今日はめずらしく、彼氏であるが早く帰ってきた。 はご飯を作るため台所に立っている。 「ただいま。」 「あら?今日は珍しく帰ってくるのが早いね。」 可愛いエプロンを身につけて、お玉で鍋の中をかき混ぜながら言った。 は鞄をソファへ放り投げると、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。 プシュっと炭酸が抜ける音がして、はボトルに口を近づけた。 「今日は部活が早く終わったんだ。ところで、菜々子は?」 「お友達のうちに遊びに行ったよ。 あ、。お弁当箱出しといて。今食器と一緒に洗っちゃうから。」 鍋に蓋をしたあと、がサイダーを飲むにそう告げた。 苦笑したが、「はいいお母さんだな。」なんていいながら、 鞄の中から弁当箱を取り出す。 それを受け取ったあと、スポンジにぜんざいをつけてあわ立てる。 揺れる髪をはじっと見ていた。 「今日のご飯、何?」 「カレーだけど………?あとサラダも。 ナナちゃんの好きなポテトサラダにしたのよ。」 キュッキュッと食器と弁当箱を洗いながらが彼の質問に答える。 カレーか………。 は林間学校のときの苦い思い出を思い出し、一人で苦笑した。 あのときと同じ班になっていれば、今みたいなおいしいカレーが食べれたのにと、 今更ながら遅い後悔をする。 「そうだ。近所のおじいちゃんからりんごもらったの。 デザートに剥こうか?」 泡を洗い流しながら、はに顔を向けた。 その時のが、にはとっても可愛くみえた。 黄色いエプロンをするは、まるで自分の妻のように見えて……。 はドキリと心臓を弾ませながら、小さく頭を振った。 「え?いらないの?」と残念そうにが言ったので、はまた頭を振った。 「もう、どっちなのよ。」 怒ったように口を尖らせるの腰を、は抱き寄せた。 「ちょっと!!!」 手から水を滴らせながらが抗議する。 そんなことお構いなしには意地悪く呟いた。 「デザートはりんごもいいけど、もいいな。」 さらっと言ってのける自分の彼氏に、は顔を真っ赤にさせる。 こんな突然卑怯だ、とは思った。 しかも恥ずかしいセリフを簡単に言ってのけるは、 絶対都会のほうでは女慣れしてたんじゃないかとは疑う。 だけど、気付いてみれば彼を好きになっていた。 どうしようもないくらい。 「も、もう!!!何言ってるのよ!!!放して。ナナちゃんが帰ってきちゃうよ。」 身をよじりながらの腕から逃れようとするけれど、いっこうに彼の体ははがれない。 むしろさっきよりもぴったりと密着した気がする。 「っ!!!!」 「が"いいよ"って言うまで放さないからね。」 笑顔での耳元にそう囁くが悪魔に見えた。 |