が来て、数週間がたった。
前みたいにが発作を起こすことも少なくなり、彼女はだんだんとランペルージ家に溶け込み始めた。
「、スープが残ってるぞ。」
ルルーシュは斜め横に座る彼女を見た。
しかしはフォークをくわえたまま、ぼうっとテレビを眺めているだけ。
彼女にとって、テレビとは不思議なものらしい。
この前からは何度もテレビの裏を覗き込んだり、画面に手を突っ込もうとしたりしている。
今だって多分、彼女なりに一生懸命考えているのだろう。映像が切り替わる理由を……。
ルルーシュはため息をついてのスープを手にとった。
スプーンで適量すくうと、に声をかける。
「ほら。口を開けろ。」
しかし、は気付いてないのか何も反応しなかった。
ルルーシュが強めに「!!!」と言った瞬間、の向かい側に座っていたロロが席を立った。
「兄さん、それじゃだめだよ。」
「ロロ……?」
立ち上がったロロを見て、彼が疑問の声を上げた。
少しロロは苦笑すると、ルルーシュからスープの器を受けとる。
に器を見せながらスプーンでスープをすくうと、彼女の視線はテレビからスープに向いた。
「ほら、の好きなコーンスープだよ。口開けて。あーんだよ、あーん。」
優しくロロがそう言えば、は素直に口をあけた。
そこにスープを流し込む。
ゴクンと飲み込んだは、ロロの持っている器に手を伸ばした。
「スープ。コーンスープ。」
「はいはい。どうぞ、。」
ロロが彼女に器を返すと、ゆっくりスープを飲み始めた。
このやりとりを見ていたC.C.が、フッと笑った。
「ロロはの扱いがうまいな。
最初はと暮らすことを嫌がってたくせに、今ではすっかりの世話役だな。」
「やめてくださいよ。
の扱いがうまいのは、兄さんがの面倒を見てるのを、
僕がいつも観察しているからですよ。
それに……僕にとっては、なんだか妹みたいな感じなんです……。」
そこで少し、ロロが赤くなった。
そうか、ロロにとって人の面倒を見るのは初めての経験か……。
ルルーシュはそう思う。そのままに視線を移動させた。
彼女は今、懸命にスープを飲んでいる。音をたてないこと。
これを守ってくれているおかげか、スプーンの握り方は違っても、スープを飲むときは静かだ。
「なぁルルーシュ。明日、ロロと買い物に行くんだろ?
ならついでに、も連れて行って服を買ってきてほしいんだが。」
食事を終えたC.C.がカップを手に彼を見つめる。ルルーシュはギョッとなった。
パンをちぎる手を止めると、C.C.を見つめる。
「を連れて?……本気で言ってるのか?C.C.。」
「本気も何も……一生ここに閉じ込めておくわけにはいかないだろう?
少しずつにも、この世界のことを教えていかなければな。
話を聞かせるより、見せたほうが早い。百聞は一見にしかず……だ。」
そう言いながら彼女はルルーシュがちぎったパンを、ひときれ手に取る。
そのまま隣に座るの口に放り込んだ。
モグモグと口を動かしながら、ルルーシュとC.C.の顔を交互に見る。
何か自分に関する話をしていることには気付いているのだろう。
「そうやって荒治療していくわけか。」
「どうとでも言うがいいさ。
、明日はルルーシュたちと外の世界を見てくるがいい。」
「そ、と?」
不思議そうな顔をしていたが、ぐるっとみんなの顔を見回すと、元気よく頷いた。
「そと!!!そと!!!」
日焼け止めを塗られたあと、は外へと飛び出した。
「おい!!!待て!!!」とルルーシュが慌てて手を伸ばすが、
彼女はスルリとルルーシュの手をすり抜けた。
「兄さん、僕がについてるから!!!」
ロロはすぐにの帽子をひっつかむと、彼女を追いかけた。
外に出れば、は走り回ったり、木や花に触れて笑い声を上げていた。
(そうか。にとって、初めて見るものばっかりなんだな……。)
今日は幸いにも休日で、学校は静かだった。
