「その……店主のバーネットさんが、に一体何の用なんですか……?」

肩の力は抜けたものの、疑惑の眼差しは向けられたまま。
ルルーシュのその眼差しを何とも思ってないのか、バーネットはニコニコしたまま言う。

「だーかーらー、モデルよモデル!!!
この前からウチのお店のモデルになってくれる子を探してるんだけどね、
いい子が見つからないのよ。見つかっても、みんな嫌がるわけ。
自慢できないけど、ウチのお店は小さいし、しがない洋服屋だからねぇ……。」

そのあと、困ったように眉を下げる。ロロは胸に当てていた手を下ろした。
何かあった時は、ギアスを使おうと考えていた。
しかし、悪い人ではなさそうだ。
バーネットは、本当に困った時の顔をしている。

「それで何なんですか……?」

ルルーシュが話の先を促すと、彼女の顔がパッと輝いた。

「それで、その子がウチのモデルになってくれないかしらって思ってるのよ♪
高くはないけど、それなりにモデル料は出すし、ウチのお店の服を、安くで譲るわ!!!」

「しかしは……」

「大丈夫だって!!!名前も明かさないし、個人情報は守るわよ。」

パチンとバーネットがウィンクする。
ロロはちらちらルルーシュを見ていた。
「どうするの?兄さん。」……そう目が尋ねている。
もちろんそんなの、断るに決まってるだろと、ロロに目で伝えた。
彼が口を開きかけた時、後ろにいたはずのが目の前へ出てくる。
そのままじぃっと、バーネットを見つめる。数分後、は笑って彼女の手を取った。

っ!?」

お前っ!!!」

「まぁ!!!引き受けてくれるの!?助かるわっ!!!」

3人の声が一斉に重なった。
ルルーシュやロロが引きとめる間もなく、はバーネットに店の奥へと押し込まれていく。

「おいっ!!!ちょっと待ってく……」

「大丈夫よ。約束はちゃぁーんと守るから!!!」

バーネットが笑顔でそう言い残し、男二人は店の中に取り残された。
ルルーシュは大きくため息をつくと、そばにあった椅子に座る。
額に手を当てて目を閉じ、真剣に何かを考えていた。

「兄さん、本当に大丈夫かな。ブリタニアにのことがバレたら……」

「今、俺もそれを考えている。
確かにこんな小さい店だったら、大丈夫かもしれないが……もしもっていう時があるしな。
全く、は何を考えているんだ。自分がどんなに危うい存在なのか分かってない……。」

「仕方ないよ兄さん。はまだ、精神的に子供なんでしょ?……って……あ。」

何かに気付いたように、ロロは声を上げる。
ルルーシュは瞳だけを動かして彼を見た。

「どうした?ロロ。」

「バーネットさんに、の精神がまだ子供だっていうことを言い忘れたな……と。」

そこで苦笑する。
ルルーシュはぼんやり前を向いて小さく返した。「大丈夫だろ?」と。
バーネットのあの性格なら、おそらくが子供であっても大丈夫だと思えた。
だって、初対面なはずなのに、他人に不信感を抱かなかった。
もしかしたら彼女は、バーネットに対して何かを感じたのかもしれない。
何せ彼女は、他人の心を覗けるのだから……。











数時間後、バタバタ音がして、が店の奥から出てきた。
「ルルーシュ!!!」と笑顔で飛びついてくる彼女を見て、ルルーシュはの頭を撫でてやった。
すぐバーネットも姿を現した。怖いくらい、満面の笑みだ。
手には紙袋が握られている。それを押し付けるようにルルーシュに渡した。

「ふふふ、この子のおかげで何とかなりそうだわ。
お礼と言っちゃなんだけど、今回撮影で使った服、タダで譲るわ。
あと、中にモデル料が入ってるからヨロシクね。」

そう言うバーネットに、なんて言葉を返していいか分からなかった。
ルルーシュが目を見開いていると、バーネットが小さく呟いた。

「私ね、本当にこの子には感謝しているのよ。モデルのこともだけど、他にも……。」

「え……?」

ルルーシュとロロの声が重なり、同時に彼女を見た。
さっきとは違って、どこか安らかな表情。
バーネットはの頭を撫でながら言った。

「似ているのよ。この子と私の娘が。
私の娘はね、7歳になったばかりの年、事故で死んだの。
私の夫と一緒に……ね。私が服を作り始めたのはそれから。
娘が着るはずのなかった服を作っては、誰かに着てもらって、その姿を娘と重ねているの。
ちゃん……だったわね。娘の生き写しのように……似てるわ。」

