は2年F組に編入した。
例によって、クラスの男子がざわっと騒いだ。
は地味だが、の後ろに座る順平曰く、清純で結構レベルは高いそうだ。
そういえば前の学校でも密かにに憧れる生徒は多かったな……は一人苦笑した。

そんなの苦笑に気付いたのは、彼の前に座るゆかりだった。

「んじゃあ〜……そうねさん、君の隣空いてるからそこに座って。」

鳥海先生の言葉には小さく頷き、あいているの隣の席へと座った。
こっそりゆかりは聞き耳を立てた。

「……部屋も隣なのに席も隣なんてね。またよろしく、。」

「そうだな、よろしく。」

普段と違って、彼女としゃべる時だけ和らぐ彼の雰囲気。
ぎりっとゆかりは唇をかむ。

君……。』

声には出さないが、小さく名前を口にした。
、あなたに君を渡したくない。
そう思うゆかりは気付いてしまった。
自分が彼の隣で微笑むに嫉妬していることを。
に敵意を向けていることを……。











ゆかりは車の行き来が激しい道を、巌戸台の寮へと向かって歩いていた。
が編入してきてから、かなりの時間がたった。
今では山岸風花というペルソナ使いも仲間になり、相変わらずあわただしい日を過ごしている。

いつもだが、特に今日一日はゆかりの意識は後ろに座る二人に注がれていた。
数学の授業では楽しそうにお互い教えあってるし、お昼ごはんは屋上で二人で食べていた。
そっと順平と一緒に偵察してみれば、二人は種類が違うパンを半分ずつにして交換しているし……。
小さくゆかりはため息をついた。

すごい地味なのに、彼女はクラスでも目立っている。
髪は染めた様子もないただの真っ黒なのに、サラサラなストレートなのでみんなは口々に言う。

さんって、髪の毛サラサラしてて綺麗よねぇ……。羨ましいなぁ。」

君も実はそこに惚れてるとか?」

「でもショックだなぁ〜。今まで女子には興味ないような様子だった君が、最近はさんにべったりだし。」

「なんか君とさんって、転校する前の学校が一緒だったらしいよ。」

「あーそうそう!!!それで二人は前の学校で付き合ってたとかいう噂よ?」

「えー!!!そうなのっ!?私君のファンクラブ入ってるのにそれショックーっ……。」

そして同時にこういう噂が飛び交うのだった。

タルタロスでもはレベルが高かった。
メンバーの誰よりもはるかに高いレベルのペルソナを召喚し、
と同様に様々なペルソナを使いこなすワイルドの力を持っている。
さらに悪魔も使役可能。美鶴や真田の彼女に対する期待も高い。
何よりは、とても頭のいい戦い方をしてみんなのリスクを減らしている。

『悔しい………。』

「あ、ゆかりちゃんおかえりなさい。」

気付いたときには、寮へと帰りついていた。
パソコンとにらめっこしていた風花がいち早く気付く。
居間では美鶴とがくつろいでいた。
しかも、が大きいソファーに隣同士。
ゆかりは眉をひそめた。

「岳羽、おかえり。」

「おかえり。」

「岳羽さんお帰りなさい。」

三人もそれぞれ風花に続いて彼女の名前を呼んだ。
最後の人物にかけられた言葉に、意味もなくゆかりはイラついた。
君の隣に座るあなたには、言ってもらいたくない……。

「それで、今日もタルタロスに行くのか?」

「……一応その方向で考えてます。少しでも力をつけたいので。もちろん、も来るよな?」

「うん、かまわないよ。風花ちゃんは大丈夫?」

の隣に座っていたが、目の前の風花に小さく首を傾けてたずねる。
風花とは少し雰囲気が似てるせいか、二人は特に仲良くなった。
まるで親友という感じ。

「私は大丈夫。……というか、私が行かないとサポートする人がいないよ?」

「それもそうだよね。あ、岳羽さんは?」

の大きめの目が、こちらを向く。
正直ゆかりは乗る気ではなかった。しかしを二人にしたくないという気持ちもあって、
すかさずゆかりは言ってしまった。

「今夜も私は大丈夫だよ。一緒に戦うよ君。」

でなくに話かけたのは、ゆかりがに嫉妬しているから。
ただそれだけのこと。

「ああ、じゃあ今夜もよろしく頼む。」

何気ない一言だったが、ゆかりを舞い上がらせるには十分な言葉。
彼女は頼りにされてることが少し嬉しくて、軽い足取りで階段を駆け上がっていった。


「岳羽は元気だな。
、戦いに復帰してだいぶ経つが、もう慣れてきたか?」

美鶴が今まで読んでいた本を閉じ、そばに座るに話しかけた。
やはり昔一緒に戦ってたこともあって、と美鶴も仲がよかった。
はたから見ていれば、まるで姉と妹のよう……。

「はい、だいぶ感覚が戻ってきました。それにみんな親切ですし。」

「そうか、それはよかった。私もキミがいて心強い。
だけど帝都のほうのシャドウを、
十六代目が倒してくれているということを知ってはいるが、やはり心配だ。
も帝都のほうが気になるのだったら、向こうを手伝うといい。」

ふっと美鶴は微笑んだ。
彼女の言葉に一瞬は戸惑った。
確かに帝都のほうも心配だ。ライドウ自身に力があり、ゴウトがついているとはいえ、
十六代目の葛葉ライドウはまだ任についたばっかり。
それに向こうには彼女がお世話になった人物がたくさんいる。

鳴海探偵事務所の鳴海氏。

帝都新報のタエさん。

海軍所属の定吉さんに、金王屋の主人。

竜宮のおかみさん……。深川の佐竹さんも。

全て先日の戦いでお世話になった人物だった。
彼らが突然現れたシャドウにいつ襲われるかも分からない。
はそっと唇を噛んだ。
そんな彼女を見て、が風花と美鶴には分からないようにの手を握った。
まるで離れたくないといっているように。
も二人には分からないようにの手を握り返した。

「……確かに帝都のほうも心配です。
でも十六代目は強い。それにまず原因を討たない限り、何の解決にはならないと考えてますから。」

つまり、帝都には戻らないということ。
ここに残ってや美鶴たちと共に戦うということ。
がかすかに安心したような表情を浮かべたことに美鶴は気付いた。

『あぁ、なるほど……。』

心の中で納得する。

原因のほうをつきとめなければならないというのは、本当にそう思ってるのだろう。
だけどそれだけじゃない。
きっと一番自身にとって大きなことは、を守ること。
多分それだろう……。
その反対にも、を守るために力をつけようとしている。
だから最近タルタロスによく行くのだろう……。

美鶴の中で、全てのことがつながった。

『二人とも若いな……。』

そっと微笑みながら目を閉じると、彼女はに言った。

「そうか。では引き続き、私達の力になってくれ、。」

「はい、喜んで。」






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