クルクル回っている彼女の頭に帽子をかぶせると、にこっと笑う。
「すまない、今行く。」
ルルーシュが家から出てきて、ドアに鍵をかけた。
こちらにやって来ると、はルルーシュの手を握る。
「お……おい……!!!」
こういうことに慣れてないルルーシュは、顔を真っ赤にさせた。
しかし相手はだ。恋愛感情なんかで握っているのではないだろう。
よく見ると、もう片方はロロと繋がれている。
「ちょっとだけ、怖い……んじゃないかな。初めて見るものばっかりだし……。」
ロロが苦笑した。その顔は、ルルーシュと同じように少し赤い。
に視線を移すと、琥珀の瞳はしっかり前を向いていた。
それから街へとやってくる。人が多くなるにつれ、の握る手に力がこもった。
一番心配だったのが、緊張による発作が起きないかどうか。
チラリとルルーシュが彼女を見た瞬間、の手が離れた。
「っ!?」
振り返りもせず、は近くにあったショーウィンドーの中を覗き込んでいる。
二人が彼女の後ろから中を覗き込んだ。女の子が好きそうな服が飾られていた。
レースたっぷりの、どこかのお嬢様が着てそうな服。
そういえばこんな服、幼少時代のナナリーやユフィが着ていたなぁ……と、
ルルーシュはぼぅっと考えていた。
ふと、瞳をに向ければ、彼女がルルーシュを見ている。
「、欲しいのか?」
一瞬は考えたあと、ブンブン首を横に振る。
「え、どうして?今日はの服も買いに来たんだよ?」
ロロがそう尋ねると、彼女は瞳を伏せて答えた。
「ルルーシュ、これ見た。悲しそうな顔した。」
あぁ、さっき、ナナリーやユフィのことを考えたからか……。ルルーシュはそう思う。
優しくの肩に手を置き、笑った。
「ちょっと思い出したことがあっただけだ。
がいるから悲しくはないさ。それよりも、欲しいんだろ?」
どことなく歯切れが悪そうだが、は正直に頷く。
ポンポンと頭を撫でると、ルルーシュは手をとって店の中に入った。
小さいお店で、他に客はいない。
飾ってあった服と同じデザインのものを手に取ると、ルルーシュはにそれを渡した。
「ほら、着てみろ。」
優しくそう言えば、は服を持って試着室に消えていく。
「……思考が読み取れるっていうのも、不便なものだな。」
「え……?」
「いいや、何でもないさ。」
ロロとそういうやりとりをしていれば、がおずおずと試着室から出てくる。
スカートをギュッと握ったまま、下を向いていた。
恥ずかしがっている……。なんとなくそれが分かって、ロロはにっこり笑う。
ルルーシュもニヤリと笑ったあと、一言、「お買い上げだな」と呟いた。
そんな時、彼らの後ろから声が上がる。
「まぁっ!!!なんて可愛い子なのっ!?うちの服とイメージがピッタリね!!!」
ビクッと3人が肩をすくめた瞬間、体格のいいおばさんが、
ルルーシュとロロを押し退けての肩を掴んだ。
「肌も白いし、髪も綺麗。お顔だってまるで人形さんみたいね!!!
あらあらあら〜、どうしましょう。こんな子探していたのよぉ〜!!!」
スリスリと、おばさんがに頬擦りした瞬間、は弱々しい声を上げた。
「ルルーシュぅ〜っ!!!ロロぉーっ!!!」
ルルーシュは不安そうな顔をするの腕を掴み、背中に隠す。そのまま叫んだ。
「な、何するんですかウチのに!!!あんたは誰だ!?」
アメジストの瞳が、いつになく鋭い。
彼の怒りに合わせて、が後ろからギュウっとルルーシュの服を掴んでいる。
目の前のおばさんはじっくりルルーシュを見つめたあと、にっこり笑って言った。
「私はね、ここの店主のバーネットよ。」
その笑顔はとても人好きするようなもので、ルルーシュやロロは肩の力を抜いた。
も目をパチクリさせながら、ルルーシュの背中ごしに彼女を見ているのだった。
初めての、外の世界
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