ブリタニア帝国ができる遥か前の世界………。はそんな時代に生を受けた。 父はとある一国の王。その国は、アストリア帝国といった。 母は小さな島国出身の巫女であった。 の母は美人ではあったが、異国の出身であったため、他の皇妃たちの中では一番下の階にいた。 だからもつまり、皇位継承権は一番下で……。 けれども母はそんなことを気にせず、いつも笑顔で優しかった。 はそんな母が大好きだった。しかし、父は違う。 の父は、今のブリタニア皇帝とよく似ている。 彼はいつも戦争を推し進め、領土を拡大していった。 の異母兄弟たちもみんな、父についていく。 だけが、いつも戦争に反対していた。 戦争を推し進めることで、民が苦しむ。 愛する人と別れ、兵士たちのそばには常に死が待っている……。 そんな生活を民にさせたくなかった。 この国は戦争などしなくても、十分やっていける国力はあるのだ。 は常にそう、父に訴えていた。 そしてあの日も、いつものようには父に謁見した。 『父さん、戦争なんてしなくても、アストリアは十分やっていけます! 国とは民の生活からできているんです!民を大事にしない国など、滅ぶだけです……。』 父はうんざりしたような顔をし、に軽蔑するような眼差しを送る。 『よ、どうしてお前だけがいつも私の方針に反対するのだ。 戦争は民に、豊かな生活をもたらす。 アストリアは戦争で領土を拡大し、ここまで豊かになったのだ。 民が望むことは、これまで以上の豊かな生活。 だから私は、もっと領土を拡大していかねばならんのだ。』 『それは今、戦争に勝ち続けているからこそ言えるのです!負ければどうですか? 財を失い、民を失い、信頼を失う!そうなれば……全て、終わりです。 あなたは王ではなくなる。』 彼の言葉にアストリアの王は怒った。 玉座から立ち上がり、に指をさして怒鳴る。 『お前は父である私を侮辱するか!私はどこにも負けぬ! 、やはりお前の教育は、あの女に任せるべきではなかった! あの女め!私の血を引いた子供に、王を侮辱する態度を教えたな!』 父が紡いだ言葉は、の母を非難する言葉。 拳を震わせ聞いていたは、立ち上がると父を睨み付けた。 『母さんを非難することは、僕が許さない! 父さん、もしこのまま戦争を続けるというんなら、僕はあなたから国を奪います! あなたから国を奪い、今とは違う平和な国を………!』 の言葉を聞き、王は一瞬キョトンとする。しかし彼はすぐに大きく笑った。 「ふ……ふはは……ははははは!これはなんという傑作! 皇位継承権が一番下の皇子が、私から国を奪うと? 結構!しかしお前がどうあがこうが、お前が私に勝てると思うか? 私や兄弟たちを殺し、この国を乗っ取るなど、夢のまた夢!』 父の言葉に唇をかみしめる。彼はそのまま父の笑い声を背に、謁見室を飛び出した。 悔しい。今の自分には、父の言うとおりだった。 己の力量のなさ。人脈も力もない自分は、母も民も国も守れやしないのだ。 『僕に…………力があれば!』 アストリア全土が見える小高い丘で、は拳を握った。 そこに銀髪の少女と、緑の瞳を持った少年が現れる。 一人はの妹・リズ。だが、もう一人は知らない人物だった。 リズが言うに、この少年は彼女の友達らしい。 『お兄様!ご紹介します。こちら、私の友達のU.U.(ユーツー)よ!』 *** 「……そうだ。全てはU.U.。彼から始まった。 ギアスという呪いの力は、彼からもらったんだ……。」 自分自身の記憶の映像を見ていたは、一人で小さく呟いた。 声の余韻が消えるころ、誰もいないはずのこの場所に、女性の声と靴音が響いた。 「そう。それがあなたのギアスのルーツ。出発点、罪の始まり。終演へ向けての……。」 彼の前に姿を現したのは、ルルーシュの共犯者、C.C.。 しかし彼女はどうも、彼を今の場所に飛ばした人物とは違う感じがした。 「C.C.………。けど君は、僕をここに送ったC.C.とは違うC.C.だね。」 ピクンと彼女の眉が動いた。腕組みをして彼女は答える。 「えぇ。彼女と私は違う。 彼女がどうしてあなたに記憶を取り戻せたがってたのか、私には分からない。 けどもしかしたら、彼女は全ての記憶が戻ったあなたに、 ルルーシュの味方になって欲しいと思っていたのかもしれない……。 