「花村君っ!!!」 「花村っ!!!」 「ヨースケェーっ!!!」 「グルルルルル………!!!」 四人が駆けつけると、ちらりと本物の陽介がみんなを見た。 彼は目の前に立つ自分に動揺していて、瞳がゆらゆらと動いていた。 「ぁ……………、。ちが、これは俺じゃないんだ。」 小さく呟かれた言葉に、は眉をひそめた。 あれが陽介の影。 楽しそうに薄ら笑いを浮かべて、らんらんと光る目でこちらを見ていた。 高く笑って彼は本物の陽介へと言葉を投げかける。 「俺じゃないって………?嘘つくなよ。俺はお前だ。 お前の本心だよ。ずっとお前に押さえつけられて窮屈だったけど、やっと出てこれたんだ。 なぁ、ウザイって思ってるのはホントはお前のほうなんだよな?」 くつくつと笑いながら目を細める。 軽蔑したような目で前にいる陽介を見た後、ちらりとに視線を這わせた。 そのまま彼は述べた。 「本当は何もかもウゼーんだよなぁ?田舎暮らしも学校も、ジュネスとかも。 お前がここに来た理由は先輩のためじゃない。 本当の理由は―――――――」 「や、やめろっ!!!」 「何でだよ?本当の理由はテレビの中にわくわくしてたんだよな。 何か新しいことが始まるかもしれないって、思ってたんだろ? 運よく『先輩が死んだ』………なんていう口実もあったことだしなぁー? そう言えば、アイツはテレビの中にお前を連れてきてくれる。 そう思ってたんだろ?」 シャドウ陽介はスッとを指差す。 はキッと鋭くシャドウ陽介を睨んだ。もシャドウ陽介を睨んだまま動かない。 足元のコロマルだって、毛を逆立てて低くうなっている。 合図をすれば、いつでもシャドウ陽介に飛び掛っていきそうな勢いだった。 「俺は………そんなこと……全然…。 、見ないでくれ。コレは俺じゃ………」 この言葉にはハッとした。 シャドウとは、元を辿れば人間が自分の本音を抑圧していた部分。 それを否定するということは、自分自身を否定すること。 そうなればそれらは人間から切り離され、暴走してしまう。 「俺じゃ……………」 「ダメよ花村君!!!自分を否定しちゃだめっ!!!」 は大きく叫ぶが、もはや手遅れだった。 焦った陽介は、全身で目の前にいる自分を否定してしまう。 「俺じゃないんだっ!!!!」 「くっくっくっくっく………ははははははは!!! ようやくお前から解放される―――――――――――っ!!! 邪魔する奴は死ねばいいんだよっ!!!」 シャドウ陽介が闇の力を放った瞬間、本物の陽介は意識を失った。 制御不能となったシャドウは大きく形を変え、とをギロリと見下ろす。 それはまさに、歪んだペルソナ。 ゴルフクラブを握り締めるの肩には手をのせた。 「いい、君。彼を助けるのはあなたよ。」 「え、でも俺にそんなこと…………」 「できる。だってあなたは、ワイルドの力を持ってるんですもの。 大丈夫。クマだってあなたをサポートしてくれるわ。」 後ろを振り返れば、少し遠い位置からクマがガッツのポーズをしてくれる。 は大きく息を吸い込んだ。 そう、一人じゃない。 クマがいてくれて、もう一人の自分だっている。 きっと………やれる。花村を助けることができる。 「も一緒に戦ってくれるのか?」 ふと疑問に思い、彼女にそう問いかけてみれば、は苦笑しながら部屋の入り口を指差した。 そこに視線をうつせば、闘争心むき出しのシャドウたちがこちらを見ている。 クマが小さく悲鳴を上げた。 「野次馬はいらないからね。アレは私とコロマルとで何とかするわ。 君…………花村君を助けてあげてね。」 パチリとウィンクしたあと、はコロマルとともにシャドウの塊へと向かっていった。 は彼女を見送ったあと、目の前にいるシャドウをにらみつけた。 陽介から出た影の部分。 だけどそれは、誰にでもある。 本当のことを思う自分。 それを否定したい自分。 本当の強さは、そんな自分を認めてあげられることができること。 いやな自分を乗り越えていけること。 「花村には………ちゃんとその力があるんだっ!!! うおおおおおおお―――――!!!」 は彼を呼んだ。 もう一人の自分。目の前のシャドウと戦える、自分の力…………。 陽介が目をさますと、視界にみんなの安心した顔があった。 どこかやけに体が重くて、体育で沢山走ったあとのような体のだるさが彼を襲った。 周りを見回せば、自分がテレビの中に入ったときのことを思い出す。 (確か俺は、一人で突っ走って、先輩の心の声を聞いて、そのあと……) ズキンと頭に鈍い痛みが走った。 「陽介、大丈夫か?」と言われてを見たとき、ソレが彼の視界に入った。 