テレビで報道されていた山野真由美という女性が死に、 その死体を発見した八十神高校の女子生徒も死んだ。 噂ではその二人は雨の日の夜中にだけ映る『マヨナカテレビ』と呼ばれるものに映ったらしい。 2年2組のクラスはそのことで生徒みんなが噂していた。 ふと、が自分の横を見ると、どこか元気のない花村陽介が座っていた。 時折、何かを思い出し、否定するように首を小さく振る。 彼は半年前、やと同じように都会から転校してきた。 いつも明るくて、友達が沢山いるようにには見えた。 だけど少しひっかかる。 陽介の………心の影が見えそうで。 ほら、今だって。 いつもの明るい陽介とは違う。 何かに―――――――あせっている。 帰り支度をしながらぼうっと陽介を見ていると、 彼は意を決したように一度頷き席を立つ。 そのまま前に座るへと向かい、横に立って彼に言った。 「、もう一度、あの世界へ行かないか?」 その声に反応するようにと、その隣にいた里中千枝は「え?」と驚き陽介を見る。 そのやりとりが何か意味深なものを含んでいて、はそっと聞き耳を立てた。 「でも花村、あのクマがもうこの世界には来るなって………。」 「そうだけど………オレ、納得いかねぇーんだ!!! 何で小西先輩が死ななきゃいけなかったのか。 オレはあの世界が怪しいと思ってるし、絶対何か関係してると思うんだ。 なぁ頼む!!!一緒にあの世界へ行ってくれ!!!」 「……………。」 必死な陽介をは真剣な表情で見ている。 そして一度だけ深いため息をついて「分かった。」と答え、仕方なく笑った。 「ええっ!?」と悲鳴に近い声を上げる千枝をよそに、陽介の顔がぱぁっと花開き、 「じゃあジュネス家電売り場に集合な!!!」と言って教室を出て行った。 「君………なんで行くって言ったのよ!!! だってその………帰れなくなるかもしれないんだよっ!? 私………花村を絶対止めるからっ!!!」 千枝がを睨み、怒りながら泣きそうな顔で抗議する。 そのまま陽介のあとを追っていった。 「ケンカ…………?」 教室に残っていた何人かの生徒がをちらちらと見ながら話をする。 そんな中、はスッと席から立つと、鞄を抱えて前のドアから出て行った。 は帰る支度をやめたまま、彼が教室から出て行くまで、 ずっとその背中を見るだけだった。 はまだペルソナの力に目覚めていない。 ペルソナに目覚めるということは、影なるもう一人の自分と向き合うということ。 彼らの言っていた『あの世界』、そして噂される『マヨナカテレビ』。 もしかして彼らはあの場所へ行こうとしているのだろうか? 別の空間に存在し、テレビが入り口となる場所。 クマとも言っていた。 間違いない。あの場所…………テレビの中だ!!! しかしそこにはシャドウがいる。 ペルソナを持たない陽介と、まだ目覚めていないとでは危険すぎる!!! それとも彼は、困難に立たされたとき目覚めるのだろうか。 ペルソナに。 かつてのリーダーのように………。 とにかくコロマルをつれて自分もあの場所に急ごう。 は鞄を手にとり、大急ぎで家へと向かった。 ドスンと音がして、クマは世界に異変を感じた。 また誰かがこの世界に入れられたのかとうんざりし、 けれどもその人物たちが自分の場所から目と鼻の先にいることを察知して、 とりあえずその場所に向かってみる。 そこには見覚えのある人物たちがいた。 ただし、今日は三人ではなく二人だった。 「ちょっとちょっと!!!君たちまた来たクマかーっ!!!」 打った背中をさする二人の顔を見て、クマは怒る。 注意したはずだった。ここは危険だと。だからここにはもう来るなと。 だが二人は再びやってきた。 ピーンと一つの考えが浮かび、クマは怪しむかのような目つきで二人を見る。 「………ははーん、分かったクマ。 君たち二人が犯人クマね?この世界に人を放り込む犯人。 今すぐそういうことやめるクマよ!? はっきり言って、クマは迷惑してるクマ!!!」 「はぁ!?