日本のことが聞きたいというの要望に答えて、
カレンは8年前から今に至るまでの日本のことをに話した。
黒の騎士団やゼロのことなどを除いた、日本人の暮らしや思い、それをカレンは話したのだ。
もちろんブリタニアに対する怒りも……。
話終わった時、はポツリと呟いた。「ごめんなさい。」と一言。
カレンにはが何を謝ったのかが今一つ分からない。

日本を征服したブリタニア人だから?

自分は何もできないという意味の謝罪の言葉?

そう考えつつも、今度は逆にカレンが尋ねた。

「えっと……皇女殿下……」

でいいわ。堅苦しいのは嫌いなの。」

カレンの呼び方に、彼女は苦笑する。
ふとカレンも考えて、自分も『カレン』と呼んで欲しいと伝えた。
は一瞬ためらったものの、わかったと返事をした。

「それじゃあって呼ぶわ。
、あの……確かブリタニアには、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアっていう皇子がいたはずよね。
あなた、知ってる?」

あの時ルルーシュが呟いたの名前。
ルルーシュはのことを知っている。
それならきっと、もルルーシュのことを……そう思って、カレンは思わず聞いてしまった。
そのとたん、の顔から血の気が引く。笑わなくなった彼女を見て、カレンは心の中で自分の頬を叩いた。
もしかしたら、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない……。

「カレンは……ルル様のことを知ってるんですね。」

「そりゃあ、一応は黒の騎士団のメンバーだから、ブリタニアの情報くらい知ってるわよ。」

慌ててカレンはごまかす。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがエリア11にいるなんて、バレてはいけない。
彼は、本国のデータベースでは死亡扱いなのだから……。
目の前の皇女ももしかして、ルルーシュが死んでいると信じてるのだろうか?
カレンがじっとを見ていると、彼女が口を開いた。

「黒の騎士団って、何でも知ってるんですね。確かにルル様のことは知っています。
兄弟ではありますが、ルル様とは母が違っているんです。
私の母とルル様のお母様はすごく仲良しだったので、私もルル様とはよく遊びました。
私、ルル様のこと、大好きだったんです。けど、ルル様は8年前の戦争で……。
助け出されたのは、ルル様の妹であるナナリーだけ。ルル様は遺体も見つかってないんです。」

そう話したあと、は瞳を伏せてしまった。
カレンは話を聞いて胸が痛む。
ルルーシュなら、生きている。生きての名前を呼んでいた。そう叫びたかった。
でも、そんなことをしたらルルーシュの……ゼロの存在が危うくなるかもしれない。
ルルーシュはブリタニアには売れない。日本人にとって、大切な指導者なのだから。
カレンは小さく声をかける。

「ごめん、辛いこと聞いて。ねえ、は今でもルルーシュのことが好きなの?」

彼女の問いかけに、赤い瞳が上がった。じっとカレンを見ている。複雑な眼差しだった。
ふっと笑っては答える。

「どう、でしょう?好きなのかもしれません。
でも最近、私には好きって感情がよく分からなくなってきてるんです。」

「えっ……?それ、どういうこと?」

は言葉を続けた。

「昔、大好きだったルル様に抱きしめられた時、すごくふわふわして嬉しかったんです。
でも、スザクに同じ事をされるとドキドキして苦しくなるんです。
心臓がうるさいくらい音を立てて、嬉しいんだけど恥ずかしい。
もちろんスザクのことはルル様くらい大好きで……。
それに、ルル様のことを考えると苦しくならないのに、スザクのことを考えると、苦しくてたまらないんです。」

そこでは少し息をつく。カレンは目を大きく開いたあと、ため息をついて言葉を述べた。

「…………、それって、スザクに恋してるってことじゃないの?
ルルーシュに対するの好きは、信頼してるっていう意味の好きで、
スザクに対する好きは、愛しているの好きじゃない?
にとってスザクの存在は、特別な存在なんじゃないの?」