さっき否定した、もう一人の自分。 意識を失ったかのように呆然と立っていて、陽介は正直見たくなかった。 ずっとソレを見ていると、陽介の横に誰かが座った。 。 彼女は少し眉を下げて、笑顔を小さく浮かべながら陽介に静かに声をかける。 「花村君の否定したい気持ちはよく分かる。 でもアレは花村君自身だよ。否定された彼だって、すごく傷ついている。 花村君に認めてもらいたい………きっとそう思ってるわ。 大丈夫。私達は知ってるもの。花村君は、アレだけがあなたじゃない………。」 瞳を伏せがちな彼の頭を、は優しくなでてあげた。 そうすると陽介は「ははっ、」と軽く笑ってから、立ち上がる。 シャドウと向き合い彼は言った。 「分かってたさ、ちゃんと。お前は俺だって。 否定したかった。だけどどんだけ否定したって、俺はお前。それは変わらない。 そう、俺はお前、お前は俺だ………。」 陽介の言葉に、シャドウは嬉しそうに頷いた。 青い光が陽介の体にしみこんでいく。 そして黒い影は強き力へと姿を変えた。 困難に立ち向かう力。陽介のペルソナ。名前をジライヤという。 シャドウが消えてから、ガクっと陽介はバランスを失い、膝から崩れた。 みんながびっくりして陽介に駆け寄ると、陽介ははにかみながら小さく呟く。 「ちくしょう、ムズイな。自分と向き合うって。」 そんな彼には手を差し出した。 「お前はちゃんと、自分と向き合えたじゃないか。」と、そう言って。 は微笑みながら二人を見ていた。 そして先ほど外で見つけたボロボロの一枚の写真を見る。 後で陽介に渡さないとと、思いながら………。 クマの力でジュネスに戻ってくれば、ぐしゃぐしゃ顔の千枝がいた。 彼女は散々怒鳴ったあと、涙を浮かべたまま走り去っていく。 千枝が心配してくれたことに罪悪感を覚え、三人の心をは少し重くなった。 「とにかく帰るか。俺、今日はちょっといろいろあって疲れたわ。」 「そうね。二人ともペルソナに目覚めたから、だいぶ体も疲れてるはず。 あ、そうだ君。私今日から君の家に晩御飯つくりに行くから、下の食品売り場によってくれる?」 が急に思いついたように言ったのでは慌てる。 そんなこと、聞いていない。 確かに今まで買い弁だったので栄養は偏っている。 本当は自分で晩御飯が作れればよいのだが、そんな技術持ち合わせていない。 作れるとすれば味噌汁ぐらいだ。 「そんな急に………。確かに家は隣だけど………その……」 菜々子を除いて、同級生の女の子と食事だなんて……。 が冷や汗をたらしているとは怒ったように彼を見つめ、 仁王立ちになり、凄い勢いでまくしたてた。 「あのねぇ、聞いたわよ。遼おじちゃんから。 ずっと買い弁なんだって?そんなんじゃ栄養が偏るわ。 あなたもナナちゃんも成長期なんだからダメよ買い弁ばっかじゃ。 それに私こっちに帰ってきたときは、ずっと遼おじちゃんちに晩御飯作りに行ってるの。 今、うちも叔父さんたちいないし。ほら、食品売り場。 もう遼おじちゃんからお金はもらってるから。」 陽介に視線をうつすと、「いいなぁ転校生!!!」という目つきをされた。 とうとうは折れ、食品売り場へと行くためにエスカレーターを目指して歩き始めた。 はそれを追う。 「じゃーな、お二人さん」と声をかけた花村を振り返り、思い出したように写真を手にした。 「あ!!花村君、これ………。 テレビの中のコニシ酒店の外で見つけたの。多分、花村君にとって、大事なものだと思うから。」 「俺にとって………?」 疑問符を浮かべつつ、陽介は差し出された写真を手に取った。 そこに映っているのは、笑顔の早紀と陽介の二人だけ。 ジュネスで撮った写真だった。 ドクンと大きく、陽介の心臓が跳ねる。 「花村君、私ね、思うんだけど小西先輩は花村君のこと、大切だったんだと思う。」 「は………?なんだよそれ。」 眉をひそめつつ、そう陽介が問えば、はにっこり笑った。 そばで彼女を呼ぶ声がして、は「写真の裏。」とだけ告げると、 を待っていたへと走っていった。 「写真の裏って………。」 ぽりぽり頭をかきながら陽介が写真を裏返す。 すぐにその文字が目に飛び込んできて、陽介は大きく目を開いた。 『ジュネスにて。大好きな花ちゃんとのツーショット。』 早紀の字で、そう綺麗に書かれていた。 「せ、ん…………ぱ……いっ!!!」 陽介は誰もいないテレビの前で泣き崩れる。 溢れる想いが涙となり流れていく。 男は泣かない。だけど今だけは泣かせて欲しいと陽介は何かに願った。 この先は何があっても泣かないと、心に誓いながら…………。 |