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僕は一体なんなんだろう?誰なんだろう?
ずっとそれが疑問だった。
目覚めた時にはもう、ブリタニアの実験施設にいて、ガラスの水槽に入れられてた。
毎日苦痛の伴う日。繰り返される実験。故意に操作される筋肉。
地獄のような日々。いっそこのまま、死んでしまいたかった。
僕は僕でなくなる。僕は普通の人間でなくなる。

そんな時、彼女と出会った。女神のような美しい顔が、悲しみに満ちていた。
水槽を見つめる赤い瞳から、涙がこぼれ落ちる。彼女は僕のために泣いてくれた。
もしかしたら、僕の恋はその時始まったのかもしれない……。







「ねぇ。ルルーシュって、どんな人だった?」

13歳、春。エリア7。
城のテラスから、と一緒に星を眺めている時にそう尋ねた。
彼女はびっくりしていたけど、すぐに表情を和らげる。

、いきなり何?ルルーシュのことなら何回も話したじゃない。」

「そうだけど……なんとなく、また聞きたいなぁって。」

僕の言葉には苦笑する。
確かに昔、ルルーシュのことはよく尋ねた。
城にもとルルーシュが一緒に写っている写真が飾られているし……。

ルルーシュはにとって、初恋の人だったそうだ。
頭がよくて、優しい男の子だったと彼女は話す。
そしてちょっぴり恥ずかしがり屋。負けず嫌いで、シュナイゼル様とはよくチェスで勝負をしていたらしい。
ルルーシュのことを話すは、目元が下がるんだ。

「ねぇ。今でもルルーシュが好き?」

そう尋ねると、は笑った。
ルル様は、もういないよ。彼のことは好きだった……と。
それを聞いて、当時の僕はいつもこう言っていたんだ。

、僕は君が好きだ。」

彼女も僕に言った。

「私もが、世界中で一番好き。」

それは僕を幸せにする言葉だった。
初恋の人を亡くしたを、僕が幸せにしようと誓っていた。
でも、あの時の僕はまだ子供だったんだ。

大人になるにつれ、僕は僕自身について考え始める。
ギアスについて考え始める。
僕のギアスは、いとも簡単に人を殺した。
命令さえすれば、相手は疑問を持つこともなく死んでいく。

呪われた力。呪われた僕。

時折夢の中で誰かが語っていた。
ギアスは王の力。王の力は人を孤独にする……と。
それが本当なら僕は、を愛しちゃいけないんだ。

夢から覚めた僕は、天井を見ながらぼんやり考えていた。
には、幸せになってもらいたい。
それに僕は、をギアスで傷つけるかもしれないのだ。
次力が暴走すれば、そばにいるを……そう思うと、怖くてたまらなかった。








16歳、冬。エリア7。
僕はに告白した場所で、彼女と向かい合っていた。
星空が僕らを見下ろし、月が僕らを照らす。
そんな中で先に口を開いたのは、僕だった。

。エリア11に行く前に、話したいことがあるんだ。」

「なぁーに?」

彼女が大きい目で覗き込んでくる。
一呼吸した僕は、きっぱりとに言った。

「僕は……への想いを胸にしまおうと思う。」

「……どうして?」

の顔に影がさし、瞳が大きく揺れた。
どうしてと尋ねられ、言葉が出てこない。次はなんて言えばいい?
言葉を探しているうちに、のほうが口を開く。

「……ギアスのせい……ね。」

「えっ……?」

不意をつかれて、一人戸惑う。僕の態度をみたは、小さく笑った。

「こんなに長く、と一緒にいるのよ?
あなたがどんなことを思ってるのかぐらい、私には分かるの。」

「それなら、僕の気持ちを分かってほしい。
、ギアスは人を幸せにしない。僕はに幸せになってほしいと思ってるんだ!!!
不幸になるのは僕だけで十分なんだっ!!!」

「どうしてそんなこというのよっ!?
私はと両想いでいられるだけで十分幸せよ!!!他には何もいらないわっ!!!
あなたが幸せにならないというのなら、私もならなくていい!!!」

は拳を握って叫んだ。彼女の綺麗な声が、夜空に吸い込まれる。
赤い瞳から、涙が流れた。
僕は君を泣かしたかったわけじゃない。
ありったけの力で、「が好きなんだもの!!!」と叫ぶ彼女を見て、苦しくなった。

「だけど……っ!!!」

僕は顔を歪めてを引き寄せた。
そのまま、力いっぱい抱き締める。が呼吸できないくらいに。
僕の胸に、の息がかかる。彼女の鼓動が響いてくる。

「だけど僕はっ、を幸せにはできないんだっ!!!
それなのに……それなのに……君を手放したくないっ。僕は一体、どうすればいいんだよっ!?」

答えを教えてください神様。
そう願っても、僕に答えは訪れない。ギアスを手に入れ、人の道を外れた僕だから……。
そのかわり、僕には温もりが訪れた。
の手が、僕の頬を撫でる。僕はその腕を掴んで、荒々しく口づけした。
いつもの紳士的な僕からは考えられないくらい、情熱的な……。

神様は答えをくれない。
それならば、僕は僕自身のために答えを選んでもいいだろうか?

僕はそのまま、を抱きかかえる。
長い髪からちらりと覗く彼女の横顔は、嬉しそうに笑っていた。涙を滲ませて……。
ねぇ。本当にいいのかな?






僕と一緒に堕ちてくれても






君が後悔しないのなら、このまま一緒に……。