今回、再び帝都守護に任命され、と再び帝都に訪れた我ら。 しかし今回は前回と少し違うことが起こったのだ。 それは名もなき神社を訪れた時の出来事だった……………。 「、この名もなき神社もなつかしく感じるだろう? しかしこの神社も相変わらず寂しいとこよの。前と少しも変わらぬ。 さ、境内へと向かうぞ。」 ゴウトは十四代目葛葉ライドウであるを連れ、名もなき神社の境内へと向かった。 ひんやりとした風が頬をなでていく。 この神社はヤタガラスに協力するデビルサマナーたちが利用する神社で、参拝者などほとんどいない。 しかし、今日は違った。 「む…………?人がいるだと?」 ゴウトが足を止め、境内を見る。 もゴウトと一緒に瞳を人のいるほうへと向けた。 その瞬間、髪の長い少女と目が合う。その少女の肩には一羽のカラスがとまっていた。 瞳の色が赤の……………。 すぐに普通のカラスではないと、二人は気付く。いや、カラスだけではない。 少女からも普通の人ではない雰囲気がひしひしと伝わってくるのだ。 は相手にわからぬよう、そっと腰に下がる刀に手をかけた。 すると、少女の方にとまるカラスが静かに言葉をかけてきた。 「初対面の相手に、しかも少女に刀を向けるとは、少し礼儀がなっていないようだな。 まぁ、業斗童子が目付け役を務めているのなら仕方なかろう。 ゴウトは昔から、人にモノを教えるのは向いてなかったからな。特に礼儀作法では。」 親しく話しかけるカラス。 は刀に手をかけたまま、ゴウトを意味ありげに見た。 ゴウトはハッとしたまま毛を逆立てさせ、赤い瞳のカラスに言葉を返した。 「まさかお前は……………蒼摩童子か!?」 「そうだ。長い時を重ねて生きたせいで友の名も忘れたか? ま、仕方のないことだ。お前は葛葉の手の者。私は綾里の手の者だからな。 しかし会え得て嬉しいぞ。久しいな。 しばらく会わないので、すでにくたばったのかと思っていたがな…………」 「ソウマ…………。」 たしなめるようにそばにいた少女がカラスの名を呼ぶ。 ゴウトは顔をひきつかせながらも同じように言葉を発する。 「それはこちらのセリフだ。葛葉の里で修行していたにもかかわらず、 綾里などという名をもらったバカ者に我も会えて嬉しいぞ。 我がくたばるのは、うぬがくたばってからと決めておるのでな。 うぬがこうして長生きするとは思ってもいなかった。」 「ゴウト…………。」 今度はがゴウトをたしなめる。 ゴウトは知らないふりをして「にゃあ」と一声だけ鳴いた。 その光景に、少女がクスっと笑う。ソウマを肩にのせたまま、彼女はへと近づいた。 そして澄んだ声で名を告げる。 「お初にお目にかかります。 私は十二代目・綾里キキョウの名を継いだです。 あなたが十四代目・葛葉ライドウの名を継いだ方ですね?」 黒々とした瞳がとても綺麗だとは思った。 顔立ちが整っていて、お嬢様のように気品に満ち溢れている。 は静かに名を告げる。 「十四代目・葛葉ライドウを襲名しただ。」 そんな彼の行動に、ゴウトが驚く。は無口だ。 自己紹介のときなど、頭を下げる程度の彼が、自分の名を告げることなどなかなかない。 もちろん、「」は偽名で、本名は別にあるのだが、それは自身しか知らない。 「そうですか、さんとおっしゃるんですね。私のことはとお呼びください。」 はにっこり笑って頭を下げる。もつられて頭を下げた。 そこにゴウトが割ってはいる。 「ま、待て!!!何を二人でそんなに和んでる!?だいたい綾里の者がなぜここにいるのだっ!!! 綾里の受け持ちは封印されし悪魔の監視であろう? それも、綾里の管轄は帝都ではないはずだ。帝都一帯は葛葉の管轄であろう?」 「それはこちらから説明いたしましょう。」 ちょうどゴウトがしゃべり終わった時、物腰のやわらかな女性が姿を見せる。 頭には黒い頭巾をかぶっていて、藤色の唇がゆるやかに動く。 「今回はヤタガラス様直々の命により、綾里の者にも来ていただきました。 お二方がおそろいのようなので、これからもろもろの説明をいたしましょう。」 そう言って、ヤタガラスの使者はとの二人に向き直る。 帝都では今、不穏な動きが目立っていた。 その不穏な動きをつきとめ、原因を断ち切り帝都を守護するのが葛葉ライドウに与えられた仕事。 一方、綾里キキョウに与えられた仕事は、そのライドウの手伝いだった。 もしかしたら今回、ライドウが前回の事件の時のように封印されし悪魔たちと戦うかもしれない。 それを引き受け、悪魔を封印し直すのが綾里キキョウの仕事。 備えあれば憂いなし。そういうことで、綾里キキョウは帝都に派遣されたのだった。 「こんな小娘が十二代目・綾里キキョウとはな。」 横目でゴウトがを見ると、彼女はゴウトに笑いかけるものだから、 彼は慌てて視線を別のほうへとうつした。 まったく、調子が狂うと思えば、ソウマが意味ありげに笑った。 「小娘だからと見くびらないほうがよいぞ、ゴウト。 十四代目・葛葉ライドウも、かなりの者だと風の噂で聞く。 さぞかしかなり力量のあるデビルサマナーなのだろう。 、そなたと協力するからには知っておいてもらいたいことがある。 綾里キキョウはもともと、綾里流陰陽師を本家とするもの。 だから綾里は葛葉のように悪魔を使役することを得意としない。 しかし戦闘においては葛葉よりも得意だ。苦戦しそうな時は、に協力を頼むと良い。 それ以外にも、私らは葛葉の手助けをしよう。もちろん、仲魔を使役して………な。 綾里も一応はデビルサマナーだ。」 ソウマはの肩からの肩へと飛びうつった。 そして白い紙をくちばしでくわえて言葉を続ける。 「お主に、誓いのしるしとしてこれを渡しておこう。」 ソウマはにくちばしでくわえた紙を渡す。シンプルに一つ、キキョウが描かれていた。 ソウマの代わりにが告げる。 「その紙は、綾里と協力する者に与えられる札なの。 それを持っている限り、綾里のデビルサマナーはあなたに全面的に協力するわ。」 は紙をじっと見つめた。ゴウトも下から紙を見上げている。 しばらしくて、彼は思い出したように制服のポケットをまさぐる。 そして、何かを掴むとに手渡した。 「え……………?なに、これ?」 手を開いて彼女は戸惑う。苦笑を浮かべたまま、手のひらのそれをに見せた。 それは麻雀で使う麻雀碑だった。 「誓いのしるし………だ。なりの、な。」 無口なの代わりにゴウトが答えた。横でこくりと彼がうなずく。 「変わっているな。よ。」 彼の肩にとまったまま、ソウマが言った。 は戸惑いつつも手のひらに乗る麻雀碑を制服の上着のポケットへとしまう。 彼女の着ている制服は、この時代には珍しい背広のような制服だった。 異国の言葉でブレザーというらしい。色は紺で、赤いリボンが結ばれている。 「とにかく、これからよろしくお願いします。業斗童子、さん。」 「お前の世話になるのは死んでもごめんだが、ヤタガラスの命では仕方あるまい。」 が言い、ソウマも彼女に続けて嫌味を言う。 だが本心ではない。それをゴウトもちゃんと分かっている。 「へらず口を………」と答えるゴウトの顔が、なんとなく嬉しそうだとは密かに思った。 |