今日この日、少年少女たちに大きな悲しみが訪れた。
生あるものは、いつか滅んでいく。
それはこの世界では分かりきった理。けれども、その理は彼らには突然すぎたのだ。

崩れ落ちたが、小さく地面をトンと拳で殴った。
スザクは彼女に寄り添い、そっと肩に触れる。その瞬間、呟きが聞こえた。

「あなたはどうして私の大切な人ばかりを連れて行くのよ……。
ルル様をつれていったのもあなた。
そして……お母様を連れていったのもあなたなんでしょう!?
ねぇ、答えてよバンシーっ!!!」

取乱す彼女を胸に抱き、スザクは顔をゆがめた。
の拳がスザクの胸を激しく打つ。
これが彼女の感じている胸の痛み。いいや、もっと痛いはずだ。

「枢木卿、救急車の手配ができましたが………」

「いや、もういい。もういいんだ……。」

苦しそうにスザクが答えた。
彼の言葉に、救急隊員はに抱きかかえられるシャーリーを見た。
息を飲み、大きく目を開くとに視線を滑らせる。
アイスブルーの瞳が伏せられ、首が左右に振られる。
意味を理解した救急隊員たちは、
悔しそうな顔をしてシャーリーの肢体をから受け取った。

サイレンが鳴らされない救急車を、三人は悲しみを帯びた瞳で見送った。
ただ、の瞳だけは悲しみの瞳の中に、燃えるような感情が浮かんでいる。

(ルルーシュ………ヴィ・ブリタニア………またの名を、ゼロ。
薄々感じていたが、お前はギアスの使い手なんだろ?そして、そこにロロも関係している。
シャーリーから、ルルーシュのギアスの記憶を見た。
彼女の記憶を消したのが、お前の優しさ。でもその優しさは、結果的に彼女を殺した。
ギアスは王を孤独にする。お前にもこの言葉は伝わっているだろう?
結局僕たちは、孤独な道を歩むしかないんだよ。絶対遵守の力を持つ者、僕は君に会いにいくよ。
同じギアスを伴って……ね。君がどこにいても、僕は必ず、君を見つけ出すさ。)

アイスブルーの瞳にギアスのマークが浮かぶ。
はぎゅっと拳を握った。

数日後、シャーリーの葬式がひっそりと行われた。
死因は出血による多臓器不全。彼女の死は、自殺として扱われた。
夕暮れの墓地で、シャーリーの母親の泣き声が響き渡った。
ミレイ、リヴァル、ジノ、アーニャ、スザク、が揃う中、ただ3人だけその場にはいない。
シャーリーの彼氏であるルルーシュ。その弟のロロ。
そして同じ生徒会メンバーであり、クラスメイトである
はそっと、横を見た。いつも隣にいるが、今はいない。
この数日、彼はどこかおかしな様子だった。
部屋にこもり、声をかけても出てこない。
そう思っていたら、今度はふらりと出て行ってしまった。
ランスロット・クラブを伴って………。

はどこに?」

スザクの問いかけに、は静かに首を横に振った。
大切な友達とのお別れだっていうのに、もルルーシュもロロもいない。
彼らは今どこに…………?








合衆国日本、暫定首都・蓬莱島。

C.C.がピザを頬ばりながらしゃべっている時、ルルーシュから通信が入る。
画面に映る彼は、いつになく鋭い目つきをしていた。
なんとなく、C.C.はルルーシュに何かあったのだと悟った。
それが何なのかは分からないが………。

「C.C.。ジェレミアとロロの協力により、ギアス教団の場所が特定できた。
零番隊を投入し、教団を一気に殲滅する。」

「殲滅………?利用するんじゃなかったのか?
あれは武装組織ではなく、ギアスを研究するだけの………」

「殲滅だっ!!!!」

C.C.の声に、ルルーシュの怒りに満ちた声が重なった。
いつになく怒りをあらわにするルルーシュに、彼女は尋ねた。
何があったのか?………と。
そこでC.C.は知ることとなる。ルルーシュの彼女であったシャーリー・フェネットが死んだこと。

