ミレイのことで騒ぎが起きている学園の地下深くで、ロロはルルーシュの格好をした咲世子に鋭い言葉を浴びせた。
いくらルルーシュの影武者だからって、咲世子は他の女子生徒にいい顔をしすぎている。
一生懸命任務を果たそうとしている………ということはロロも十分分かっていることだった。

「咲世子さん、影武者としての領域を超えるのは問題です。理解してください。」

咲世子を見ていると、ロロはすごくイライラした。
そのイライラの原因も、彼にはちゃんとわかっている。
原因は………本国に向かった兄と姉。今は中華連邦にいるはずだ。
の兄、オデュッセウスと天子との結婚を祝うために。だから2人から最近、何も連絡がない。
こっそり携帯にかけて無事を確認しようにも、肝心の携帯がつながらなかった。
ここには、黒の騎士団以外の情報は入ってこない。

(兄さん、姉さん、無事なの?)

悲痛な思いで扉を開けると、咲世子がうしろでボソリと呟いた。

「分かっています。私はゼロと、ルルーシュ様に仕える女ですから。」

「咲世子、そのゼロに危機が迫っている。」

部屋に入ってきた彼女に、ヴィレッタが声をかけた。
急に変わった状況に咲世子は驚きを隠せない。
それはロロも一緒だった。生徒会室にいる間、何があったというのだろうか?

「え?中華連邦とは、膠着(こうちゃく)状態だと………」

「シュナイゼル殿下も参戦された。」

彼女の淡々とした言葉に、ロロがすぐ声を上げる。

「えっ!?中華連邦で、ブリタニアが!?」

「ああ、ナイト・オブ・ラウンズも出撃したらしい。」

「ナイト・オブ・ラウンズも…………」

もしかしたらと思い、けれどその考えをロロは素早く振り払った。
ヴィレッタはエンジェルズ・オブ・ロードのことは何も言っていない。
出撃したのは多分、ナイト・オブ・ラウンズだけだ……。
彼は静かに、そう自分に言い聞かせた。きっとそう。
それに2人は戦いをあまり好まない。むやみに戦闘へは出ないはずだ。

「まぁ、まだあの羽の生えた機体が出てきてないだけ、安心できるだろう。
生きて帰ってきてくれ、ゼロっ!!!扇………っ!!!」

手を組んでヴィレッタがそう呟いた言葉は、を心配するロロには届かなかった。








ゼロ率いる黒の騎士団が立てこもる天帝八十八陵に、爆撃が加えられた。
すぐにゼロは大宦官たちの考えを読み取った。
ここは歴代の天子たちが静かに眠る場所。 おそらく大宦官たちは――――――――

「シュナイゼルお兄様っ!!!
大宦官たちは、ゼロごと天子様を葬り去る気なのではありませんか!?」

アヴァロンの機内で、デヴァイサースーツに身を包んだが大きく叫んだ。
シュナイゼルがゆったりと肘をついて言う。

「そういうつもりらしいね。」

彼の言葉に、下を向いていたも苦しそうに表情をゆがめた。
も「そんなっ………」と小さく声をあげる。
そのままクルリとシュナイゼルに背を向けると、彼女はすぐに部屋のドアまで走った。

「何をする気?」

シュナイゼルの側近であるカノンが、冷静な声でに問う。
その顔には、厳しい表情が浮かべられていた。シュナイゼルは黙ったまま、状況を見ている。
俯き加減で、静かには答えた。

「戦いを………終わらせに参ります。」

様、おやめなさい。これは中華連邦が下した判断よ?私達は中華連邦に協力するだけ。
もしかしたらあなたの行動が、のちに戦争へと発展するかもしれないのよ?
あなたはここで待機しなさい。」

そうカノンに言われ、は押し黙った。
シンと静まりかえる中、ロイドとセシルもじっとの背中を見つめ続ける。
しばらく時間が流れた時、強く拳を握ってポツリとがカノンに答えを出した。

「その命令を、私は拒否します。」

様っ!!!」

カノンが更に厳しい表情を浮かべたが、すぐにシュナイゼルがそれを手で制した。
そのまま優しく彼が言う。と、下を向いたままのに視線を向けて。

「行きなさい、。それに君も。君たちはエンジェルズ・オブ・ロードだ。
ブリタニア皇帝以外の命令を拒否できる権限を与えられている。しかしその責任は重い。
もし、万が一のことがあったなら………」

「覚悟は十分できています、お兄様。そう、ずっと………昔から。」

最後を吐き捨てるように言うと、は走って部屋のドアを出た。
出て行く前に、は苦しそうな表情を見せた。
その表情を見て、シュナイゼルは目を伏せる。
ずっと昔からの覚悟………。きっとそれは、あの戦争がもたらした覚悟なのかもしれない。

もペコリとシュナイゼルやカノンに頭を下げたあと、急いで彼女のあとを追う。
2人の姿を見送ってから、シュナイゼルは「ふぅ」と小さく息をつく。
困った顔をカノンに向けて一言呟いた。

「全く。本当にはクラエス皇妃にそっくりだね。」

「ええ、そうですね。シュナイゼル殿下………。」

彼女を止めるのが無駄なことぐらい、シュナイゼルとカノンはよく知っている。
2人はの顔を思い浮かべて、とある出来事を思い出した。
ずいぶん昔、クラエスが生きていた頃、ブリタニアは近隣の諸国と戦争になりかけたことがあった。
その時皇帝は戦争を押し進めようとしたが、戦争を嫌うクラエスは反対した。
彼女はわざわざ幹部の集まる会議へと乗り込んできて、ブリタニア皇帝に向かって言ったのだ。

