カチャンとドアを開ける音がして、は音のするほうを見る。
見る………というのは少し間違いかもしれない。
なぜなら彼女の目は、しっかりと閉じられているから。
ルルーシュが死んで3年。
彼の恋人であった・はルルーシュを失った悲しみから、視力を失った。
しかし、の中で彼は生き続けている。
「ただいま、。」
「おかりなさい、ルルーシュ。」
これはいつも通りの会話。
のことを愛していたのはルルーシュだけではない。
枢木スザクもそうだった。
彼女をすごく愛していた。
だけど彼女はルルーシュのものだった。だから彼はゼロであったルルーシュを殺した。
自分の手で………。
はそれを知らない。彼女が知っているのはルルーシュが死んだ………それだけだった。
ルルーシュが死んだと聞かされて、に異変が起こる。
視力を失い、瞳は閉じられ、誰も彼女の瞳の色を見ることができなくなった。
次にスザクをルルーシュだと思い込むようになった。
まるで悲しみをぬぐうかのように、彼がルルーシュの代わりに選ばれた。
声も性格も全く違う。
だけどはそんなこと気にしなかった。
枢木スザクをルルーシュ・ランペルージとして愛し始める。
ここから全ての偽りが始まった。
「今日は早いのね。」
「が心配だから軍の仕事を早く終わらせたんだよ。」
『軍の』と言っても彼女に影響はない。
彼女の中でのルルーシュは、軍に入ったと設定されているから……。
スザクはを抱き寄せ膝に乗せたあと、猫を撫でるように頭を撫でてあげる。
気持ちよさそうに彼女は表情を和らげ、スザクに体をあずけた。
「んふ、くすぐったいよルルーシュ。」
そういいながら、スザクが殺した友の名を呼ぶ。
最初は慣れなかった。
力ずくでもに『スザク』と呼ばせたかった。
だけどそうすれば、の心は完全に壊れるとロイドから言われた。
屈辱………。
もしかすると、これはルルーシュによる最後の復讐なのかもしれない。
自分の命を奪ったスザクに対する復讐………。
「ルルーシュ、今日元気ないね。何かあったの?」
しばらく何もいわないスザクを心配して、下からが彼を見上げていた。
目の見えないは、かわりに他の感覚が鋭くなっている。
にこやかに微笑んで、「何もないよ。」と安心させるように言う。
彼女の中にずっと残るルルーシュを想像しては、彼を憎んだ。
でももういいじゃないか。
の中でスザクはルルーシュとして扱われている。
だけど愛してくれていることには変わりない。
仕事から帰れば、は柔らかな微笑みを浮かべ彼を出迎える。
遅くなった日には泣きそうな顔になりながらも寝ないでずっとスザクを待っている。
スザクがを求めれば、もスザクを求めてくれる。
月が浮かぶ静かな夜に、二人で過ごす甘い時間………。
偽りの『愛』でもいい。
ずっと彼女が欲しかった。ずっと欲しかったものが今手の中にある。
『ルルーシュ』と、別の名前を呼ばれていても、スザクはに愛されている。
だからもう、いいじゃないか………。
再び彼女を抱きしめて、スザクはボソっと彼女の耳元で囁いた。
「あのね、今日もいいかな…………?」
スザクの言葉には嬉しそうに笑った。
「ルルーシュが元気になってくれるなら、私はいいよ。」
たとえこんなおかしな関係でも、お互いがお互いを必要としているのなら、これは愛と呼んでもいいですか?
黒 と 白 と 黒 。
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