夏といって想像するものは何だろう………?

やっぱり海?
あぁいいなぁ、大好きな彼女と海に行きたい。
彼女はきっと女の子らしい水着を身につけて、僕の手を引きながら一緒に海に入るんだろうなぁ。

でもゆかた姿も捨てがたい。
浴衣姿の彼女と、甚平姿の僕とで花火をする。
これもいい。

これもいいけど、やっぱり夏と言ったら…………。

「怪談、怖い話だよね?」

二人っきりの生徒会室で、僕が小さく呟くとがアーサーを撫でながら「どうしたの?」と聞いてきた。
一瞬僕は不敵に笑うけど、彼女はそれに気付かなかったみたいだ。
大きい目が、じっと僕を不思議そうに見ている。

、夏と言ったらやっぱり怖い話だよね?」

「え、え………?こわい、はなし?それって……幽霊とか………?」

女の子ってこういうのに弱い子が多いって聞いたけど、も例外ではないらしい。
声が震えてる。
でもそれがばれないように、必死に隠すが何だか可愛くって、ついいじめてしまう。
可愛いの反応が見たいがために、僕はさらにを怖がらせる。
僕はこの後凄く後悔し、反省するハメになるのだが………。

「うん。昔はね、日本が作るホラー映画はとっても怖くて世界的にブームになったことがあるんだ。
こう、夜中に髪の長い女の人が…………」

「…………そ、そんなの怖くない。びっくりしないんだから!!!」

そう言いつつも、かすかに震えてる
強がっている彼女が本当に可愛くて、今でも抱きしめてしまいたい衝動にかられる。
でも、まだだ。まだダメだ。
が折れて、「スザク怖いよ!!!」って言いながら僕に抱きついてくるまでの辛抱。
今の状況を、そういうふうに持っていかなければ。

「本当に怖くないの?、実は凄く今怖いんじゃない?」

「そんなことないっ!!!」

ムキになってが反論してくる。
かすかに目に涙を浮かべてる。本当は凄く怖いくせに………。
僕の彼女は本当に頑固だなぁ〜。

「………ねぇ。君の後ろ、何だか黒い影ができてるように見えるんだけど。
こういう話をすると集まってくるっていうし。怖くないっていうんなら、振り返ってみなよ。」

ピクっとが肩を震わせた。
一瞬だけ僕を見て、瞳をゆらゆらさせながら、ゆっくりと首を回して振り返ろうとする。
「怖くなんて………ないよ。」って、強がりながら。
よし、罠にかかったね
あとは僕が君を驚かすだけ…………。

彼女が背後を完全に振り返ったその時、僕は素早くの背中に回り、
「うらやめしや〜。」とありきたりな言葉を叫んでやった。
突然のことで彼女は驚き、僕の胸に飛び込んできた。
やった!!!作戦成功だっ!!!
そう思った僕だけど、のいつもと違う怯え方に僕は何ともいえない不安を覚えた。

ガチガチと歯をならしながら、全身を小刻みに震わせる。
僕の腕を掴む彼女の手が、腕にぐいぐい食い込んでくる。
もともとはあまり力がないため全く痛くなかったが。

「え、あ、…………?」

彼女の尋常じゃない怖がる様子。
僕はの顔を覗き込む。どこか一点を見つめたまま、小さい声で何度も何度も同じ言葉を囁くのが聞こえた。

「………ごめんなさい。ごめんなさい。許して………。怖いよ、怖いよ………!!!」

?どうしたのっ!?しっかりして!!!ってばっ!!!」

力いっぱい彼女を抱くと、次第にが冷静さを取り戻してきた。
顔をあげ、僕を見つめる。僕の名前をゆっくりと言葉にする。

「ス、ザク…………?」

「そうだよ、スザクだよ?ごめん。僕が君を怖がらせたから………。」

「ご、めんなさいスザク。ホントは幽霊とかすごく怖いの。私が強がったりしたから………。
あのねスザク、私…………。」

見えるの。

幽霊が………………。

「…………え?」

「超能力って、一種の霊感にも入るのかな………?
今は見えない。だけど昔は見えてたの。つい最近まで。特派に入ってから見えなくなった。」

は僕を見上げたまま、辛そうに笑った。
実は………すごく悪いことをしたのではないか。
ううん、とっても悪いこと。を傷つける行為をしてしまったのではないか。
この戦争ばかりの世の中、もしも本当に見えるのだとしたら………あまり良いものを見ているのではないだろう。

「戦争とかで死んだ人たちはね、いつも見える人に助けを求めるの。
だからそれが凄く怖くて。私じゃ助けられないって分かってるから。だからずっと………見たくなかった。
小さい頃は夜寝るとき、布団に包まって絶対目を開けなかったの。
スザク、ごめんね?私を傷つけたと思ってるでしょう?
私も、ちゃんと話してなかったのが悪いの…………。気にしないで。」

の優しさを感じた。
けど僕にはこの優しさが逆に深く心をえぐる。
俺は………俺は………なんてことを!!!
軽い気持ちでを怖がらせ、あげくの果てにいちゃつこうなんて………!!!

、ごめんっ!!!本当にごめんっ!!!俺が悪かった!!!」

強く強くを抱きしめて………。

夏といえば…………この話題、絶対に触れてはいけない。
触れてしまえばを沢山傷つけるから。嫌な過去をたくさん思い出させてしまうから。
苦しい思いをさせてしまうから………。
そんな思い、君には絶対させたくないよ………。

「スザク、そんなに謝らないで。
あなたにおどかされた時は本当に怖かったけど………でも私、今たくさん得してるから。
スザクがね、凄く愛してくれている………。力いっぱい抱きしめてくれている……。ありがとう。」

の心は穢れてなくて、真っ白で。

死んだ人――――――幽霊たちがに助けを求めるの気持ちが、僕にもはっきり分かったような気がした。












彼らがキミを、求める理由












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没った感がぬぐえない、今日この頃。