何言ってんだよこのクマ!!!俺達なわけねぇーだろ!!! そんなのこっちが知りてぇーぐらいだ!!!おいクマっ!!! お前知ってるんだろ?小西先輩がこっちの世界に来たって!!!」 「そんなの知らんクマよ。確かにこの前、こっちの世界に来た人はいたクマ。 だけどクマは霧が晴れるのが怖くて隠れてたクマ。」 「んだよ。ただの臆病者じゃねーかっ!!!」 陽介の言葉にカチンときたクマは顔を真っ赤にして言い返す。 「おおおおおお臆病者って何クマ!? 君は分かってないクマ!!!シャドウがどんな危険なものか!!! 霧が晴れた日はシャドウが凶暴になるクマ!!! シャドウに見つかったら殺されるクマよ!?」 わなわなと体を震わせるクマに、陽介は少しひるむ。 このやりとりを見ていたは一歩前に出る。 じろりとクマの目が彼をとらえた。 「クマ、こっちに入れられたと思われる人は霧が出た日、 死体となって発見されてるんだ。 俺達はこの世界が何か関係してるんだと考えている。何か知らないか? 知っていたら教えて欲しい。」 真剣な目のに「うっ………」とクマは言葉を詰まらせた。 陽介とは違い、礼儀正しいに戸惑いつつも、クマはしぶしぶ答えた。 「そっちで霧が出た日は、こっちでは霧が晴れる日クマ。 もしかしたらそっちで死体となって見つかるのは………」 「その、シャドウって奴らに殺されたからなのかっ!?」 陽介が横から口をはさむ。 「たぶんそうクマ。」と答えるクマ。 「くそっ!!!」陽介は言葉を吐き捨てた。そのままクマを見て彼は鋭く叫ぶ。 「何でだ………何で小西先輩がそんな目にあわなきゃいけなかったんだよ!!! おいクマっ!!!何か知ってることがあるなら今すぐ言え!!! この世界に、小西先輩と関係してる場所があるはずだ!!!そこにつれてけっ!!!」 「そっ、そんなこと言われたってクマは何も知らないクマ!!! だいたい君らが人を放り込む犯人じゃないっていう証拠もないクマ!!! クマは言うこと、きかないクマよ。」 「…………ってめぇ!!!さっきから聞いてりゃ犯人呼ばわりしやがって!!! そっちこそ!!!お前が山野アナや小西先輩を殺した犯人じゃないのか!? それに俺達が犯人っていう証拠もないだろうがっ!!!」 「クククククククマを犯人扱いするクマか!?」 「もう二人ともそのへんにしろっ!!!」 にらみ合う二人の間には割って入った。 陽介が口をつぐみ、クマもぷいっと横を向く。 そっぽを向いているクマには言い聞かせるよう言った。 「クマ、俺達は犯人じゃない。クマだって犯人じゃないんだろう? 俺達もこんなことをする犯人を捕まえたいんだ。協力してくれないか?」 の言葉にクマが目だけを動かし呟いた。 「犯人を捕まえるって約束してくれるクマか? 約束してくれないと協力もしないし、この世界からも出してあげないクマ。」 「このクマぁぁぁぁぁーっ!!!」 クマに飛び掛りそうな陽介を制止して、クマににっこり笑っては答える。 「分かった、約束する。」 「………本当に約束するクマね? それじゃあ今からあの場所に行くクマ。 入れられた人間が作り出した、この世界には本当はなかった場所クマよ。 その前に…………。」 クマは二つのメガネを差し出した。 一つは灰色、もう一つはオレンジ。 手に取ってかけてみると、霧が晴れてるように見え、 二人は「おお!!!」と声を上げる。 今まで見えなかったものが見える。 ふとそばに、青い蝶が飛んでいるのが見え、かつて夢で見た青い部屋を思い出す。 老人が言った言葉が頭の中でぐるぐる回る。 "謎を追い、真実へと向かう道へ進んでいくのです。" これが"謎"の入り口なのだろうか。 「おい、ぼっとしてんなよ。行くぞ!!!」 陽介に名前を呼ばれたはハッと我にかえる。 気付けば熊と陽介は少し先のほうにいた。 もしこれが謎への入り口で、真実に向かうための道だというのなら、進んでみようではないか。 はそう思い、二人に向かって駆け出した。 |