「なんで俺らが、クマの携帯選びに付き合わなきゃならないんすか。」 「……完二、お前な、俺一人でクマの面倒が見れると思ってんのか?」 「まぁいいじゃない!!携帯ショップって、意外に楽しいし。」 「そうだよね。私も携帯変えたいなー。」 「そういえば、直斗も行くんだね。珍しいじゃん。」 「ぼっ……僕はただ、携帯ショップに専用のイヤホンを買いに行きたかっただけですっ。」 自称特別捜査隊のメンバーは、ジュネスの携帯売り場まで歩いていた。 人間の姿となったクマが、携帯を欲しがったために、これからみんなでクマの携帯を選びに行くのだ。 「で、とは機種変だっけ?」 陽介が振り返り、後ろを歩くとを見た。 「あぁ。もう長いこと使ってるし、ちょうど携帯変えようと思ってたとこだったんだ。 中の機械も、だいぶイカれてきたしな。」 「私のは……この前の戦闘でぺしゃんこになっちゃったしね……。」 が苦笑を浮かべた。 この前のボス戦で、が落とした携帯は見事ボスにぺしゃんこにされてしまったのだ。 それにがブチ切れ、あの時のボス戦ほど短時間で終わった回はない。 彼女の苦笑に、直斗が顔を伏せた。 そのボスというのは、他でもない、直斗の影だったのだから……。 ジュネスの携帯売り場に着いた一行は、とを除き、クマの携帯選びに入った。 「やっぱ重要なのは機能だろ?」 「何言っちゃってんの?見た目も大事だよ!! ほらこれなんか、クマっぽいじゃない!!ね、雪子!!」 「ち、千枝……それ子供向け携帯だからっ……く、ふふふふ!!あははははっ!!」 「えー………やっぱりカメラの画素数で選ばない? だってブログとか写メ載せたりするじゃん!!」 「クマがブログやってるのか、そこが不明だと思いますけど……。」 みな携帯を持ち、思い思いに言葉を発する。 その中で、黙ったままだった巽完二がスッと携帯を差し出した。 「俺、これがいいと思うんスけど……。」 売り場には、『乙女必見!!夢見る乙女のための可愛い携帯!!』と記されており、 ピンク色を基調にしたボディに乙女なデザインがほどこされていた。 それを見た全員が一斉に叫ぶ。 「「「ないわーっ!!」」」 そんな騒がしいメンバーの横で、とは黙々と自分たちの携帯を選んでいた。 「はどれがいいんだ?」 「はもう決まったの?」 「ん?まだ。けど俺は、とお揃いにする。だって、一緒のモン、持っときたいし。 彼女とお揃いにしたいと思うのは、当然だろ?」 「ちょっと……!!みんなの前で、そういう恥ずかしいこと言うのやめてよっ……。」 「、これが俺なんだ。もうそろそろ慣れろよ。」 いつの間にかみんなの視線が二人に集まっていた。 みんな苦笑気味だ。この二人は、いつもこんな感じなのだから。 「………っ!?みんなっ、もしかして今のやりとり聞いてた!?」 みんなの視線に気づいたが、慌ててそう言う。 沈黙……。 気まずくなった彼女は、今回の主賓であるクマに言葉をかけた。 「ね、ねぇクマ!!携帯決まった?みんなが色々考えてくれてたみたいだったけど……。」 クマは言葉を発することなく、じっとを見ていた。 そして突然声を上げる。 「クマね………ちゃんとオソロイがいいーっ!!」 「「「!!!!!!!!!!」」」 その瞬間、みんなの表情が固まり、の隣にいたが黒いオーラをまとった。 ニッコリ笑った彼が、クマに一つの携帯のサンプルを差し出す。 「クマ、お前にはこれがぴったりだ。」 『お年寄りの方でもラクチン操作!!只今売れてますっ、ラクチンフォン』と書かれた携帯電話。 クマが口を尖らせて、「でもやっぱ、クマはちゃんと同じやつがいい」と言った途端、 の周りにチリッと何か電撃のようなものが走る。 「お、おい……!!まさかアイツ、こんなとこでジオダイン使う気じゃないよな!?」 陽介がそう焦った瞬間、はクマに顔を近づけて囁いた。 「クマ、俺はこれがお前にはお似合いだって言ってるんだけど? センセイの言うことは聞けないか? そうかそうか。なら、今日のテレビの中を楽しみにしてるんだな……。」 少しドスのきいた声。クマの顔から血の気が引いた……。 *** 「クマ、とりあえず携帯買えてよかったね!!」 明るく千枝がそう言う。 結局クマは、が勧めたラクチンフォンを、とは最新型のお揃い携帯を購入した。 「……なあ、どうせだから、写メ撮らねぇ?青春の思い出に……。」 思いついたように陽介が携帯を取り出す。 みんなそれに賛成した。 ニッコリ笑った陽介は、そのまま近くにいた客に携帯を渡し、写メを撮ってもらうことをお願いした。 写真を撮る時の音頭は、リーダーであるがつとめる。彼は怪しく笑って叫んだ。 「よしっ、ヤロウ共!!陽介のあだ名はー?」 「「「口を開けばガッカリ王子ィー!!」」」 「ちょっ……テメェっ!!」 カシャリ。 みんなが楽しそうに笑う中、陽介がに掴みかかっている写メが出来上がる。 たまにはこんな楽しい日々もいいなぁと、は送られてきた写メを見て思った。 「嬉しそうだな、。」 そばではが微笑んでいた。 「んー?たまにはこんな日もいいな……って。あと、いい仲間に出会えたなって思って。」 「同感だ。それに……携帯をお揃いにしたくなるほどの素敵な彼女にも出会えた。」 はの手を握った。 ニッコリは笑う。柔らかく、優しい笑顔。 そのそばで、クマの声が上がった。 「そんで陽介ェ、携帯って、何を携帯してることになるクマか?」 その瞬間、クマ以外の彼らの時間が止まった。 |