ロイドさんに用事があって、宮殿内をうろうろする。
なかなか見つからず、会う人会う人にロイドさんの行方を尋ねてみたけれど、みんな首をふった。
そこにジノと偶然会って、ロイドさんをラボで見かけたという情報を入手する。
さっき行った時はいなかったのにな……なんて思いながら、僕はロイドさん専用のラボへと足を踏み入れた。

「ロイドさん……?」

返事はなかった。ラボの中は誰もおらず、シンと静まりかえっていた。
僕の靴音だけが響いていて、虚しい感じ。

「……やっぱりいないのかな?」

そう呟いて周りを見回せば、僕のよく知る人物がいた。
いや、いた……ではなく、あった……というべきかもしれない。

「え……?」

返事はない。彼女はラボの隅にある台に寝かせられていて、しっかり目を閉じてる。

……」

触ると人間の感触だが、温度はなく冷たい。
揺さぶっても彼女は起きなかった。まるで眠り姫のような

白い肌に赤い唇。

それが偽物だと分かっていても、僕はドキドキした。
ラウンズになって、多くの女性を相手にしてきたけど、を想うのと同じくらいの高揚感はなかった。

貴族の女性たちは、僕を色仕掛けで誘う。でも彼女は違った。
は最強の戦闘兵器でロボット。男を誘うなんてことしない。
と一緒にいると心地よかった。ただ純粋に生きる彼女が、穢れない存在に見えた。

人間特有の欲や嫉妬に生きない

そして、愛すらも理解していない

僕は、そんなに恋をした。意地……もあったのかもしれない。
僕を見て、何も思わないに対して。僕を好きになってほしい。
それは遠い願いだと分かっているけど、もしかしたら……なんて期待も少しはある。

。」

僕は彼女の髪を撫でた。それでも彼女は起きない。
きっと電源が入ってないのだろう。チャンスなのかな……?

僕はそっと、の唇に自分の唇を重ねた。
最初は軽く。次は啄むように。そして最後は……愛してるって伝えるくらいの深いキス。
もしこれで起きたら凄いや。白雪姫って話があったよね。あれにそっくり。
僕が王子様で、が白雪姫。ふふ、が白雪姫だったら、ぴったりかもしれないね。
そんなことを考えていたら……。

「ん……」

彼女が目を開けた。
信じられなかった。だっては電源が切れてるはずなのに……。
もしかしたら……切れてなかった?

「……やあスザク君。ちゃんが心配で見に来たの?」

ハッとして振り返れば、探していたロイドさんの姿。
彼は目を開けたを見て、にっこり笑った。

「いやぁ〜、よかったよ〜。
実はね、ちゃんなんだけど、ずっと目を開けてくれなくてさぁ。」

「……え?」

話が見えなくて、僕は何も言えなかった。

「あれ?聞いてないんだ。ちゃん、この前の戦いで酷く壊れちゃってねぇ。
頭に入ってる人工チップは大丈夫だったんだけど、他がダメで修理したわけ。
そしたらなんでか、いきなり起動しなくなっちゃってねぇ。
セシル君と調べつくしたんだけど、原因不明。」

ロイドさんは、持っていたファイルを机の上に置く。
それはに関するマニュアルやデータが入ったものだった。

「んで、お手上げ状態だったところにスザク君が登場。
ラボに来てみればちゃんは再起動中。ねぇ、一体どんな魔法使ったのかい?」

ずいっと顔を寄せるロイドさんに、僕は乾いた笑いしか見せられなかった。
白雪姫の話のように、にキスしました……なんて言えない。
僕は起動中のをちらりと見て呟く。

「僕は……別に何も……。」

「ふぅーん。」

彼はあまり納得してない感じの返事をする。
はまだ起動中なのか、起き上がったまま、ぼぅっとしていた。
彼女の赤い唇が目について仕方なかった。
このままここにいれば、自分のやったことに恥ずかしさを覚えてどうにかなりそう……。

僕はすぐにラボを立ち去った。ロイドさんの声が聞こえたけど、無視する。
あぁ、今度に会う時は、ちゃんと顔を見れないな。
ラボを出て、僕は全速力で走り出した。







まるで白雪姫のような話