始業の時間までにはあと少しある。
時の許す限り、は目の前にいる人物と話がしたかった。
先代の葛葉ライドウ。前の事件で時の迷い児となった彼が、今ここにいる。
年をとっているが。
多分、過去ではあるがちゃんとした時の流れに乗れたのだろう。

「それで、帝都はどうなった?」

優雅なふるまいだけは変わらない。
彼こそ、共に戦った仲間…………。

「帝都は今、新しい葛葉ライドウが守護しています。十六代目・葛葉ライドウです。」

「そうか………。」

にっこり目の前にいる十五代目は笑った。も笑い返す。
何はともあれ、生きていてくれてよかった。
彼がそう簡単に死ぬとは思えないのだが…………。
それに十四代目もかなりの長生きだった。
十五代目にも長生きして欲しい。たとえ、年老いていても………。

「ところで、最近この付近で黒い影を見るようになったし、
人が人以外のものになっている。これはどういうことだ?
さらには時間が止まっている。昔はこんなこと…………なかった。」

「やはりあなたも気付いておられましたか。
黒い影はシャドウという敵です。
シャドウは抑圧された人の精神が切り離されたもの。
私達は10年前、ここで起きた事故が原因だと考えています。桐条グループの……」

はそう言って目を伏せた。
ライドウは顎に手をやってから「ふむ………。」と考える。
そして思い出したように声を上げた。
彼は桐条グループの当時の事件の記憶があった。
あの時、何か強い力を感じたことを今でも忘れていなかったのだ。

「そうか、あの事故が原因で………。帝都のほうに何か影響は?
あそこはヤタガラス様がおられるところ。
帝都がつぶされれば、この国は終わるぞ?」

真剣な面持ちでライドウが呟く。
は小さく言った。

「現在そこまで大きな影響は出ていませんけど、
やっぱり向こうにもごくたまにシャドウが出るようです。
今は十六代目が対処してくれています。」

「なるほど………。それにしてもシャドウのことは全く気付かなかった。
やはり私は、所詮デビルサマナーだな。ペルソナ使いとは違う………。」

ライドウはに近づき、ポンと頭に手をのせる。
昔はよくしてくれていた。
にとって十五代目の葛葉ライドウは兄のような存在であった。
だからいなくなった時は、本当に悲しかった。

「いえ……」とは恥ずかしそうに言ったあと、考える。
自分はペルソナが使えるため、葛葉の里を追われた者。
葛葉になりえなかった者。でも今はそれでよかったと思っている。
追われたから、今十五代目や十六代目のライドウと共に戦えて、
今の仲間にもめぐり会えた。
これでよかった…………。

っ!!!」

声をするほうを見れば、息を切らしたがいて。
「早くしないと授業始まるぞ!!!」と大きく叫ぶ。
「あ……」と思った瞬間、彼女は十五代目に背を押された。

「勉強しろよ、学生。」

そう言って微笑んだ。
形のよい唇が作られる。
「はい。」と明るく返事をして、のところへと向かおうとしたを、
思い出したように十五代目が引き止めた。

、こいつを連れて行ってやってくれ。
どうやら探偵ごっこがしたいらしくて、俺の手には負えないからな。」

ぽーんと封魔用の管が放り投げられる。
は疑問符を浮かべつつ管を受け取った。

「これは…………?」

「ライホーだ。いろいろお前の役に立つと思う。それじゃあな。」

そう言って、ライドウは無駄のない動きで去っていく。
は管をぎゅっと握り締めると腰のベルトに刺した。








、彼は誰だ………?」

の元へ戻ると、彼は待っていたように口を開いた。
は先ほどその人がいた場所を見ながら答える。

「十五代目、葛葉ライドウ。」

それを聞いた瞬間、林は目を大きく見開いた。
だってはこの前、十五代目・葛葉ライドウは先の戦いで時の迷い児となったって述べたから。

「え、十五代目って………。」

「生きていたのよ。」

彼女はそう呟き、後ろで手を組んで歩き出す。
の言葉が風に乗って聞こえてきた。

「まったく、しぶとい人ね。」

そう言ったは、口とは裏腹に本当に嬉しそうで。
は軽く十五代目の葛葉ライドウに嫉妬した。
でも、はよく知っている。十五代目のライドウとの関係を。
ライドウにとっては妹であり、にとってのライドウは兄であった。

?早くしないと江戸川先生に怒られるよ?
あの人危ない香りがしてるんだから。どんな説教か考えただけで………。」

ううう………と彼女が身震いをした。

(そう、彼女の一番はいつも自分。自分の一番はいつも彼女。
俺とはそういう関係だから………。)

の言葉を聞き流しつつ、そう考えているのだった。







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