そうカレンが言うと、最初ポカンとしていたはみるみるうちに真っ赤になっていく。
顔から湯気が出そうなくらい顔を赤くさせ、黙ったまま何かを考えていた。

「わたしが……スザクに…………恋?」

「別に珍しいことじゃないと思う。特別に思える人って、一人くらいいてもおかしくないわよ。
、もしルルーシュを想う気持ちが特別であったとしても、
今のあなたはそれ以上にスザクを想ってるんだと思う。」

ぶっきらぼうにカレンが言った。
小さく息を吐く皇女。
「好き……なのかな。」という言葉も一緒に。
そんな様子の彼女を見て、カレンは瞳を細めた。

ルルーシュはのことを特別に想っている。
でもきっと、スザクものことが特別なのだと思う。
普段冷たい瞳が、の前では柔らかくなったから……。
ユーフェミアを失ってからの彼の心を救ったのは、なのかもしれない。
彼女は、ルルーシュとスザクの両方に愛されている。そして本人は、スザクを……。

カレンには、複雑だった。弱いルルーシュを見てしまったから。
ルルーシュの心を支えられるのは、彼女だけなのではと考えていたから。

、これからするのは例え話よ?
もしもルルーシュが生きてて、すごく苦しんでいたら、あなたはルルーシュを ――――――――

尋ねかけて、カレンの言葉は消えていく。
スザクがの名前を呼びながらこちらに向かってきているから。
彼の姿が見え、カレンは鋭い目をした。スザクも顔をしかめる。
檻の中にいると、外されたカレンの拘束を見て、低い声を上げた。

「誰も中に入れるなと命令したはずだ。」

静かな怒りは監視のブリタニア兵士に向けられた。
慌てては檻から出て、スザクの腕を掴む。

「スザク、その人達は悪くないの!!!私が皇族命令をしちゃったから……。」

スッと視線が彼から外される。スザクはため息をついての顔を覗きこんで言った。

、駄目だよそういうことしちゃ。彼女は黒の騎士団の一員。何をするか分からないんだよ?
それに君はエンジェルズ・オブ・ロードの一員であり、皇女でもあるんだから。」

「エンジェルズ・オブ・ロードっ!?」

カレンに烙印を押すような言葉をスザクが言い放った時、カレンは違うワードに叫び声を上げた。
格子をぎゅっと握ってカレンは叫ぶ。

、もしかして黒い機体に乗ってるのはあなたなのっ!?」

は一瞬カレンの顔を見るが、何も答えない。
目を伏せたまま、彼女はスザクに手を引かれて、カレンの元を去ることとなる。
の姿が見えなくなると、カレンはその場に座り込んだ。

「それじゃあルルーシュは、自分の想い人と戦っていたの?」

小さな呟きは、すぐに消えていった。










拘留所の廊下を抜けたあと、人目のないところでは突然スザクから抱きしめられた。
ドキンと心臓が高鳴り、顔と耳にじんわり熱を感じる。
先程カレンに言われた言葉が、の頭の中でぐるぐる回った。

「スザク………?」

心臓の音が聞こえてしまいそうで、は早口で彼の名前を呼ぶ。
しばらく返事がなかったが、スザクはふと、静かに呟いた。

が無事でよかった。
もしもカレンに傷つけられたらと思うと、怖くて仕方なかった。カレンは敵だから……。」

敵という言葉に、彼女の胸は痛んだ。
確かに黒の騎士団であるカレンは、ブリタニアの敵だ。でも――――――――

「でも、カレンはそんな人じゃないよ。カレンは理由もなく人を傷つける人じゃない。
ねぇスザク。スザクは人よりも黒の騎士団やゼロを嫌うけど、どうしてそんなに彼らを嫌うの?
まるでスザクが黒の騎士団やゼロに憎しみを抱いてるように私には見えるの……。」