だからあなたを、ここに送った。」 C.C.の言葉には瞳を伏せた。 アストリア帝国の王は、ブリタニア帝国の王に似ている。 その父に歯向かおうとしていた昔の自分は、今のルルーシュによく似ていた。 でも過去の自分とルルーシュが、よく似ていたとしても………。 「それは……無理だ。がブリタニアにいる限り、僕は……。 それにまだ、僕は完全に記憶を取り戻したわけじゃない。」 「……そうね。では続きの記憶、あなたが望むのなら……見せましょう。」 C.C.はそう言って、光のかけらを差し出した。これはの記憶のかけら。 失っていた、自分の一部。そこ刻まれているのは、犯した罪と辛い記憶の数々。 そして、の求めていた……真実。 「・ルシフェル。ギアスを手に入れ、ギアスに翻弄された者よ。 あなたが全てを取り戻したとしても………。」 あ なたは ・ルシ フェ ル 。それ を忘れな いで。 目を細め、光に手を伸ばすの瞳に、C.C.の笑った顔が焼き付いた。 *** は今、モニターごしに兄であるシュナイゼルと向き合っていた。 本国にいるシュナイゼルは、なぜか上機嫌だった。 「、実はね、 先ほど私たちの研究チームがフレイヤの実験を行ったんだが……成功したんだよ……!」 「…………フレイヤ……ですって!?」 シュナイゼルの言葉には動揺した。 フレイヤにはサクラダイトが使われており、 爆発すれば全てのものを完全に消し去ることのできる兵器。 しかも使用時は、爆発やそれに伴う爆風など一切起こらず、使用後の放射能などの汚染も一切ない。 生まれた力の空間が、目的のものだけを完全に消し去ることのできる兵器。 まさに戦争では、理想の兵器……。 「これから戦争は変わるよ。君たちにももう、苦労させなくなると思うしね。」 にっこりシュナイゼルは微笑んだ。 そんな彼には瞳を伏せた。 戦争が変わるより、この世界が変わって欲しかった。 や、そして母やナナリーが望む平和な世界。そんな世界は来ないのだろうか? 「お兄様、戦争のない平和な世界って、いつ訪れるんでしょうか……?」 彼女の深い意味を含んだ言葉に、シュナイゼルは瞳を伏せた。 「……あぁ、。私は君を悲しませてしまったね。 フレイヤの実験成功に少し舞い上がってしまっていたようだ。 もちろんフレイヤは、兵器として開発されても使わないようにするから。 私だって、フレイヤを使うことは心が痛むからね。 、この戦争が終われば、きっと平和な世界がくる。 だからそれを信じて今は、一緒にこの悲しみを乗り越えていこう……。」 そう言うのなら、どうしてフレイヤなんか開発するの? 不意に生まれた言葉を、彼女はすぐに飲み込んだ。 シュナイゼルはこの1年間、フレイヤに力を入れていた。 さっき浮かんだ言葉は、そんな彼を否定してしまう言葉。 シュナイゼルに気づかれないように、はとっさに話題を変える。 ふと脳裏に浮かんだ、自分の父へと。 「あの、突然だけどお兄様……。私なんだか、最近お父様が分からないの………。 昔優しかったお父様は、お母様が亡くなってからすっかり変わってしまった気がする。 今のお父様はなんだか怖いわ。何を考えているのか全く分からない。 この戦争だって、話し合いだけで解決する国がいくつもあるはず。 それなのに進軍だなんて………。」 確かにブリタニアは、昔から常に戦争していた。 けれども、母であるクラエスが生きていた頃は、今ほど戦争はなかった。 話し合いで解決したことも多くある。エリア7だってそうだ。 アルビオンは話し合いでブリタニア傘下となり、エリア7と名前を変えた国。 ブリタニア皇帝も、昔はのそばで、もっと穏やかに笑うことのほうが多かった。 「きっと、お母様の死が、お父様を変えてしまったんだわ。」 シュナイゼルは彼女の言葉に口をつぐんだ。の言うとおりかもしれない。 考えてみれば確かに、全てはクラエスの死から始まった。 がブリタニアを離れたことも、ルルーシュとナナリーが日本へ行ったことも。 無言の中、シュナイゼルの部屋にノック音が響き、部下のカノンが入ってきた。 「シュナイゼル様、様とお話のところ申し訳ありませんが、そろそろ会議のお時間です。」 