コンコンと、ノックをする音では目を開ける。
時計を見るとすでに12時近かった。
あの時間が、またやってくる。

、いるんでしょ?」

ドアのほうから声がして、はベッドを降りた。
ドアノブをまわすと、すっとドアが開かれる。
がたっていた。
嬉しくて、には分からないように少しだけ微笑む。

「こんばんわ。少し話していい?」

こくりとは承諾の意を見せた。
手招きをすると、は黙ったまま部屋の中へ入り、ベッドに座った。
も隣に腰を下ろす。

「まさかこんな風にと会うなんてね。
………ペルソナ、目覚めたんだ。」

先に口を開いたのはのほうだった。
のほうを見ないで静かに話す。

「帝都でやってたデビルサマナーの仕事ね、綺麗に片付いたよ。
私が学校に行けなかったときにが転校しちゃったから、なんだか寂しかった。
最後にちゃんとお別れいいたかったのにって思ったかな……。
でもまた会えてよかった。」

二人の間にしばらく沈黙が流れた。

当時の彼女は、デビルサマナーの仕事が忙しくて学校にも来ていなかった。
たまに来たと思ったら、体中は傷だらけだったりしたし、血の気のないまま学校に来たり。

「そういえば、って出血多量で血が足りないまま学校来たりしたこともあったよな。」

笑って、懐かしそうにがつぶやいた。

遠い昔のようだ。
あの頃、俺はまだ平和の中にいて、ペルソナで戦うことも知らなくて……。
の無茶苦茶な行動にいつもため息ばかりついていて。
それでも、両親をなくした俺にとって、は心を許せる相手だった。
同様に、は俺だけに心を開いてくれて……。
とても甘い時間……。

「そんなこともあったね。あの時私はに凄く怒られた。
挙句の果てに『早く病院行けっ!!!』って怒鳴られたしね。
普段は怒らないから、クラスのみんながびっくりしてたっけ?」

くすくすとが笑った。
その笑い声がには心地よくって。静かに目を閉じる。
そのまま質問した。

「……。仕事片付いたんだろ?
どうやって終結させたんだ?あの事件……。」

あの事件。
少し前、帝都で起こった少女神隠し事件。
その事件には、悪魔やさまざまなデビルサマナーが関わっていた。
しかし蓋を開けてみれば、黒幕は時空を超えてやってきた未来のデビルサマナー。

「………ただ単純に、黒幕を倒したのよ。
黒幕は未来のデビルサマナーでね、未来を変えようとしていた。
だから最後に十五代目のライドウが彼を討ったのよ。でもそのせいで時間のひずみができて……。」

は口をつぐんだ。
大きく開かれるの目。
まさかと思った。

「十五代目のライドウは、時の迷い子となった。多分、彼はもう帰ってこれない。
だからヤタガラスは新しい葛葉ライドウに帝都守護を命じた。
それが十六代目・葛葉ライドウ……。」

ぎゅっと自分の手を握り、拳を作る
彼女は泣いてはいなかった。ただ、悔しそうに唇をかんでいる。

「私の力がいたらなかったのよ。もう少し私の霊力が強ければ……ライドウを救えてたのに。」

急に灯りが消え、時計が12時を指したまま止まった。
本来存在しない時間に突入したのを体で感じる。
大きな月が、窓から見えた。
まだ満月ではない。しかし刻一刻と、満月に近づいている。
毎日毎日……。

、俺はお前になんていっていいか分からない。
だけどこれだけは言える。」

ふっと自分を和らげて、彼女を安心させるように言葉を紡ぐ。

「おかえり、俺の隣に……。」

優しくの手を握った。
そして、握られた拳をゆっくりとほどいていく。
開いてみると手が真っ白になっていた。
をじっと見たまま顔をほころばせると、嬉しそうに、恥ずかしそうに言う。

「……ただいま。

そのまま二人で顔を見合わせながらケラケラと笑った。
月明かりだけがさす部屋の中で、二人の声がこだまする。










昔、に言われたことがあった。

人はそれぞれ、仮面をかぶって生きている。
本当の自分はもう一人の自分の影に隠れていて、見えないんだと。

『もう一人のは、いつ目覚めるんだろうね。』

そう、は知っていたんだ。俺にはペルソナ能力があることを。
ペルソナが、もう一人の自分が、いずれ目覚めることを。

心から守りたいものができた時、自分に誓いを立てた時、ペルソナ能力は目覚める……。










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