暑い……………。 僕は寝ていたベッドから起き出して窓を全開にする。 季節は夏。7月だった。 窓から空を見上げると、一つも雲がなく、星が綺麗に見える。 天を流れる星の川。天の川。 織姫と彦星は一年に一回出会える。7月7日はもうすぎた。 時計を見るともうそろそろ夜中の0時。 電気はつけていないけれど、月の光でぼんやりと部屋が明るかった。 今日は7月9日。だけどあと30秒ほどで7月10日を迎えるんだ。 僕にとって特別な日。 僕がこの世に生を受けた日。 一年前は生徒会のみんなとか、ユフィ、親友のルルーシュが祝ってくれた。 でももう、そんな日は来ないんだね…………。 力なく笑う僕。 そうさ、一年前に起こったブラックリベリオン事件でユフィが死んだ。 そして親友のルルーシュをも………失った。 違う、僕が………売った。ブリタニア皇帝に。 彼を売れば僕はナイト・オブ・ラウンズという地位がもらえたから………。 空を仰ぎ見れば、月と星のコラボレーション。 いや違う…………。月が明るすぎて星の光を消している。 まるで僕とルルーシュみたいだった。 お互いの存在を消しあい、そして月は僕………。 ポーン………と0時になったことを時計が告げた。 7月10日。ハッピーバースデー。僕が生まれた日。 だけど祝ってくれる人はここにはいない。過去はもう、戻らない。 きびすを返し、ベッドに戻ろうとする僕に、何か優しい音色が聞こえた。 開け放した窓の少し向こうから、とても澄んだ音色が聞こえる。 瞳を向ければ庭園の休憩所になっているところでなびく長い髪が見えた。 僕を呼んでいる………。 行かなきゃ!!! 根拠はなかったけど、どうしてもその音色が忘れられなくて。 僕は半ズボンとTシャツのまま外へと駆け出した。 「Silent night, Holy night, All is calm all is bright Round yon Virgin Mother and Child Holyinfant so tender and mild…………」 僕がそこに行くと、一人の少女がヴァイオリンを弾きながら目を閉じて歌っていた。 知らない子。見たことない子。 だけどとっても心が惹かれる…………。 月明かりに照らされているせいで、より神秘的に見えてしまう。 まるで天使の御使いだった。 歌ってる曲は何故かこの時期には似合わない『聖夜』。 クリスマスに歌われる曲なのに…………。 ヴァイオリンの独特で繊細な音が長く響き、少女は弓をおろした。 目を開け、そして僕と目が合う。 その少女の綺麗な瞳に引き込まれそうで、僕は少し後ずさった。 なんとなく、怖かった。少女の純粋な目が、汚れた僕を映しているから。 首をかしげその子は問う。 「誰?」 「あっ、その、ご、ごめんっ…………。」 慌てて僕は謝った。 見ず知らずの人が歌うのをじっと見ていたから。しかも女の子。 「こんな夜中に何をしているの?」 そう問えば、不思議そうにその子は僕を見ていた。 夜中なのに、僕を怖がる風でもなく、不審に思うそぶりも見せなかった。 本当に不思議な子………。 じっと彼女の瞳を見ていると、ふいに彼女が僕に笑いかけた。 「ヴァイオリンを弾いてるの。」 「え、でも………今の曲はクリスマスの曲で、この季節には合わないけど………」 マシュマロみたいに柔らかく笑う彼女は、困ったような顔をした。 苦笑ぎみに、僕を瞳に映す。 それだけで僕は何故だか嬉しい気分になった。 「そう……だね。でも………季節に関係なく、私は毎日が聖夜だって思うのよ。」 そのまま小さく首をかしげれば、はらりと長い髪が肩から落ちる。 夜の風がその髪をすくい、そしてもてあそぶ。 さわさわと僕の髪の毛も風に揺れた。 彼女によく届くように、風に言葉を乗せる。 「どうしてそう思うの?」 「だって、この世では毎日どこかで誰かが生まれているのよ。 今日だって、きっと誰かしらが生まれた日。だから毎日が聖なる夜。 人が生まれる神聖な………夜なのよ。」 僕の胸に、彼女の言っている言葉がしみこんでくる。 毎日人が生まれる夜。聖なる夜。考えたこともなかった。 人にとって、この世に生まれてくるのは当たり前になっている。 だけど生まれることは本当に奇跡に近いことで、生を受けるのは神聖なことなのかもしれない。 「この世に生まれた人は、誰だって聖なるものなの。」 彼女は続けていった。 柔らかな口調は僕を安心させてくれる。 僕は小さく彼女に呟いた。 「実は僕………今日生まれたんだ。今日が僕の誕生日………。」 初対面の人にこういうことを言うのはどうかと思った。 だけどどうしても言えずにはいられなくて、照れくさそうにはにかんでみせる。 彼女は目を丸くして、だけどすぐににっこり笑ってヴァイオリンを構えた。 「それはとっても素敵。 じゃあ私からあなたに一曲プレゼントさせてね。」 そいう言って弓を引く。 赤い唇を動かして歌いだす。 「Happy birthday to you, Happy birthday to you, Happy birthday, dear Suzaku, Happy birthday to you. 」 澄んだ彼女の声は、僕の心を温かくしていく。 「ありがとう」とお礼を述べれば、「どういたしまして」と言葉を返す少女。 彼女はそのままヴァイオリンを持って、駆け出した。 途中で振り返り、「おやすみなさい。」と言ったので、僕は軽く手を振った。 輝くような歌声だった。 天使の声。女神の声。忘れられなくて、ずっと耳に残っている。 こんな汚れた僕でも、まだ天使の声で祝ってもらえる資格はあるんだね………。 一年前とは違うけど、きっと今日の出来事は忘れられない出来事となる。 ふっ、と笑って僕はある事に気付いた。 Happy birthday, dear Suzaku, 彼女はどうして僕の名前を知っていたのだろう………? 「そういえば、そんなこともあったよね………。」 ケーキをはさんで僕とは顔を見合わせた。 そう、彼女と僕が初めて会ったのはちょうど僕の誕生日。 あとからが、ナイト・オブ・ナイトだったと知った。 それにしても、なんだか不思議な出会いだったなと、僕はその時のことに思いをはせる。 その時から、僕はきっとに惹かれていたんだろう。 澄んだ声と、優しいヴァイオリンの音色。 頼めばいつだって、はこれらを提供してくれる。 運よく今日は僕の誕生日。 いつもよりもわがままを言ってもいいかなぁ………? 僕は翡翠色の瞳でをとらえ、あの時のように言った。 「、今日は僕の生まれた日なんだ。今日が僕の誕生日………。」 一瞬が考えて、くすくすと笑い出す。 そして、あの時と全く同じセリフを嬉しそうに呟いた。 「それはとっても素敵。 じゃあ私からあなたに一曲プレゼントさせてね。」 フォークをお皿の上において、は置かれていたヴァイオリンケースからヴァイオリンを取り出し、 顎で固定してから弓を構えた。 赤い唇が動いて、歌を紡ぐ。それだけでもう、僕には誕生日プレゼントになるんだ。 ありがとう、……………。僕はとっても嬉しいよ。 |
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 『聖夜』はあまり関係ナッシング(をい) ただ書きたかっただけ………? back |