っていただろう。 でも、時間は止まらない。そんなの分かっている。 の言葉に、ルルーシュは精一杯の想いを託して一言答えた。 「ありがとう、・ルゥ・ブリタニア………。」 それだけを残して、ルルーシュは用意されたナイトメアに乗り込んだ。 そのまま上空へと飛び去る。は優しい目をしてその機体を見ていた。 (ゼロ………私たちは、同じ人間。きっといつの日か、分かり合えますよね?) たとえあなたが今、テロリストのリーダーだったとしても。 中華連邦の晴れ渡った空で、スザクの機体と藤堂の機体がぶつかり合っていた。 藤堂の機体にもフロートが装備された今、二人の力はほぼ互角だった。 スザクが攻撃すれば、藤堂が避ける。 藤堂が攻撃すれば、スザクが避ける。 スザクはランスロットの中で舌打ちした。らちがあかない。 藤堂も斬月を操りながら、じっと考えていた。 ここで落とされるわけにはいかないのだ。藤堂の相手はスザクではない。 その先に待ち構える、と。 彼らは責任を取ると言った。日本人に甘い夢を見せた藤堂に。 希望を絶望に変えると、そう言ったのだ。 だから藤堂も、責任を取らなければならない。 8年前の戦争で、二人を殺さなかった責任。多くの日本人の命を手にかけた彼ら。 その二人を、藤堂は裁かなかった。裁けなかった。彼らはまだ、10歳だったのだから。 ランスロットの剣を、斬月が避ける。 背後でゼロと天子を乗せた機体が飛び去っていく。 それに気をとられたスザクの隙が、藤堂にとってチャンスとなった。 藤堂の斬月は一気にランスロットのフロートを破壊する。 (今は、これだけでいい…………。) 藤堂は心の中でそう思い、そのままゼロと一緒に空の彼方へと飛び去っていく。 ランスロットのフロートを壊されたスザクは、渋い顔をしたまま飛んでいく機体を見ていた。 下に目を向けると、潤んだ瞳のがモニターに映し出される。 赤い瞳が、スザクと同じ方向を見ていた。 天子は守れなかったが、とりあえず守らなければならないものは守れた。 シュナイゼルと。特には、スザクが一番守りたい存在。 天子のことは、星刻に任せようと思った。 きっと星刻にとって天子は、スザクにとってのと同じなのだと思う。 彼が天子を、守らなければならない…………。 ランスロットは、そのまま静かに地面へと降り立った。 まもなく、星刻たちは反乱軍として中華連邦の兵たちにより捕らえられる。 スザクたちはシュナイゼルと一緒にアヴァロンへと戻った。 とはアヴァロンへ戻ると、すぐに自室でいつもの服に着替えた。 は自分の部屋で真っ白いドレスを脱ぎ捨てると、ベッドに置いた。 じっと見て、それからクスリと笑う。 「ドレスなんて、私には似合わないね………。私はやっぱり、こっちがいい。」 そう小さく呟き、いつもの騎士服に袖を通した。 スカートをはき、ブーツを身につける。マントをつけ固定し、服の中に入っている髪を外へ出した。 長い髪がふわっと外へ開放されて流れる。 ドアノブに手をかけ、そのまま外へと出た。 向かい側の壁に、もう着替え終わったが壁に背中をあずけて腕組みをしていた。 「…………。」 彼の名前を呟くと、はにっこり笑って言った。 「ふふ、ドレスもいいけど、やっぱりはこっちのほうが似合ってるかもね。」 その言葉に、も笑った。そして同じように返す。 「も、そっちの服のほうが似合ってる。」 そう言うと、は体勢を元に戻しの隣へと立つ。 二人ならんで、アヴァロンの廊下を踏みしめた。 シュナイゼルがいるであろう部屋に向かって歩き始める。 部屋に着き、扉を開けるとすでにナイト・オブ・ラウンズの三人が揃っていた。 カノンもシュナイゼルの横に立っている。 オデュッセウスの姿だけはその場になかった。 二人が部屋に入ると、シュナイゼルの優しい顔が一瞬厳しいものへとなる。 スザクも振り返って、二人の姿を見て「え?」と思った。 「、その格好は…………」 シュナイゼルの言葉には何も言わず、とは彼の前にひざまずく。 同時に、少女の可愛らしい声が部屋の中に響いた。 「シュナイゼル殿下、ナイト・オブ・ラウンズ同様、 エンジェルズ・オブ・ロードも殿下の配下にお加えください。」 