アッシュフォード学園の生徒会室ではニュースが流れている。
みな昼食を片手にそのニュースを見ていた。テレビには道路に停車したトラックとキャスターが映っている。
キャスターはまくし立てるように状況を報告していた。事件はこうだ。
ブリタニア軍が護送していたものが、何者かによって盗まれてしまったそうだ。
それも、一瞬の隙に………。何を運んでいたかは分からない。ブリタニア軍が発表しないのだ。
けれども危険なものではないらしい………。ズズっと音を立ててルルーシュは紙パックのジュースを飲み干す。
リヴァルがパンをかじりながら呟く。
「何か危険な匂いがするなぁ〜。一体何を運んでたんだろう。な、ルルーシュ。」
ふいに彼がルルーシュのほうを向いたので、ルルーシュは興味なさそうに言って立ち上がる。
「ブリタニアがそんなに慌ててないってことは、たいしたものを運んでたんじゃないだろう。
だいたい、スザクがここにいるんだ。危険なものだったら、スザクも軍に呼ばれているさ。」
ちらりとルルーシュはスザクを見た。「そうだね。」とスザクも言葉を返す。
その言葉を聞いたあと、ルルーシュは自分の鞄を手に持ってドアへと向かう。
「兄さん、どこに行くの?」
「今日はもう帰る。昨日ミレイ会長が仕事を持ってきたせいで寝不足なんだ。
家で寝るよ。ロロ、お前はちゃんと授業受けるんだぞ。」
ルルーシュはミレイを見たあと、ドアノブに手をかけた。
「ごめんねー」と謝るミレイをよそに、ルルーシュは「じゃあ」とだけ言って生徒会室をあとにした。
ちゃんと授業出ないとダメなのに………そう思いながらもスザクは何も言わなかった。
彼の成績は昔と変わらずトップクラスなのだから。
生徒会室を出て、ルルーシュは同じ敷地内の自宅へと帰る。
記憶を失う前、ナナリーと過ごした大切な家。今はロロと住んでいるけれど………。
ルルーシュはドアの鍵を開け、家に入る。そのまま階段をのぼって、自室のドアを開けた。
その時は、何の疑いもなかった。しかし、自分の部屋のベッドを見たとたん、彼はドアを激しく閉めた。
なぜなら、ベッドの上に人がいたからだ。
ルルーシュのワイシャツを着て、髪の長い少女がちょこんと座っていた。一瞬C.C.かと思った。
だけど違う。そこにいた少女は黒髪………。
「…………………。」
何も言葉が出ない。そのかわり、彼の頭の中は考えでいっぱいだった。
心臓がドクドクと大きな音をたてる。ルルーシュはもう一度、そろそろとドアを静かに開けた。
隙間から部屋の中をうかがう。座っていた少女が、じっとこちらを見ていたので、彼はその少女と目があう。
琥珀色の瞳。C.C.と同じような。雰囲気も、どこかC.C.を思わせる。
真っ白い肌によく映えている赤い唇が、小さく動いた。「誰?」と。お前こそ誰なんだ?
そう尋ねようとしたとき………。
「ルルーシュか。」
鋭い声が上がった。後ろを振り返れば黒の騎士団の格好をしたC.C.。
少し怒りを携えた顔だった。ルルーシュはC.C.の肩を掴み、眉間にしわをよせながら怒鳴る。
「おいC.C.!!!アイツは誰だ!?どうしてここにつれてきた!?説明しろっ!!!」
「怒鳴るな!!!が泣き出す!!!あの子は人の感情に敏感で、しかもまだ不安定なんだっ!!!」
C.C.がそう言うのと同時にルルーシュの部屋から泣き声が聞こえた。
その声を聞いたとたん、C.C.は顔色を変える。ルルーシュを突き飛ばし、部屋の中に入っていった。
ルルーシュが抗議の声を上げるがC.C.はお構いなし。
舌打ちしつつ、彼が部屋を覗き込むとC.C.はいつも見せないような穏やかな顔をして少女を抱きしめていた。
それはどこか慈悲に満ちていて、まるで聖母のよう。
「…………C.C.、リビングで待ってる。手が空いたら来い。」
ルルーシュはそれだけ言い残し、一階へとおりた。
リビングに入ると彼は上着を脱ぎ捨て、紅茶を入れる。まずは冷静になることだ。
紅茶を入れ終わるころ、トントンという音がして部屋の中にC.C.が入ってくる。
横目でじろりと睨みつけながらイスに腰をかける。C.C.もソファに座った。
「で、アイツは何なんだ…………。」
ため息をつきながらC.C.に答えを求める。彼女はじっとルルーシュを見て言った。
「ニュース、見たか?
先ほど起こったブリタニア軍の護送車が襲われたっていうニュースだ。あれは私がやった………。
かなりうまくやったから、ブリタニア軍には黒の騎士団だということがばれてない。」
「ぶっ…………!!!」
ルルーシュはC.C.の返答を聞いて飲んでいた紅茶を吹き出した。
激しく咳き込みながら怒りの声を上げる。しかし当の本人は涼しい顔をしている。
唸り声を上げてルルーシュはC.C.をにらみつけた。
「お前っ………どうしてそうお前は自分勝手なんだ!?それで、一体何を盗んだ!!!」
「そう怒るな。私にはそれがどうしても必要なものだったんだ。盗んだものなら、お前だってもう知っている。
そう………彼女だ。お前のベッドの上に座ってた少女、あれを盗んだ。」
「な、に?だけどアレは人間だろ?ブリタニア軍はどうしてあんなものを…………。まさかっ!!!」
ルルーシュはカップを乱暴にテーブルの上に置いた。
思い出したことがある。1年前、ブリタニア軍とテロリストが戦う中で出会った少女。
その少女はカプセルに入れられて護送されている途中だった。目の前にいる少女、C.C.。
それは毒ガスと偽られ、その中に少女が入っていることは誰も知らなかった。軍にいたスザクでさえ。
今、目の前にいるC.C.が小さく頷いた。
「そうだ。お前の考えている通りだよ。は私と同じようにカプセルに入れられて護送されていた。
それは彼女が私と同じように特別な存在だから。いや……………私とは少し違うな。
彼女は…………私の分身であり、私の子どもだ。」
C.C.の瞳は真剣に語っていた。そういえば、あの少女はどこか、雰囲気がC.C.に似ている。
分身とはどういうことだ?子どもとは、どういうことだ?
眉をひそめてルルーシュは考える。正直、急な話で頭がついていってない気さえする。
「C.C.、意味が分からない。もっと分かるように話してくれ。」
ルルーシュがそういうと、C.C.は立ち上がって紅茶を入れた。
その紅茶を一口口に含むと、C.C.は話し出した。少し、長くなるかもしれないと呟きながら………。
#1
黒髪の少女
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