戦場を駆け抜ける戦乙女・
彼女は普通の人間と違う。
目の前の敵兵士をためらいもなく倒し、返り血を浴びても動揺しない。
さらに人間を殺すには十分すぎるほどの急所をつく。
彼女に殺された兵士の幸せといえばおそらく、苦しまずに死ねることであろう。
自分に何が起こったのか分からないまま逝く幸せ……。

は相手に刺したサバイバルナイフを引き抜いた。
白い頬に鮮血が飛び、それを拭うことなく再び敵兵士に襲いかかる。

「死ねよ化け物がぁぁぁぁっ!!」

銃弾をよける。
投げた大きなナイフが兵士の腕に刺さった。

「お前に殺されるくらいなら……っ!!」

男は銃口を自分のこめかみに押し付けた。
ふわりと一瞬だけ笑うと、ためらいもなく引き金を引く。の目が大きく開いた。

パァーンっっっ!!

男が倒れ、は持っていた武器をおろした。
戦場はいつの間にか、死体の海と赤い大地に変わっていた。
頭の上をナイトメアが飛ぶ。
つけた無線から男の低い声がした。

「上出来だ、。これなら我がブリタニア帝国も有利に物事が運べるだろう。
帰って体を整備するといい。ご苦労だったな。」

「イエス、マイ・ロード。」

持っていた銃を手放す。カチャンという音と、歩き出す音が重なった。
それと同時に、彼女の呟きも。

「……人間は、簡単に自分自身を殺すことができるのね。」








「どうしてブリタニアは、にばっかり頼ろうとするんですかっ!!」

数日後、本国のラボでスザクが大声を上げていた。
そばにはキャミソール姿のがケーブルに繋がれて目を閉じている。
画面にはの記憶が映し出されていた。この前の戦闘の……。
を整備していたロイドが顔を上げた。

「仕方ないよ。君は効率がいいんだ。
死なないし任務にも忠実。人間だったら、ここまでできない。」

の視点からの戦場が画面に映しだされた。
逝ってしまった人々の山。無意識にスザクは口元を手で覆った。
特区日本で起こったことの記憶が蘇る。あれと同じ光景だ……。

「だからって………」

スザクは机に拳をたたき付けた。
こんなのは他国へのみせしめ。
次はお前の国に彼女が行くと言っているようなものだ。

「それならスザク君は、ちゃんをどうしたいの?」

「どうしたいって……僕はただ、を人殺しに使って欲しくないだけで……」

「けどちゃんは、戦闘兵器として生まれたんだよ。
彼女自身も、自分のことを戦闘兵器だと言ってるし……」

「そんなの……っ!!」

スザクはその続きが言えなかった。
確かに彼女は、戦闘兵器として開発された。
そして学習もする。命や人間について学ぼうとしている。

(、君はこの戦争で何を学ぶの?
何を思うの?死ぬってことについて……何を感じているの?)

目を閉じている機械仕掛けの少女を見る。
人間に見えるけど、人間じゃないんだ……。









はデータの海にいた。
ネット回線を利用して、自分自身をネットに繋げたのだ。
それは疑問があったから。

「なぜ人は、殺しあうの?」

電脳の世界で呟いた。
一気に結果が出てくる。
これまでに起こった戦争。
ブリタニアの歴史、宗教、人種差別……。
はたくさんの情報を目にした。
そこには8年前に起こった、エリア7での戦争も……。日本の主導者・枢木ゲンブ。
枢木スザクの父であり、彼は……自殺した。
の中にあの光景が甦る。一瞬だけ笑ってから自分で逝ってしまった敵兵士。
彼は自分自身で死を望んだ。それもまた、彼の意思……。

はネット回線用のケーブルを引き抜く。時間は夜中の3時。
眠る必要がない彼女は、ラボへと向かった。
理由なんてなく、ただなんとなく……。ラボは電気がついていた。

「……ロイドさん?」

声をかけたが返事はない。
辺りを見回してみると、の視界に栗色の髪の毛とブルーのマントが飛び込んできた。

「スザク……?」

机に俯せになったままの彼の肩が、規則正しく上下している。
眠っているスザクを覗きこんだあと、はラボに置いてあった毛布を引っ張ってきて彼にかけた。
そして横に座る。

「スザクは私にいろいろ教えてくれる。
私はスザクが好きだよ。スザクは私が……好き?」

はやさしく彼の肩に手を置いてみる。ぴくんと肩が動いた。
しばらくはスザクの肩に手を置いていたけれど、静かに手を放した。
そのまま自分の手を見つめて言う。

「スザクの熱は、私には感じない。私は所詮、人に似せられて作られた作りもの。
作りものに好かれても、人間が満足しないのは分かってる。」

ズレていた彼の毛布を戻し、彼の顔を見つめた。
先ほど写真で見た、枢木ゲンブの顔と重なる。

「ねぇ、スザク。死なないでね。私にはまだ、スザクに教えて欲しいことがたくさんあるの。」

は部屋の照明を小さくした。

「私が頑張って、この戦争を終わらせれば、人は殺しあうことをやめるのかな。」

憎しみや悲しみを私が背負えば、人間は殺しあうことをやめるだろうか?

ワタシニハ、ワカラナイ……。







答えは出ないが考える人形