その光景を、ジノとアーニャがじっと見ている。 スザクもの後姿から視線をそらすことができない。 彼女にそう言われ、シュナイゼルは少し困った顔をする。 「しかし………」 そうしぶるシュナイゼル。 は下に伏せていた顔をあげ、まっすぐな瞳で兄を見た。 赤い瞳がシュナイゼルを射抜く。柔らかな唇が動いた。 「お兄様、私は皇女じゃなくてエンジェルズ・オブ・ロードでいたいの。 ワガママかもしれないけど、お兄様をすごく困らせているかもしれないけど、これが私。 だから――――――――」 必死でそう訴えるに、シュナイゼルは笑った顔を見せた。 「わかったから。」と優しくそう言い、エンジェルズ・オブ・ロードを配下に加える。 とはほっとして、すぐにスザクの横へと並んだ。 「…………。」 隣に並んだ彼女の姿を見て、翡翠の瞳が彼女へと落ちる。 もスザクを見上げて、ゆったりと微笑んだ。 「スザク………私は守られるだけなんてイヤなの。 できることがあれば、自分の力でやりたい。 またたくさん心配や迷惑をかけるかもしれないけど、よろしくね。」 彼女の言葉に、スザクは小さく頷く。 彼の頷きにほっとし、はそのまま、スザクに聞こえるだけの音量で一言呟いた。 「…………それと、昨日はごめんね。いきなり部屋を飛び出しちゃったりして。」 「えっ?」 を見ると、彼女の瞳はもう、シュナイゼルのほうを向いていた。 スザクも視線をシュナイゼルへと向けた。 天子をさらったゼロ―――――――― ルルーシュは、本艦とすでに合流していた。 チーズ君を抱きしめるC.C.と共にエレベーターまでゆったりと歩いていく。 「予想以上にスムーズだったな。これも全て、星刻たちが仕掛けてくれたおかげだ。 優秀だ、あの男は………。」 「どうして彼らがクーデターを画策していると分かった?」 C.C.が尋ねると同時にエレベーターの扉が閉まる。 彼女の問いに、「私も同じことをしようとしていた。」とゼロが答える。 ECMや伏兵も仕掛けようとしていたルルーシュ。 しかし想定ルートに先回りして同じような仕掛けを施した人物がいた。 ルルーシュは、その場にいた反乱兵にギアスという名の自白剤を使ったのだ。 それを聞いて、怪しくC.C.が笑う。 やはり、ルルーシュはうまくギアスを使ってくれている。 「そういえばルルーシュ、お前はあの時、も連れて行こうと思わなかったのか?」 不意に尋ねたC.C.に対し、仮面が彼女へと向く。 むすっとした声が「あの時?」と低く響いた。 「とぼけても無駄だ。教会から離れる時、お前はしっかりを見ていたじゃないか。 連れて行けばよかったものを。ずっと、好きだったんだろう?」 そう言うと、ルルーシュはしばらく沈黙した。 本当は連れて行きたかった。けれども、はゼロの正体がルルーシュであることを知らない。 ゼロは常に、彼女の大好きな父・シャルルの国であるブリタニアと対立している。 今ここにつれてきては、彼女を悲しませるだけかもしれないと、ルルーシュはそう思っていた。 いや、ゼロの正体がルルーシュであることを知った時、彼女がなんて言うのかが怖いだけなのかもしれない。 もしも彼女に軽蔑されたら………? さっきの彼女の表情を思い出して、ルルーシュは仮面の中で瞳を伏せた。 もしかしたら、さっきみたいにまた、泣いているような笑ったような、よく分からない表情を見せるかもしれない。 それだけは………いやだった。 「好きだからこそ………連れていくことができなかった。」 小さく弱弱しく答えるルルーシュを、C.C.は金色の瞳で捕らえる。 視線だけをルルーシュにうつして、彼女は静かに言った。 「けれどもは、最後にお前と分かり合えると信じてると言った。」 「ああ、そうだな。」 ルルーシュはそれだけを言う。 ポーンと、エレベーターが到着した音が聞こえた。 シュンっと扉が開く。横に並んだルルーシュがエレベーターから下りる時にC.C.へと呟いた。 「俺も、分かり合えると信じてる。」 そのまま部屋に入っていく。 C.C.はぎゅっとチーズ君を抱きしめ、フッと笑ってからゼロ同様エレベーターを降りた。 対立の消えるところに涅槃がある。 (ヘルマン・ヘッセ) |