薄暗い道を数人が走っていく。
それぞれの手には武器が握られており、みんな真剣な顔をしていた。
「皆さん、上の階で敵が待ち構えています。」
大きな階段の前に来たとき、サポート役である風花が言った。
ここはタルタロス。月光館学園の夜の姿。
選ばれしものだけが入ることを許された不思議な空間。
風花の言葉で、みんなの空気に緊張が走った。
「……よし、行こう。」
沈黙を破って、このパーティーのリーダーであるが先に階段を登り始めた。
他のメンバーである真田、美鶴、ゆかり、順平ともそれに続いた。
と、その時……。
「……あ、待ってください!!!何か反応がっ……!!!」
「えっ……?」
風花の言葉より早く、まばゆい光がたちを飲み込む。
みんなは白い光に耐えられず、目を閉じた。
が目を開けた時、そこは暗いままのタルタロスの空間だった。
自分の傍らにいるのは、いまだぎゅっと固く目を閉じているゆかりだけ。
他のメンバーは誰もいなかった。
「岳羽さん……。」
の声でゆかりはそっと目を開け、周りを見渡した。
「え?どういうこと?みんなは……!?ふ、風花!?」
いつも風花とやりとりしている無線からは、ザァーっと虚しい音が聞こえてくるだけ。
小さくは息を吐くと、ゆかりにつぶやいた。
「多分、みんなとはぐれてタルタロスの別の場所へと飛ばされたのかもしれない……。」
「そんな……!!!じゃあ風花と通信がつながらないのは?」
「……分からない。とにかく先にたちを探そう?
もしかしたら近くにいるかもしれないし、別の場所に行けば、
ふーちゃんとも連絡がつくかも……。」
そう言って、が自分の武器である日本刀を握りなおした。
そのままスタスタと歩いていく。その瞬間、ゆかりの心を闇が支配する。
『よりによって、どうしてさんと二人っきりなのよ……。』
背中で揺れる、彼女の長い髪を見つめたまま、その場に立ち尽くす。
知らずに表情が険しくなっていた。
「岳羽……さん?」
あとをついてこないゆかりに気付いて、
は不思議そうに振り返って首をかしげた。
『あなたがその仕草をすると、
君はいつも目を細めて微笑んでる……。』
ゆかりはが来てから、ずっと二人を観察していた。
の仕草一つ一つをいとおしそうに見つめていた。
特にの首をかしげる仕草は、のお気に入りのようだった。
「どうしたの岳羽さん。どこか痛むの?」
がゆかりに近づいてくる。
肩に手が触れそうになった時、ゆかりは俯いたまま、小さく言った。
「……なんであなたなの?」
「え……?」
ゆかりの肩に触れそうになっていた手を、ぴたりと止める。
にはゆかりの言っている意味が分からなかった。
それにイラだったゆかりが、きつい目をして顔を上げた。
二人の目線がぶつかる。
さらに声を荒げるゆかり。
「どうして君の隣にいるのはあなたなの!?
君だって、口を開けばいつだってあなたの名前ばっかり……!!!」
「岳羽さ……ん?何のことなのか……」
「……どうしようもなく、彼が好きなの。
あなたさえ来なければ、私は幸せだったのに。
君と一緒に過ごせることが何よりの幸せだった。
だけどあなたが来てから、彼は遠い存在の人間になった……。
みんな私の大切なものを奪っていく。
父さん……幸せだった家族……次にあなたが君を奪った。
次は何を私から奪うっていうのよっ!!!!」
突然のゆかりの言葉に、はただ呆然としているしかなかった。
彼女の中で、ゆかりの言葉がぐるぐる回っている。
『どうしようもなく、彼が好きなの。』
知らなかった。
ゆかりがをそんな風に見ていたなんて。
「あの……とはただ……」
の言葉に、ゆかりの言葉が重なる。
それは、ひどく低くて冷たい声だった。
「………帰ってよ。」
「……!!!」
「帰ってって言ってるの。帝都に早く帰ってよ!!!
これ以上、私の幸せを壊さないでっ!!!」
鋭い叫び声をあげたゆかりは、そのままの横をすり抜けて走っていった。
一瞬、ふわりとゆかりの甘い香水の香りがの鼻をくすぐった。
「好き……か。」
ゆかりが去ってから、数分何も考えられなかった。
今やっと、思考が動き出した。
ゆかりはのことが好き。
……じゃあ私はどうなんだろう。
それにさっき、私は何を言いかけた?
とはただ……
友達なだけ?
でも、何か違うような気がする。
は……私の大切な人。
私もが……好き?
はプルプルと自分の頭を振る。
今はそんなこと考えてる時間じゃない。
とにかく、はゆかりが向かった方向へと走り出した。
ベルトに手を伸ばすと、細い管に手が当たる。
一本引き抜くと、低い声でつぶやいた。
「……召喚、ケルベロス。お願い、岳羽さんを探して……!!!」