ブリタニア皇帝から隠れるルルーシュと、その場に立ち尽くす
ルルーシュはの腕をひっぱり、皇帝から身を隠すよう言った。
目の前にいるブリタニア皇帝は、まるでそこにがいることを知らないかのように、彼を見ない。
ルルーシュが八年前の真相を確かめようと、皇帝に質問した。
だが皇帝は言った。「知りたいなら、ギアスで答えさせればいい」と。
は顔をしかめ、ルルーシュを見る。ブルーの瞳は、ルルーシュと同じことを思っていた。

(誘っている。ギアスを使わせようと…・・・・・・。
しかし俺のギアスは、相手を見てかけるギアス。
俺がアイツを見るということは、アイツも俺を見るということ。
俺と同じ、相手を見てかけるギアスを持っているのだから、同時に俺も記憶を改変させられてしまう。
でも……迷っている時間はない。)

先に動いたのはルルーシュだった。
ボタンを押すと、いくつもの鏡の破片が飛び散った。
その破片に向かって、ルルーシュは命じる。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!キサマは死ねっ!」

赤い光が鏡の破片を反射しあい、まっすぐブリタニア皇帝の瞳に飛び込んでいく。
身を隠したまま、はそれを見ていた。
蜃気楼の隙間からブリタニア皇帝を見ると、彼はゆっくり銃を取り出した。
胸に当てると、引き金を引く。パン………と乾いた音が響いた。
皇帝の姿がドサリと倒れる頃、は息を飲んだ。

の………お父さんが、こんなにも………あっさりと?)

ルルーシュは信じられないというように、ゆらゆらと歩き出す。
そのまま叫んだ。勝利の雄たけび。
ナナリーを、マリアンヌを裏切った父親を………倒した。
ブリタニア皇帝へと歩き出す彼を見て、も静かにあとをついていった。
軍服に、じわりと広がる赤い液体。じっとりと赤く濡れている。

「殺してしまった。こんなにも、あっさりと………。
聞きたいことも、たくさんあった。詫びさせたい人もたくさんいた。なのにっ!」

隣で、はルルーシュの呟きを聞く。
の運命を動かし、ルルーシュの運命を動かし、日本の運命までも動かした人物。
神ではない。が、この世界において、神に等しい力を持つ存在。
が目を閉じた時、頭にズキンと痛みが走る。

(この感覚は……………ギアスっ!!!!!)

本能的には後ろに跳び下がり、ブリタニア皇帝から距離をとった。
心臓が激しく音を立てる。鳥肌はたちっぱなしで、冷や汗さえ出てくる。
の行動にルルーシュが驚いた時、皇帝の渋い声が上がった。

「ほう、誰に?こしゃくだな、ルルーシュ!」

「そんな!生きてる!?確かに心臓を…………!
!お前に俺と同じギアスがあるのなら、お前も皇帝に命令しろ!
『キサマは死ね!』と、俺と同じように!」

とっさにルルーシュは後ろに跳び下がったを見る。
しかし彼は何も答えず首を振った。
「なぜ!?」と尋ねたルルーシュに向かって、代わりに皇帝が答える。

「その男はワシには歯向かえんよ。
皇帝直属の部隊、エンジェルズ・オブ・ロードの地位にあり、我が娘を愛する男。
ワシはその男を救った慈愛の女神の父であり、神だ。
エンジェルごときが神を討つことはできん。
さあルルーシュよ。王道で来るがいい。王の力を継ぎたいのならば!」

ルルーシュは皇帝にもう一度ギアスをかけた。
ギアスはかからない。
今度は落ちていた銃で、何度も皇帝の体を撃ち抜いた。
それでも死なない。

「ルルーシュ!無駄だっ!皇帝は多分、何をやっても死なない!」

皇帝を睨みつけ、が叫んだ。
ニィ………と皇帝は笑った。

の言うとおり、もはやワシには剣でも銃でも何をもってしても………無駄アアアアアアア!」

皇帝は右手の手袋を取り、二人に手のひらをつきつけた。
そこに描かれたギアスのマークに、二人は愕然とする。

「なぜ………皇帝がコードを………!?」

不老不死である印。ギアス能力者たちはそれを、『コード』と呼ぶ。
一方、こと切れたV.V.の前にしゃがむC.C.は、一人でじっと考えていた。

なぜ今になってV.V.のコードを、シャルルが奪った?

