のあと追うと、彼女は屋上に出ていた。
呆れ顔のままそっとケルベロスを撫でていた。
は開かれたドアの隙間にそっと体を滑り込ませる。

。」

と静かに呟くと、彼女の瞳がこちらを向いた。
申し訳なさそうな表情のまま、が言う。

「岳羽さんに悪いことしちゃった……。」

ケルベロスは悪びれる様子もなく、じっとを見つめていた。
同じ学校に通っていた時、ケルベロスを初めてみた時の感覚を思い出す。
がデビルサマナーだと聞かされたとき、衝撃的だった。
それでも、ケルベロスに優しく声をかける彼女は本当に可愛くて、
手放したくない存在だと思っていた。
だけどはなかなか学校に来なかった。
彼女が離れていってしまった感覚に襲われて、不安を抱いている中で決まった転校。
絶望を感じていた。
最後に彼女と会って話したかった。それすらも叶わない。

でも今は………。

そっともケルベロスの頭に手を置いた。
ふわふわの毛が、の手のひらを覆う。

「ヌゥ……お前、久しぶり。オレサマ、お前のこと気に入ってる。会いたかった……。」

「俺もだよ、ケルベロス。」

悪魔の言葉でも、は嬉しいと感じた。
しゃがんていたは立ち上がると、ケルベロスに尋ねる。

「それで、烏の使者様は何て言ってた?」

「帝都、黒い影が出る。十六代目が倒してる。オレサマ、帰りに黒い影に会った。」

荒い息を上げ、ケルベロスがの質問に答える。
の眉がひそめられた。
にはよく状況がつかめなかったが、
が名もなき神社にケルベロスをお使いに行かせたことだけ分かった。
口を挟んではいけない、そう思い黙ったままにしておいた。

「シャドウ……帝都にも出始めたようだな。」

突然空から声がした。
二人が見上げると、一羽の烏がこちらに降りてくるところだった。
もよく知っている鳥。
が腕を差し出すと、その鳥は綺麗に彼女の腕に止まった。
少し羽ばたくと、月に照らされた黒い羽がキラリと光沢を帯びる。

ソウマ。
それがこの鳥の名前。
正しくは『蒼摩童子』。
のお目付け役で、指導係。

「ソウマ……。」

が声をそろえて彼の名を呼んだ。
ソウマは結構曲がった性格をしているので、の姿をとらえるなりこう言う。

「お前……うるさいのが消えたと思ったのにな。
……なんだ、やっとペルソナ能力に目覚めたか。
だが、まだまだひよっこだな、若造よ。」

いつもは言い返さない。言い返せば皮肉をまた言われると分かっているから。
昔からそうだった。
はソウマをケルベロスの頭に移動させた。
「ヌゥ……。」とケルベロスが声を上げるが、嫌がるわけでもない。

「ソウマ、烏の使者様に会ったの?」

「会ったも何も、お前が行かれないって言ってたから、俺もケルベロスと行って来た。
案の定、やつらも来てたさ。ゴウトにそれから十六代目もな。」

十六代目とは、今帝都の守護をしている葛葉ライドウ。そしてその目付け役のゴウト。
ソウマが烏の姿をしているなら、ゴウトは黒猫の姿をしている。
彼と似ていて、ゴウトも皮肉をよく言う皮肉屋だった。

「全く勘弁してほしい。あの事件がやっと終結したと思ったら、今度はこれだ。
未来のデビルサマナー退治の次は、シャドウ退治か?
まぁ、若造も含めてこんだけペルソナ使いが集まってるんだ。すぐ終わるだろうがな。」

ふん……とソウマはを見て鼻を鳴らす。
そんな彼を、は苦笑して見ていた。
ソウマはのことを「若造、若造」と言うわりには、
と話すときは実に楽しそうにしていることを知っていた。
もソウマのことは嫌っていない様子。

「そっか。やっぱり帝都でもシャドウが出てるんだ……。」

「……帝都にも……?じゃあ帝都のシャドウは誰が?」

彼女の言葉に、素早くが反応を示す。
はすぐに理解した。
がケルベロスを名もなき神社に向かわせたのは、この情報を手に入れるためだったことに。

やはり、シャドウが出ているのはここだけじゃなかった。
帝都にも出ている……。唇をかみ締める。
分かっていた。今のままじゃ、いつか色んなところで被害が出てくることを。

の苦しそうな表情を見て、そっとが手をつなぐ。
ソウマは呆れたようにくちばしでをこずいた。

「帝都のシャドウは、ゴウトと十六代目が始末してくれてよう。
それよりそんなに苦しそうな顔をするのなら、と仲間を連れてタルタロスに行くがいい。
今は力をつけることが得策だろう、若造よ。」

彼はそういうと、ケルベロスの頭から飛び去った。
ソウマを見送ったは、細い管をベルトから引き抜くと、
ケルベロスに礼を言って悪魔を帰還させた。
と手をつないだまま。

ふいに、違和感を二人は感じる。
空を見上げると月が元の月の色に戻っていた。
下からは車の音や人の話し声が聞こえた。

「影時間、終わったみたい……。今のこと、美鶴さんに報告しなくちゃ……。」

が小さく唇を動かした。
それに頷く
二人は手をつないだままの状態で、その場に立ち尽くしていた。











、俺は強くなれると思う……?人を守ることができるようになる?」

それは、彼の突然の質問。
私は言葉をかみ締めるように答える。

「なれるよ。きっと。」

同時に握る手に力をこめた。







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