「わしはギアスの代わりに新しい力を手に入れた。
ゆえにルルーシュ、教えてやってもいい。この世界の、まことの姿を。」

ブリタニア皇帝は呆然とするルルーシュの前できっぱり言った。
ギアスの代わりの新しい力………。は皇帝をにらみつける。
が知っているのは、ブリタニアを治める優しい父親の姿。
今のブリタニア皇帝の姿を知ったら、彼女はどうするだろう………?
きっと………絶望するはずだ。だからこのことはには話せない。
彼女を悲しませることはできない。ブリタニア皇帝はそのことをよく分かっている。
分かっているからこそ、彼はを見ない。ただ、敵であるルルーシュだけを見ている。
皇帝がボタンを押すと、ルルーシュの姿だけが光に包まれた。

「ルルーシュっ!!!」

はとっさに彼へと手を伸ばす。今、彼と離れてはいけない!
それを感じたのか、ルルーシュもへと手を伸ばした。
二人の手がつながった瞬間、二人は不思議な空間へと飛ばされる。
目の前には無数の仮面。

「ギアスとはなんだ!貴様は何をたくらんでいる!?」

「嘘にまみれた子供が、真実を求めるか。」

皇帝の言葉と同時に、彼の姿も消えていく。
ルルーシュに向けたはずの言葉だったのに、なぜかの胸にその言葉が突き刺さる。
嘘にまみれているのは、ルルーシュだけじゃない。
自分もだった。自分が誰なのか分からず、過去さえも思い出せない。
ルシフェルという嘘の名前を名乗り、やロロという嘘の兄弟がいる。

(嘘にまみれているのは、僕も同じだ………。)

liar。嘘つき。それが………僕だ。

「………俺は手に入れた!軍隊を!部下を!領土を!」

ルルーシュの叫び声で、はハッとする。
無数の仮面はルルーシュの姿へ変わっていた。
彼は囲まれ、そしてなじられている。
ルルーシュのにぎった拳は、怒りに震えていた。
そこに対峙するように現れたブリタニア皇帝。

「嘘などつく必要はない。なぜなら、お前はわしで、わしはお前なんだ。
そう。人はこの世界に一人しかいない。過去も未来も人類も歴史上たった一人。」

「たった、一人…………?」

ルルーシュの代わりにが眉をひそめた。
彼の言葉にブリタニア皇帝であるシャルルが笑う。
は完全に分からなくなった。の父親である、ブリタニア皇帝が。
そして自分たちエンジェルズ・オブ・ロードが、今のブリタニアに仕える意味が………。




***



キスをしたあとのスザクは少しだけ震えていた。
彼は壁に押し付けていたの手首をそっと放す。

は今でも、ルルーシュのことが好き?」

唐突な彼の質問に、は瞳を伏せて首を振る。
確かにルルーシュは好き。けど、今ならば理解できる。
スザクの言う、『好き』という意味。
子供の頃はルルーシュが好きで、いつかルルーシュのお嫁さんになるとばかり言っていた。
けどその時の自分は、きちんと理解していなかった。
『好き』という言葉には、2種類の意味があること。
それを教えてくれたのは、目の前にいるスザク。

「私は今でもルルーシュが好き。でもねスザク、私の中でルルーシュは一番じゃない。
ルルーシュは私に苦しい気持ちを与えない。
ルルーシュが好きという気持ちは、暖かい気持ちだけを与えてくれる。
だけどスザクが好きという気持ちは、暖かいだけじゃなく、時に苦しく、時に切ない。
今なら理解できるよ。スザクの言う、『好き』って言葉の意味。
スザクは私の中でただ一人の、大好きな人。」

はうつむくスザクの頬に両手を当てて自分に顔を向けた。
スザクの瞳が少しだけ潤んでいる。
彼はの手に自分の手を重ねて言った。

「………ユフィを失って、僕は世界から色を失った。
そんなときだった。は僕に、色を与えてくれた。
僕に教えてくれた。空は青くて、雲は白くて、太陽はオレンジ色。
モノクロの世界で死ぬことだけを考えていた僕は、またこの世界で生きたいと思った。
永遠の命があっても、君なしじゃ僕は死人同然だ。
命が短くても、君と一緒に生きていきたい。命が尽きるまで、君と一緒に……。」