『あなたが戦争をするというのなら、私がその前に戦争を止めに行きます。』

『お言葉ですが、クラエス様にそのようなことができるわけないでしょう!?』

『クラエス様、あなたのお腹には皇帝陛下とのお子様がおられるのですから安静に………』

そう口々に言う幹部たちを赤い瞳で射抜いて、クラエスはきっぱりと強く言い放つ。

『私はその言葉を拒否します。』

彼女はそのまま、みなの制止も聞かずにブリタニア帝国を飛び出した。
結果、クラエスと敵国の話し合いの末に戦争はなくなり、合意の上で敵国はブリタニアの傘下に入る。
無事に帰ってきたクラエスは、皇帝の手をとり自分のお腹に手を当て優しく笑い言った。

『この子が生まれる時、我が国が戦争をしていたら悲しいでしょう?』

この話はルルーシュの母であるマリアンヌの話同様、皇族の間で代々言い伝えられる逸話となった。
その話を思い出し、シュナイゼルはカノンと共にまた静かに笑う。
やはり血は争えないな……と彼は密かに思うのだった。







格納庫へと走っていくは、静かにたたずむスザクの後姿を見つけて速度を緩めた。
スザクの目の前に、誰かが縛り付けられている。
じっと目を凝らしてみると、それは赤い髪の少女だった。

(誰…………?)

は斜め後ろを走るに視線を移してみるが、彼も首をすくめただけ。
そうしているうちに2人の足音に気付いたスザクが、彼らを振り返った。
その時の背中に、ぞくりと冷たいものが走る。
目の前のスザクが、いつもと違う空っぽな瞳をしていたから。
まるで、彼の瞳には色のついた世界なんて映っていないような………。

、先に行って。私も後から行くから。」

「分かった。」

の言葉を聞いて、はそのままランスロット・クラブへと走っていく。
彼女は走るのをやめて、スザクへと近づいた。コツンコツンと歩く音がする。
赤い髪の少女は拘束されているものの、ギラギラとした目をしていた。

「スザク………これは一体……」

戸惑いつつもはスザクを見る。
彼の瞳はもう、背筋が凍るほどの冷たい瞳をしていなかった。
でも、厳しい表情は崩れてはいない。感情のこもらない声でスザクは言い放った。

「紅蓮弐式のデヴァイサー、紅月カレンだよ。」

「紅蓮弐式、の?あなたが…………?」

は大きく目を開いた。
これがあの、紅蓮弐式のデヴァイサー………。
前の戦いで自分のナイトメアに食いついてきて、ゼロは日本人の希望だと言った……。
意志の強そうな目をしている。

「私が紅蓮弐式のデヴァイサーで何か不都合でも?
………枢木スザク。日本を裏切った男。私は絶対に、あんたを許さない。
それからそこのアンタ、人のことじろじろ見ないでくれる?気に食わないわっ。」

キッと鋭い瞳がに向いた。戸惑う彼女は顔を下に向けて、小さく謝った。

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ………。
ただ、あなたが紅蓮のデヴァイサーだったんだなって思ったら、驚いてしまって。
その………私、もう行きます。」

はカレンに背を向けた。
スザクがすぐに声をかける。どこへ行くのか?と。
その問いに、振り返って答えた。

「戦いを、終わらせに。」

一言だけ述べ、は赤い髪をなびかせて、そのままへと走って行ってしまった。
揺れる赤い髪を見つめながら、カレンが吐き捨てるように言う。

「何なのよ。アイツ………。」

「アイツじゃない。だよ。・ルゥ・ブリタニア。
ブリタニア帝国の………皇女だよ。」

スザクがカレンを見ないまま彼女の言葉を否定した。
すぐにカレンの中で「」という名前がひっかかった。

………?どこかで聞いたような………。)

自分の元から去っていくスザクの背中を見つめながら、彼女の名前をどこで聞いたのか記憶を辿った。
誰かが悲痛な思いでその名前を呟いていた。
いつ、どこで聞いたのだろう?
それを思い出したのは、スザクがランスロットに乗って、アヴァロンから出撃した時。
拘束されたままのカレンは、大きく目を開いて誰にも聞こえない音量で囁いた。

「おもい、だした………。あの時、ルルーシュが呟いた、名前……。」











「こちらの航空戦力は限られている。一騎当千の気構えで当たれ!!!」

「承知っ!!!」

藤堂の声に朝比奈と千葉は大きく返事を返した。
ぐんっと斬月を上昇させた時、藤堂は後ろからついてくる機体を発見する。
白地にところどころブルーのラインが入った機体。
背中には大きな翼と、機体に刻まれたとぐろをまく蛇のエンブレム。

「藤堂さん――――――――っ!!!」

「その機体………・ルシフェルかっ!!!丁度よかろう!!!藤堂鏡四郎、まかり通るっ!!!」

2人の掛け声と同時に、ランスロット・クラブと斬月がぶつかり合った。
前の戦いと同じように…………。








大きな過ちを多く犯さないうちは、どんな人間でも偉人や善人にはなれない。
(ウィリアム・グラッドストン)