「シャーリーは最後までギアスに翻弄されて……ギアスに殺されたんだっ!!!」

「だから殲滅するのか?同じ悲劇を繰り返さないための贖罪として。」

「これが王の力というのなら、力ある者は一人で十分だ。
ロロはもちろん、ギアスという力・罪、存在そのものをこの世界から消してやる!!!
それがシャーリーに対してせめてもの…………」

「では、私も消すか?」

それまで黙ってルルーシュの話を聞いていたC.C.が、とっさに答えた。
彼の瞳を見らずに、天井を仰いだまま。

「消したくても消せないだろう?不老不死の魔女め………。」

ルルーシュが答えたとき、C.C.の背後からもう一人の声が上がった。

「ギアスの存在そのものを消すのなら、僕も消さなきゃだめだよ、ルルーシュ。」

突然背後から聞こえた声に、C.C.は驚きを隠せなかった。
画面に映るルルーシュも、その姿を見て絶句している。
銀の髪、端整な顔つき、アイスブルーの瞳。
デヴァイサースーツを着た・ルシフェルが微笑んで立っていた。

「お前は……………っ、・ルシフェル!?なぜお前がそこにっ!?」

アメジストの瞳が収縮し、言葉が続かないルルーシュ。
あそこは合衆国日本の暫定首都、蓬莱島。
ルルーシュたちが仕掛けた警報設備が何重にも作動している。
それなのに、どうしてアイツがっ………!?
驚きと動揺を隠せないルルーシュの心情を察してか、が笑っていった。

「すまない。あいにく僕は、君がよく知る力を有していてね。
ここに来るまでにそれを使わせてもらった。」

「お前………もしかして………なるほど。お前の力、見くびらないほうがいいようだな。」

言葉を失うルルーシュの代わりに、不老不死の魔女が不敵に笑う。
その微笑を画面に向けると、黒き王に一言言うのだった。

「ルルーシュ、こいつには逆らわないほうがいいぞ。
こいつは普通のギアス能力者ではない。お前の何倍もの力を有している。
戦うのは……賢明とはいえないな。」

の視線が画面のルルーシュに移った。

「なるほど。これで答えがはっきりした。
君はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであり、ギアス能力を有したゼロでもある。
ルルーシュ、少し話をしないかい?僕はここで君を待っている。
もし君がもう少しゼロでありたいと願うなら、僕のお願いを聞いてくれるよね?」

彼の問いかけに、ルルーシュは厳しい表情を崩さないでいる。
地獄の底から響くような声で、彼はに対して質問をした。

「お前は俺を脅迫しているのか?」

「まさか。僕は君と取引がしたいだけだよ。だから僕はここに来た。
ブリタニア軍最高の地位であるエンジェルズ・オブ・ロードのルシフェル卿が、リスクを承知でね。」

「お前がエンジェルズ・オブ・ロードだとっ!?」

画面を通して、アイスブルーの瞳とアメジストの瞳がぶつかり合った。








は今、エリア7……アルビオンへとやってきていた。
てっきりランスロット・クラブがあるかと思っていたが、ここにはなかった。
青く澄んだ空を見上げてはため息をつく。

、ここにはやっぱりいないか……。」

突然出ていってしまった彼。こんなことは一度もなかった。
それゆえに不安なのだ。もしも彼が、この先ずっと帰ってこなかったら……?
は首を振る。そんなことない。は必ず帰ってくる。
彼を信じよう……そう決意した時、の背中にクールな口調の声がかけられた。

……?なのか?」

振り返れば白い馬に乗った女性がいた。
は彼女を知っている。
いや、知っているどころか彼女と話をするためにこの地へとやってきたのだ。

「おばあ様!!」

は目の前で微笑む女性……モルガンに駆け寄る。
ヒヒンと、彼女の乗る白い馬がいなないた。

「お前の後ろ姿を見て驚いたぞ。帰ってくるのなら、連絡くらいくれればいいものを……」

「ごめんなさい。でも、急いでたの。おばあ様と直接話がしたくて。」

白い馬の頭を撫でながらは答えた。

「……ロロの馬ね。元気でいることを知ったら、あの子喜ぶわ。
この子のこと、すごく大事にしてたから。」

「たまにこうして私が遠乗りに連れていく。
ロロはこの国から出たっきり、帰ってこないしな……。」

曖昧な表情で笑うモルガン。

「それよりも、私と直接話がしたかったのだろう?城へ戻ろうか。私の後ろに乗るといい。」

モルガンは自分の後ろを振り返った。そこにはちょうど、一人だけ乗れるようなスペース。
は慣れた感じで白い馬に乗った。
それを確認すると、モルガンは小さく声を上げる。同時に白い馬は走り出した。