澄んだ赤い瞳が翡翠の瞳を覗きこむ。
の瞳にいぬかれて、彼は言葉をつまらせた。

言えない………。

ゼロが親友だと思っていたルルーシュだったなんて。

もしかしたら今のゼロも、ルルーシュなのかもしれない……なんてこと。

そしてそのルルーシュに裏切られたことを。

ルルーシュは彼を信頼していたナナリーを裏切り、スザクを裏切り、世界を敵に回した。

「スザク?大丈夫?私……辛いこと聞いちゃった?」

心配そうに自分を見るが愛しくて、スザクはもっと強く、彼女を抱きしめた。

「ううん、大丈夫。」

腕の中の少女はとても暖かかった。











神楽耶、千葉、C.C.の女性陣に星刻と天子を別れさせることを反対され、ルルーシュは困っていた。
というよりも、むしろ腹が立っていた。
普通の人ならばギアスでどうにかできるが、C.C.に反対されてはどうにもできない。
まさか彼女にまで反対されるとは…………。ルルーシュには、反対される理由が分からない。
シャーリーからの電話に普通の学生・ルルーシュとして返事をする。
けれども、頭では星刻と天子のことでいっぱいになっていた。
神楽耶は単純な恋の問題だと言った。ルルーシュはその言葉を思い浮かべ、ハッとする。
シャーリーなら何か、いい策を提案してくれるかもしれない。

「シャーリー、ちょっといいか?
実はその……あるカップルを別れさせたいんだが、周りを説得するには………」

「別れたいの?その2人。」

少しとがめるような口調のシャーリーに、慌てて答えるルルーシュ。

「いやっ、政治的要因………あっ、つまりその、外交の………だから……家の問題。」

「ダメだよぅ――――――――っ!!!」

叫んだ拍子に、ドシンと着替え中のシャーリーはしりもちをついた。
そのままの体勢で彼女は早口にまくし立てる。

「恋はパワーなの!!!誰かを好きになるとね、すっごいパワーが出ちゃうの!!!
その人のことを毎日毎日考えて、詩を書いちゃったり早起きしちゃったり、マフラー編んじゃったり、
滝に飛び込んでその人の名前叫んじゃったり、私だって………!!!あ………。
その………ルルにはないの?いつも以上の何かが…………」

シャーリーの言葉に、ルルーシュは何かに気付かされる。
誰かを好きになる………。自分は、を好きになった。
一度ゼロをやめてしまいそうになったとき、の声を聞いた。
への想いが、絶望の淵まで追いやられた自分を、再び指導者としての道に立たせたのだと思う。
彼女の笑顔を手に入れるため。彼女を再び、自分の腕で抱きしめるために。
ルルーシュにとってのいつも以上は、すべてにつながっている。

「そうか………。あれが想いの力………。
想いには、世界を変えるほどの力がある。そうなんだな、シャーリー。
ありがとう、君に聞いてよかった。」

「え?そう?こんなのでよかったら――――――――

ルルーシュはシャーリーの言葉を最後まで聞かずに電話を切った。
もちろん彼女は、水泳部の部室で電話を握り締め怒りを見せる。
けれども中華連邦にいるルルーシュには、そんなシャーリーの姿なんて知るよしもなかった。

「想い………か。俺の想いは………にだけしかあげられない。
…………スザク。お前にだけはを渡さない。絶対にな………。」

外へと続く廊下を歩きながら、ルルーシュはボソリと呟く。
脳裏に浮かぶのは、いつも寄り添うようにの隣に立つスザクの姿。
行政特区の時だって、天子とオデュッセウスの婚礼パーティーの時だって、いつも………。
彼女を見るときのスザクの瞳が、いつも以上に優しかった。
けれども自分は、もっとに優しい瞳をあげられる。
暖かな想いを、彼女の胸に――――――――








あでやかな思いと甘い思い出は、最も深い内部の命である。
(ゲーテ)