は気持ち良さそうに瞳を閉じている。
彼女を見るバーネットは、母親の顔をしていた。
ルルーシュはそんなバーネットを見ながら、
が今回のことを引き受けた理由がなんとなく分かった。
それはロロも同じ……。

「……個人情報をバラさなければ、この先もモデルを引き受けてもいいですよ。
もあなたのことを、気に入ってるようですし……。」

突然の言葉に、バーネットは耳を疑う。
ルルーシュを見たあと、彼の言ったことを理解して顔をほころばせた。
も少し背の高いルルーシュを見上げたあと、彼に寄り添う。
まるで「ありがとう」と言っているようだった……。

連絡先を交換し、紙袋を抱えて店を出る。
そのままにぐいぐい手を引っ張られながら歩いていくと、着いたのは海沿いの公園だった。
この街の地形も知らないがなぜ、この場所にたどり着けたのか……。
答えは海の匂いだった。
視覚や聴覚、嗅覚が人よりも発達しているは、海の香りをたどってここに着いたのだ。
海を見てはしゃぐ

「そっか。は水が好きだったね。」

呟くようにロロが言う。
体はルルーシュやロロと同じくらい大人なのに、精神だけが子供のまま……。
海を見てはしゃいでいたは今度、そばにあった遊具で遊び出す。
ルルーシュはから目を離さないようにして、ベンチに腰を下ろした。
隣にはロロが座る。

「……、バーネットさんの娘さんのこと、分かってて引き受けたんだね。」

「ああ。は心が読める。瞬時に理解したんだろう。
彼女の悲しさってやつを……。あいつはここ数週間で驚くほど成長している気がする。」

「うん、僕もそう思うよ。さすがにまだ、言葉は話せないみたいだけど……。
それに、まだまだ子供みたいだしね……。」

「感情を理解するようになっただけでも大したもんさ。」

にっこりとルルーシュが笑ってロロに顔を向けた。
「いや、あれ……」とロロは視線をそらしたあと、遊具のほうを指さす。
ルルーシュがその方向を見れば、小さい男の子と滑り台の取り合いをしているがいた。

「なんだよー。お姉ちゃん大人のくせにムキになってーっ!!!」

「むぅっ……!!!」

は怒りをあらわにして、男の子を睨んでいる。
滑り台をとられたのが悔しいのか、少し涙ぐんでいた。
ハァとため息をついたルルーシュは、立ち上がってへと歩いていく。

。ほら、もうそろそろ帰るぞ!!!」

そう言えば、彼女は首をふって「イヤっ!!!」と叫んだ。

「イヤじゃない!!!帰って晩飯の支度もしなきゃいけないんだ。
C.C.だって、家でお前を待ってる。だから……」

「やだぁーっ!!!」

は滑り台を飛び出して、泣きながら走っていく。
その姿を驚いたまま見ているルルーシュ。
ハッと我に帰った時には、もう彼女の姿は遠くに見えていて……。
異変に気付いたロロが慌ててを追いかけるが、彼女はその後、フッと姿を消してしまった。

「……兄さんっ!?がっ!!!」

「まさか……テレポーテーションっ!?」

以前C.C.に、がその能力を有してることを聞かされたことがあった。
しかしはまだ幼すぎて、その力を使うことは出来ない……C.C.はそう説明してくれた。
それなのに……は飛んだ。どこか別の場所へ。

(……。もしかして、無意識に?)

ルルーシュの背中に嫌な汗が生まれる。
もしも飛んだ先が、とても危険な場所だったら?
どこか遠いとこだったら?
ルルーシュの知らないどこかだったら?
一気に不安が生まれて、ルルーシュはすぐに走った。
彼の豹変ぶりを見て、ロロも事の重大さを理解する。
血の気が引いていくのを、ロロは感じた。
気付けば彼は、ルルーシュが走った反対のほうへと足を向ける。

「兄さんっ!!!僕はあっちを探す!!!」

「分かった!!!俺は向こうを!!!」

ベンチに置いたままだった荷物を取って、ルルーシュは海岸のほうへ向かった。
の無事を祈りながら……。


















Back