城へと帰ってきたは、大きく息を吸い込む。
懐かしい匂い。かつて自分が暮らしていた場所。
あの頃は逃げつづけてばかりいた。それはもう、過去の話。
これからはもう逃げない。そう決めたからエリア11へと行った。
そして……そう決めたから、ここへ来た。
自分の隠された力のことを聞きに、モルガンの元へ。
が彼女から直接話を聞けと教えてくれたから。

「それで、話とはなんだ?」

メイドが入れてくれた紅茶を飲みながら彼女が言う。
は膝の上で拳を握り、モルガンを見つめ口を開いた。

「おばあ様、今日は私、自分の力のことについて聞きに来ました。」

「力……?力とは何のことだ?」

カップを持ったまま、彼女が笑う。
ごまかそうとしている……。瞬時には感じた。

「嘘をつかないで。おばあ様は知ってるんでしょう?
私が持つ、不思議な力について。私、この力について知りたいの!!」

沈黙が流れた。
カチャンとソーサの上にカップが置かれ、モルガンは小さく呟く。

「いつかはきっと、こうしてお前が力のことを尋ねてくると予想はしていた。
だが、こんなにも早く、お前が尋ねてくるとは思ってなかったよ……。」

モルガンがカップのふちをなぞる。
落とされた視線から、彼女が悲しそうにしていることが感じとれた。

「いつまでも隠しておけるとは思っていなかったさ。仕方ない。教えてやろう。
、心して聞くがよい。一度聞いてしまったら、嫌でもその運命から逃れることはできないのだからな。」

モルガンは顔を上げる。瞳がまっすぐをとらえた。
真剣な瞳にも姿勢を正す。彼女もモルガンをまっすぐ見つめ返事をした。

「はい、おばあ様。」








ルルーシュとの通信を終えたC.C.は、後ろを振り返った。
シルバーの髪を持ち、整った顔立ちの少年。
カッコイイ……というよりも、美しいと言ったほうが当てはまる気がした。
しかし彼からは恐ろしいくらい大きいギアスの力が放たれている。
C.C.は口の端を上げた。

「そうか。今まで感じていたやっかいなギアスの雰囲気はお前だったのか。会えて嬉しいよ。」

目の前の少年も、C.C.に合わせて少し微笑んだ。

「僕も君と会えて嬉しいよ。僕は君と会ったことはない。
けれどもなぜか、懐かしい感じがする。なぜかは分からないんだけど……。」

そこでは困ったような表情を浮かべる。
とっさにC.C.が答えた。

「それは私が、ギアスを与える役目を持つからだ。
お前にギアスという力を渡したのは、私ではない。
しかし、私と似たような存在が、お前にギアスを渡した。だから懐かしいと感じるのだろう?」

艶やかに笑うC.C.。
そんな彼女を、は困った顔のまま見つめ、口を開いた。

「……分からない。」

ただ一言だけの呟きに、シーツーは気づく。
目を大きく開いたあと、彼女は小さな声で言った。

「まさかお前……覚えてないのか?」

C.C.の言葉に頷く。アイスブルーの瞳がやわらぎ、彼は答えた。

「ああ。僕はギアスに関して、何も覚えてない。
知りたいんだ。答えを……僕自身のギアスを。だから僕はここに来た。」

ルルーシュなら……ゼロなら答えをくれる気がしたから。

自分のギアスを知りたい。

知らなければきっと、ルルーシュのように人を殺してしまうだろうから……。
そう、シャーリーのように………。







強い信念によって強い人間が生まれる。そして一層人間を強くする。
(ウォルター・バショット)