※もう一つのコードギアス


アッシュフォード学園の2年生になった夏、父さんと母さんが僕に誕生日プレゼントをくれた。
誕生日プレゼントなんて毎年もらってはいたんだけど、今年の誕生日プレゼントはちょっと違った。

「今日からスザク様にお仕えします、使用人のでございます。
ふつつか者ですがよろしくお願い致します。」

切り揃えられた、ストレートの長い黒髪。
淡い着物に身を包み、礼儀正しくお辞儀をする彼女。
目をパチクリさせる僕に向かって、父さんが言った。

「私の友人宅の使用人だったんだが、気に入って譲ってもらった。
スザク、この子をお前にやろう。好きに使うがいい。」

好きにって……。
に視線を移せば、彼女は深々と頭を下げた。
あ、もうちょっと顔が見たかったんだけど……。
そう思いながらも自分の部屋へと戻った。彼女を引き連れて……。
部屋にを招き入れ、僕は改めて自己紹介をする。


「知ってると思うけど、僕は枢木スザク。よろしくね。えと……君はいくつなの?」

大人びてはいるが、年齢はあまり僕と変わらないような気がして尋ねる。
彼女は表情を崩さずに答えた。

「スザク様と同じで、17歳になります。」

「そうなんだ。同じ年なんだね。君は学校には行かないの?」

「はい。私はここでスザク様のお世話をいたします。何なりとお申しつけください。」

そう答えたを、僕はじっと見る。
美しい顔立ち。白い肌に黒髪はよく映えている。

着物から覗く細い首。

とても綺麗な人。

父さんはこの綺麗さを気に入って、彼女を連れてきたのだろうか?
とにかく、クラクラしそうな頭をシャキッとさせようと、僕は早速彼女にコーヒーを頼んだ。
少々お待ちを……そう答えて彼女が部屋を出た直後、僕は息を吐き出した。

「あんな綺麗な人が僕の専用使用人だなんて……心臓がもたないよ。」

の瞳を思い出すだけでドキドキしてしまう。
僕はだらりと椅子の背もたれに体をあずけ、空を仰いだ。








次の日……。

お昼のお弁当を持って、生徒会室へと向かう。
いつもここでみんなとご飯を食べるのが日課だった。
成長期だからって、僕のお弁当はいつも重箱なんだ。
リヴァルとかジノが喜んで手の伸ばしてくるから、量はちょうどよくなるんだけどね。
でも、今日から渡されたお弁当は何だか小さかった。

生徒会室に着いて、早速ブルーの巾着を開けてみる。
中には重箱ではなく、普通のお弁当が入ってた。
蓋を開けると、色とりどりの具材。
おいしそうなおにぎり。ふっくらした卵焼き。
重箱のお弁当も好きだったけど、僕はこっちのお弁当のほうが好きだ。

「珍しいな。いつも重箱のお前が、今日は普通の弁当だなんて……。」

お弁当を覗き込みながら、ルルーシュが言う。
苦笑した顔を向けて、僕は彼にのことを説明した。
僕だけの……僕専用の使用人。
最初、ルルーシュは驚いた顔をしてたけど、話終わったときには笑顔になっていた。

「へえ。お前専用のメイドね。そいつも大変だな。
スザクみたいな駄犬の世話をしなきゃいけないんだからな。」

「ひどいよルルーシュ……。」

パクリと卵焼きに噛み付く。
ふわりと醤油の味が広がった。

(あ……おいしい。)

それは僕が食べたことのない、素朴で家庭的な味だった。なんだか懐かしい味。
僕は広げたお弁当に視線を落とした。








学校が終わった僕は、急ぎ足で家に戻る。
玄関を開けると、たくさんの使用人たちが一斉にお辞儀をする。
その列の一番端に、和服の彼女がいた。
僕はに歩みより、お弁当箱を手渡して言う。

、お弁当、すごくおいしかったよ。」

一瞬ぽかんとした。でもすぐに顔が綻んでいく。
にっこり笑った彼女は、本当にすっごく可愛くて、僕の心臓はドキドキする。

「ありがとうございます。スザク様!!」

恥ずかしくて、僕はすぐに自室へと向かった。
やばい。あの笑顔を考えるとどうにかなりそうだ。
主人の僕と、使用人のの生活は始まったばかり。
ただ一つ言えることは、僕がに惹かれているということ。
どうやら僕は………






君に一目惚れしたみたいだ