中国、毛利領。
海に浮かぶ、幻想的な神社に足を踏み入れたのは、大谷吉継率いる石田三成だった。
そこにはなぜか、長曾我部元親の姿もあった。
そして彼らの前に立ちはだかるのは、毛利元就の右腕である軍師・

「お待ちしておりました、三成殿。」

は丁寧に頭を下げる。そこに三成の鋭い視線がつき刺さった。

「お前が……か。噂には聞いている。毛利軍の中で最高の軍師……。
私はこの毛利水軍とお前の頭を手に入れに来た。従属しろ。反論は許さない。」

刀の切っ先を向ける三成に、大谷は慌てて彼をたしなめる。

「待て三成!!同盟を組む相手に、なんという……!!」

それでも彼は、刀をおろさなかった。
ギラギラと怪しく光る、獲物を狙う目。
は小さく肩をすくめ、一言呟いた。

「元就様の言っていた通り、血気盛んなお方。そのままではいずれ、身を滅ぼしますよ……。」

「貴様ァッ!!!!」

三成がの喉元に刀をつきつけるが、彼女は涼しい顔をしていた。
まるで死など怖くはないというそぶり。

「……なぜ叫び声をあげない?なぜ恐れを見せない。
もしかしたら私は、このままお前を切るかもしれないのに。」

「私を本気で切るつもりがあるならば、あなたは最初から毛利と同盟など結ぶつもりはなかったでしょう?」

にっこりとは言った。
言葉につまる三成。
確かにそうだ。もしここで彼女を切れば、元就は血眼になるだろう。
そうすれば同盟も有無を言わさず決裂。家康との戦いが難しくなる……。
ギリリと唇を噛み、刀をおさめた。
そんな三成を見つめ、はぽつりと彼に尋ねる。

「三成様は……なぜ家康様をそんなにも殺したいと思っているのですか?」

その質問に、カッと三成の目が開く。
地の底から湧き出るような声で彼は言った。

「なぜ……だと?家康は私から秀吉様を……全てを奪った!!
だから今度は私が……奴の全てを奪い殺してやるのだっ!!」

「……そのあとは?」

不意に投げ掛けられるさらなる質問。

そのあとは………?

三成の中で、彼女の言葉がうまく処理できなかった。
そうだ。そのあとはどうする……?
彼の代わりに、天下を統一するのか?
乱世を……終わらせる?
わからない。わからない。わから……ない。
何も答えない三成を見て、は言う。

「……あなたには、家康様を倒すことだけしかない。
それが終われば、あなたの心はからっぽになる。それはなんとも……寂しいこと……。」

はひらりと身を翻した。
ゆっくり歩いていく背中を、ただ見つめるだけの三成。
何も言えず、動くことさえできなかった……。











「それで、石田三成という男、そなたの瞳にどう映った?」

毛利軍・本陣。

総大将・毛利元就の隣に立つのは、うっすら笑みを浮かべる
彼女は主のほうへ視線を移し答えた。

「元就様のおっしゃる通り、血気盛んなお方でございました。
あれでは凶王と呼ばれてしまうのも頷けます。」

「そうであるか……。」

「でも、なんとも面白いお方でございました。
家康様を倒すことしか考えておらず、それに向かって全力で生きている……」

「我からすれば、あやつはただの愚か者だ。先のことを考えぬなど、無謀の策よ。」

フンと彼が鼻で笑った。
そんな主を見て、は頬を緩めた。
でも我が主は、そんな彼にどこか好感を持っているように見える。

「そう言っておきながら、元就様は交渉に応じています。
ただまっすぐに、己の道をつき進む姿を見てみたいとさえ思っておりますね?」

「………。」

元就は答えなかった。氷のような冷たい視線を凜に向けるだけ。
けれどは、そんな沈黙の時間も好きだった。

「……やはりそなたには敵わぬな。そなたには、心が読める能力があるのかと思うことがあるぞ。」

少しだけ元就が笑った。そして小さく呟く。
「石田も、に核心を突かれさぞ心が揺れているだろう」と。
近くで元就とを呼ぶ三成の声がした。
元就はスッと目を閉じ、しばらく黙る。
も快晴が広がる空を見上げた。
青い空と流れる雲。そこにふいてくる、鋭い風。
目を開いた元就が、大きく吠えた。

「全軍、合戦準備!!めざすは……石田三成!!
奴に負けたとき、我らは西軍に味方することとするっ!!」

全力で我に挑め、石田三成。西軍に我と、を欲するならば。






凶王と智将とその軍師