僕は今日、ミレイ会長に(無理矢理)誘われて、生徒会のみんなとプールに来ていた。
泳ぐ気分じゃないのにな……なんて思いながら隣を見ると、不機嫌なルルーシュと目が合った。
彼もミレイ会長に無理矢理誘われて来たようなものだ。
お互い水着姿のまま、プールサイドのベンチに座っていた。

「それにしても、ジノやアーニャが一緒に来ないなんて珍しいな。
あいつらなら、一番に食いつきそうな話なのに……。」

「うーん、なんか二人とも用事があるみたいでね、来れないんだって。」

そうなのだ。ジノとアーニャは今日のプールには来ていない。
どうしても重大な用事があると真面目な顔をされたのだ。

「まぁ……そのほうがいいか。
あいつらがいないほうが、ゆっくり出来そうだしな。」

彼が笑う。

「ルルーシュ、泳がないの?」

そう言えば、不機嫌な顔になったルルーシュがジロリと僕を睨んだ。

「……俺が率先して泳ぐように見えるか?」

「あはは。そう、だよね……。」

「そういうお前こそ、泳がないんだな。
トレーニングとか言って、流れるプールを逆に泳ぎそうなくせに。」

ルルーシュが、持ってきていた防水携帯を開いた。
彼から視線をそらし、僕は流れるプールで楽しむシャーリーたちを見る。

「うん。なんとなく、泳ぎたいっていう気分じゃないんだ。
っていうか、僕だけが遊んじゃいけない気がして……。」

僕の脳裏に、この前の戦いが甦った。

土埃で汚れた

頬に鮮血をつけたまま、銃やナイフを使って戦う姿は、まるで戦乙女のようだった。
女神で例えるなら、アテナのような……。
命令であるとはいえ、は必死で戦っていた……。
じゃあ、僕は……?

考え込んでいる僕に、ルルーシュが焦った声を上げる。

「おっ……おい!!スザクっ!!」

「……え?わっっっ!!」

急に冷たい水がかけられ、驚いて変な声を上げてしまった。
頭の上でジノの笑い声と、ピロリンという携帯のシャッター音が聞こえる。
目を開けてみると、そこには……。

「ジノっ!?それにアーニャもっ!?」

来れないと言ったはずの二人が僕を見て笑っていた。

「ど……どうして!?」

「どうしてって言われてもなぁ……?
俺達、完全に行けないとは言ってないぜ。一緒には行けないって言っただけだ。」

「じゃあ重要な用事っていうのは……?」

の性能テスト……だよ。」

ピンクの水玉模様のビキニに身を包んだアーニャがの腕を引っ張った。
ワンピースの水着を着たがそこにいた。僕は信じられなくて声が出なかった。
だって……ロボットのが水着を着て、プールにいるんだから。どう考えたってありえない。

「まぁ、もう性能テストは終わったけどさ。
が水中に適してるかどうかを調べて欲しいってロイドさんに言われて、プールに連れてきたわけ。
海とかでもよかったんだけど、ちょうどミレイたちに誘われたしな。
どうせだからもプールに連れていってやろうと思って。それに……」

ジノが僕に思いっ切り近づいて囁いた。

「お前も、の水着姿見たかっただろ?」

「ぼっ……僕は別に……っ!!」

大きな声を上げると、の瞳が僕を向く。
濡れた髪が首筋に張り付いていて、それだけで艶やかに見えた。心臓が大きく高鳴る。

すらりと伸びた白い腕と足。

華奢な体。

ほどよい大きさの胸。

僕の顔を赤くするには十分だった。機械とは思えないほどの美しさ。
男たちがみんなのことを見てる。もちろん、ルルーシュだって……。
彼は美しいものが好きだ。

……だったよな?お前、機械なのに濡れてもいいのか?」

「はい。私はもともと、水陸両用に作られた戦闘用ロボットで……」

!!今日はそういう話はなしって言っただろ?
今日はプールを楽しめって命令したはずだ。」

ジノが呆れたような表情をしての腕に触れる。
彼はウィンクして、「一緒に泳ごうぜ」と彼女を誘った。
そこにルルーシュが混じる。

「待てジノ!!万が一を考えて、を水につけないほうがいいと思うが……。」

ルルーシュの手が、の腕を掴んだ。
は二人の顔を交互に見ている。
そして僕と目が合った。気づいた時には走り出し、彼女の体を僕のほうへと引き寄せていた。

のことは僕に任せて、二人は泳いで来たらどう?
ほら、会長やシャーリーたちも呼んでるしさ。」

視線の先にミレイ会長やシャーリーたちが二人の名前を呼んで手を振っていた。
「ちぇっ……」とジノが小さく呟いたあと、ルルーシュを無理矢理引きずってプールの中に飛び込んでいく。
プールサイドには、僕とだけが残された。
小柄ながキョトンとしたまま、僕を見上げていた。

「スザクは泳がなくてもいいの?」

「うん。少し休みたくて。ほら、ここに座りなよ。」

「うん……。」

素直にが隣に座った。そしてじっと、僕を見つめる。
彼女は手を、僕の胸に伸ばした。

「怪我のあと……」

細い指が、胸からお腹にかけて出来た僕の傷痕をなぞる。
ひんやりとした彼女の指は心地好かった。

「それは僕がまだ一等兵だった時に作った傷だよ。」

の手を掴み、彼女の指に僕の指を絡めた。まるで恋人同士がするみたいに。
好きだから。触れていたいから。例え彼女に熱がなくても……。はきっと、分かっていないんだろうけど。

「スザクは傷だらけなんだね。他にもいっぱいある。一生懸命戦ったんだね。
私……スザクが怪我しないように、これからも必死に戦う。」

がちょっとだけ笑った。
きっとこの時僕の顔は歪んでいたと思う。
とっさにを抱き寄せて耳元で囁いた。

「もう、いいんだよ。君がそんなに必死にならなくても、僕が終わらせるから。
君はただ、僕のそばにいてくれるだけでいいんだ……。それだけで僕は……」

生きようと思えるんだ。

はキョトンとする。
ああ、やっぱり意味が分かってないんだろうな。僕は苦笑する。
抱きしめられたまま、「どうして?」と尋ねてくる。
そんなの決まってるじゃないか。
好き……だから。
人形である君を、愛しているから。
けれどその言葉を飲み込んだ。代わりに抱きしめる腕に力がこもる。
遠くでミレイ会長やジノの冷やかし声が聞こえたような気がしたけど、気にならなかった。










思いがけずのプールデート