理由は分からない。
コードを奪うことで、シャルルは兄であるV.V.を殺したことになる。
今まであれだけ慕っていたのに………。
彼のその行動は、憎しみか?哀れみか?優しさか?絶望か?
C.C.は冷たく吹いた風を全身で受けながら、死んでしまった同胞に言葉を添える。

「V.V.、お前さ………マリアンヌのこと、好きだったんだろ?」

雫が一つ、水面(みなも)に落ちた。




***




に乗って、はエリア11の政庁へと帰還する。
ナイトメアを置いておく格納庫には、ランスロット・クラブの姿はなかった。
つまりまだ、は帰ってきていない……ということ。
は赤い瞳を細めた。
ユーサーはギアス能力者だった。は他人のギアスを感じ取れる人間。
彼は、ユーサーがギアス能力者であることを知っていた?
知っていて、それを隠していたのだろうか?
尋ねたかった。でもここに、はいない………。

様、ナナリー総督がお呼びです。」

政庁に入ったとき、受付の人間がにそう言う。
何でも、今からサイタマゲットーの再開発についての報告会をするそうだ。
そこにも同席してほしいと。
彼女は笑顔で頷いた。まだ子供だが、ナナリーは一生懸命総督を務めている。
かつて総督を務めていたは、その大変さをよく知っていた。
だからなるべく、ナナリーの力になりたいと思っていた。
母は違うが………実の妹でもあるから。

会議が行われる部屋に行こうと廊下に出た時、は後ろから抱擁される。
枢木スザク。その人物の香りとぬくもりがした。

「きゃっ!………スザク、いきなりはナシにしてよ!誰かに見られたら……」

「大丈夫。ここには僕たちだけしかいないから。」

スザクの言うとおり、幸いにもその場所に人はいなかった。
はスザクの腕を解き、彼の正面に立った。
頬が赤くなっていて、少し腫れている。

「スザク、右の頬、どうしたの?まるで誰かに叩かれたみたい。」

首をかしげるの前で、スザクは瞳を伏せた。
彼女には言えない。カレンにリフレインを使おうとして叩かれたこと。
自分が黙ってても、カレンが言うかもしれないけれど………。
黙ってしまったスザクを見て、が覗き込んでくる。
大きく赤い瞳が、スザクの翡翠の瞳を捉える。
スザクはとっさにの両腕を掴んで、壁に押し付けた。

「すざくっ!!!!」

可愛らしい声が上がる。気にせずに彼はに問う。

「ねぇ
もしもだけどさ、ルルーシュが生きてて、彼がゼロだったら、はどうする?」

「……………えっ?」

突拍子もないスザクからの質問に、は大きく目を開かせる。
彼は顔をぐっと近づけて、質問の答えを待っている。
スザクが言っているのは、もしもの話……だ。
ゼロは頭がよくて、卑劣。
でもカレンはそんなゼロを慕っている。
そしてあの時………中華連邦で天子をさらった時、
分かり合えると信じてるといった自分の言葉に、ゼロは言葉を返した。
『ありがとう、・ルゥ・ブリタニア』と。
もしそれが………自分のよく知っているルルーシュだったら?

「ルルーシュが生きてて、彼がゼロだったら……わ、たしは………ゼロを信じる。
ルルーシュなら、きっと……分かり合えるはずだ――――――」

が最後まで言い終わる前に、スザクはの唇を奪う。
まるで、その答えを否定してしまうかのような激しいキスだった…………。







父親が子供のために殺されてはならない。
子供が父親のために殺されてはならない。
人が殺されるのは、自分の罪のためでなければならない。
(申命記24の16)