「………あぁ。そうだったね。」 ちらりと時計を見ると、あと数分で始まりそうだった。 宰相である自分がいなければ、会議が始められない。 シュナイゼルは優しく笑って、に言った。 「。確かにブリタニア皇帝は変わられたかもしれない。 でも大丈夫。戦争が終わればきっと、皇帝は昔の皇帝に戻られるよ。 だから今は信じよう。平和は必ず、訪れるとね………。」 「はい、お兄様………。」 の返事を聞いて、シュナイゼルは満足げにうなずいた後通信を切る。 パソコンの画面がいつもの画面に戻ったとき、彼女は小さくつぶやいた。 「でもお兄様、信じるだけじゃダメなこともあるんですよ……。」 *** リズの友達であるU.U.としばらく一緒に過ごし、は彼と打ち解けていった。 U.U.はと同じ年齢でありながらも、いろんなことを知っていた。 まるで生きてる辞書みたいだった。そして世界のこともよく知っている。 あの国の王はどうだとか、他の国の民はどんな生活をしているだとか………。 二人が仲良くなり、お互いを深く理解しあった頃、リズのいない場所でU.U.は言った。 『ねえ。アストリア皇帝に対抗する力が欲しいなら、僕が君に力をあげよう。 その代わり、君は僕の願いを叶えて欲しい。』 『U.Uの願い?その願いって何だ?』 の隣に座っていたU.U.が立ち上がる。 少し前に出て、小高い丘からアストリアを見ながら言った。 『、僕と一緒に生きて欲しい。 僕は他人に望む力を与えることができるけど、人の道から外れてるんだ。 僕は死ねない。年もとらない。だから僕は、この姿のままいつも一人だった。 親しくなった人は、みんな時の流れに消えていったよ。友人の死をこの目で見るほど辛いことはない。 だから………、僕と一緒に生きてくれ。 僕はどんなことがあっても、君から離れたりしないから。』 『………それはつまり、力の代償として僕にも不老不死になれということなのか?』 『そうだ。』 U.U.はを振り返る。その眼差しは真剣だった。 彼の綺麗な緑色の瞳は、悲しみに染まっていた。 U.U.はどれだけ親しい人の死を見てきたのだろうか? 死ねなくなるとはつまり………母やリズの死を、見ることになる。 U.U.のようにたくさんの時代をこの足で歩いていくことになる。 世界が終わろうとも、自分は終われない…………。 それでも、この国を平和にできる力がもらえるというのなら……。 母やリズが、幸せに暮らせるというのなら………! 『U.U.、僕はこの世界を、僕たちが生き続ける価値のある世界にできるだろうか?』 『………できるよ。きっと。だって君はこの世界を平和にしたいと思ってるでしょう?』 U.U.が優しく笑った。その笑顔を見て、も立ち上がり彼の隣に立つ。 それがU.U.に対するの答えだった。U.U.はの手を取ると、ゆっくり自分の胸元へ引き寄せる。 そして小さく言った。 『これは王の力。この力はギアスという。これで君は、アストリア皇帝を倒せる。 それだけじゃない。はこの力で世界を平和にできるんだ………。 だだし王の力は君を孤独にする。けど大丈夫だ。僕がずっと、君と一緒にいるから………。』 U.U.の言葉が消えた瞬間、には一瞬の痛みが訪れた。瞬間的に見えた青い世界も。 その世界はすぐに消え、気づいたときにはU.U.の笑顔があった。 しばらくして、アストリア帝国にたくさんいたの兄や弟たちが死んでいった。 戦争で死んだ者もいれば、自ら命を絶った者もいたし、行方が分からなくなった者も何人かいた。 アストリア帝国の皇位継承者がただ一人となったとき、皇帝は突然にその王位を譲った。 そしての王位継承式が終わってから数日後、彼の父親は自殺した。 それは偶然ではなく、ひそかに作られた事象。のギアスの能力は、絶対遵守の力。 はその力を使って、兄弟や父までも葬り去った。 すべては国を手に入れるため。誰もが幸せに生きる、平和な世界を作るために………。 けれども…………。 平 和は 長く は続 かなか った 。 祖国もなく つかえるべき王もなく ひどく勇敢でもなかったから 私は戦争に出かけて死にたいと思った だが 死は私をのぞみはしなかった (ポル・ヴェルレーヌ) |