「私だって同じ。限りある命の中で、あなたと出会ったことが奇跡。
命あるものは、必ず死を迎えるのが自然の摂理。
その摂理の中で、私はずっと、スザクと一緒に……。」

そのまま二人はそっと、優しくて甘い口付けをかわした。
人には必ずしも意味があって生まれてくる。誰か大切な人と出会うために。
そして、この世界で何かを成し遂げるために。
だが同じ時間、違う場所でC.C.はルルーシュに言い放った。

「知っているくせに。生まれてくる意味や生きる理由など、ただの幻想だと。」

C.C.の願い。それは死ぬこと。彼女の永遠を終わらせること。
ギアスの果てに、能力者は力を授けた者の血を継ぐ。
つまりそれは、C.C.を殺せる力を得るということ………。
彼女はこれまで、死ぬためだけに生きてきた。
数多(あまた)の人間に力を与え、ギアスの果てへと辿りつける者を探し続けてきた。
自分が死ぬために。

「死ぬだけの人生なんて悲しすぎる!」

「死なない積み重ねを、人生とは言わない。それは……ただの経験だ。
お前に生きる理由があるのなら、私を殺せ。
そうすれば、シャルルと同等の………戦う力を得る。」

ルルーシュは動かなかった。彼女を、殺せるわけがない。C.C.の唇が動いた。
「さようなら、ルルーシュ。お前は優しすぎる。」と短く。
そのままルルーシュは、C.C.が動かした仕掛けに包まれ、下へと落ちていった。
ルルーシュが消え、シャルルとC.C.とだけが残ったその空間。
C.C.の黄金の瞳が、今度はを捉える。

・ルシフェル。お前は自分が誰なのか分からないと言った。
だがお前は、すでにその答えを知っている。失っているんじゃない。
心の奥深くに、記憶をしまっているだけだ。
何十にも鍵をかけ、思い出さないようにしている。
それはお前にとって、おぞましい記憶ばかりだから。
その扉を開ければきっと、そこにお前の求めている答えがある。
お前自身のことについても、ギアスのことについてもな。」

C.C.はそう言いながら、手元の装置を操作する。

「答えは………僕の中にある?」

「そうだ。もしもお前がお前自身のことを思い出す恐怖に勝てたのなら………」

お前は全部、思い出すだろう。

ギアスのことも、お前の存在も、お前の罪も。

C.C.の言葉が遠くなっていく。空間に溶けていくような気持ちの悪い感覚。
目の前がぼやけた。ブリタニア皇帝とC.C.、二人の姿が消えていく。
そして自分に訪れたのは、ただ真っ白い…………世界。




***




サイタマゲットーの再開発についての会議を終えたナナリーは、ローマイヤを呼び止めた。
イレブンに不利益なことはないのかという彼女の質問に、
ローマイヤは「不利益はない」ときっぱり答えた。
の見守る横で、ナナリーは手を握る。
もう一度同じ質問をすると、ローマイヤの手はかすかに震えた。
その瞬間、ナナリーはローマイヤが嘘をついていることを悟る。

「もう一度この計画を最初から見直してください。
イレブンの皆さんに不利益にならないように。」

「ナナリー総督。実務は私ども専門家にお任せください。」

ローマイヤの言葉に、が彼女をにらみつけた。
その言葉はまるで、ナナリーはお飾りの総督でよいのだと言っているように聞こえる。
が口を開きかけた瞬間、ナナリーは顔をしかめ、きっぱりと言い放った。

「ミス・ローマイヤ。そ、総督は………わたくしです!」




***



と別れたその足で、スザクはアッシュフォード学園へと向かった。
ルルーシュがゼロだという確証を得るために。
だがルルーシュはどこを探してもいなかった。
機密情報局さえ、ルルーシュやヴィレッタ、ロロの所在を教えず異常なしの一点張り。
スザクはその時点で気づいた。
機密情報局自体が、ルルーシュの手の中へ落ちているということに。
それが分かっただけでも十分だった。ルルーシュはやはり……ゼロ。
何もかもを思い出している。きっと、のことも。
だから彼はおそらく……を取り戻しにくる。

その頃、教団のアジトではロロが呆然と立っていた。
ルルーシュがいない。そしても………。
ルルーシュや共々、蜃気楼もランスロット・クラブも消えてしまった。

(ルルーシュと、兄さんが………いない?)

ロロは恐怖に駆られる。もしもこのまま、二人が戻らなかったら?







臆病よ、おまえもまだいるかい?嘘よ、おまえも?
(ローベルト・ヴァルザー)